この記事で身につくこと
損保数理の教科書は10章あります。分厚く、記号も多く、どこから手をつけるか迷いやすい科目です。この記事を読み終えると、10章の全体像を3つのブロックとして把握でき、自分がいまどのブロックにいるのかを見失わずに学習を進められるようになります。
試験範囲と教科書
2026年度資格試験要領別紙(1) で指定されている教科書は次のとおりです。
| 科目 | 教科書 |
|---|---|
| 損保数理 | 損保数理(日本アクチュアリー会、平成23年2月改訂版) |
| モデリング(日本アクチュアリー会)第1章 |
生保数理のように「第○章を除く」という除外指定はありません。教科書は全章が範囲だと考えてください。モデリングは第1章(回帰分析)のみが指定されています。
なお2027年度以降、この科目は「専門数理2」に改称され、数学のモデリング部分が統合される予定です。2026年度までの損保数理の合格は、専門数理2の合格とみなされます。
10章の地図
教科書の10章は、性格の違う3つのブロックに分かれます。合格へのタクティクスが初級編・中級編・上級編の3部構成をとっているのも、この区分に対応しています。
初級ブロック:料率と統計の土台(第1章・第2章・第5章)
| 章 | 内容 | 性格 |
|---|---|---|
| 第1章 | 損害保険料率の基礎 | 用語と枠組み。四則演算が中心 |
| 第2章 | クレームの分析と予測 | 確率分布が本格的に登場 |
| 第5章 | 支払備金 | 三角表を使った実務的な計算 |
第1章は損保数理の言語を覚える章です。営業保険料、純保険料、既経過保険料、発生保険金、損害率の3つのベーシス、統計の3つの集計方法。ここで定義される言葉が、以降のすべての章で前提として使われます。数学的な難所はほとんどありませんが、用語が曖昧なまま先に進むと後で必ず戻ることになります。
第2章から確率分布が主役になります。指数分布、パレート分布、対数正規分布、複合ポアソン分布。第1章で扱った免責の計算も、ここで分布を変えながら繰り返し登場します。
第5章の支払備金は、チェインラダー法やボーンヒュッター・ファーガソン法といった名前のついた手法を扱います。第1章で触れたLDF(損害進展係数)の考え方が、そのまま本格的な計算になります。
中級ブロック:料率を精緻にする(第3章・第4章・第6章・第7章)
| 章 | 内容 | 前提 |
|---|---|---|
| 第3章 | 経験料率と信頼性理論 | 条件付き確率、ベイズの定理 |
| 第4章 | クラス料率と一般化線形モデル | 最尤法、行列 |
| 第6章 | 積立保険 | 等比数列、現価と終価 |
| 第7章 | 保険料算出原理 | 効用関数、テイラー展開 |
第3章の信頼性理論は、第1章で出てきた信頼度 $Z$ を数学的に基礎づける章です。有限変動信頼性理論、ビュールマン理論、ベイズ理論と段階的に深くなります。第1章で $Z$ の役割を直感的に理解しておくと、この章の見通しが良くなります。
第6章の積立保険は、生保数理の記号(年金現価率、チルメル式)が本格的に出てくる章です。第1章の長期係数で確定年金現価率に触れておくことが、そのまま準備になります。
上級ブロック:リスクを測る(第8章・第9章・第10章)
| 章 | 内容 | 前提 |
|---|---|---|
| 第8章 | 危険理論 | ポアソン過程、積率母関数、マルチンゲール |
| 第9章 | 再保険 | 同時分布、最適化、ラグランジュ乗数法 |
| 第10章 | リスク評価の数理 | 順序統計量、極値分布、コピュラ |
ここが損保数理の山です。破産確率、調整係数、極値理論、リスク尺度。数学的な要求水準が一段上がります。第9章の再保険は第8章の破産確率と繋がっており、第10章は第2章の分布論の発展形です。単独で挑まず、前提となる章を固めてから入るべきブロックです。
学習の順序
素直に第1章から進めて構いませんが、ブロックの意味を意識してください。
- 第1章を丁寧に — ここは急がない。用語と枠組みを固める章で、分量のわりに時間をかける価値があります
- 第2章で分布に慣れる — 指数分布・パレート分布の期待値計算を手で処理できるようにする
- 第5章(支払備金)へ — 第1章のLDFの延長。三角表の計算に慣れる
- 中級ブロック — 第3章から。第1章の信頼度 $Z$ が効いてきます
- 上級ブロック — 前提が揃ってから
各章末の練習問題は必ず解いてください。損保数理は手を動かした量がそのまま得点になる科目です。
数学の前提
章ごとに必要な数学は次のとおりです。高校数学+大学教養レベルで足ります。
| 数学の道具 | 主に使う章 |
|---|---|
| 等比数列・現価と終価 | 第1章、第6章 |
| 積分(部分積分、広義積分) | 第1章、第2章 |
| 確率密度関数と期待値 | 第2章以降ほぼ全章 |
| 条件付き確率・ベイズ | 第3章 |
| 最尤法・行列 | 第4章 |
| 積率母関数 | 第2章、第8章 |
| 順序統計量・極値 | 第10章 |
確率密度関数から期待値を積分で出すという操作が、全章を通じて最も頻繁に使う道具です。ここが不安なら、章を進める前に補強しておく価値があります。
まとめ
- 教科書10章は「初級(1・2・5章)」「中級(3・4・6・7章)」「上級(8・9・10章)」の3ブロックに分かれる。
- 第1章は損保数理の言語を覚える章。数学的には易しいが、ここが曖昧だと全章に響く。
- 上級ブロックは前提となる章が揃ってから入る。第9章は第8章、第10章は第2章の延長にある。