この記事で身につくこと

クレーム額の分布形を仮定したあと、そのパラメータを数値として決める作業がパラメータ推定です。この記事を読み終えると、モーメント法の手順を未知数の個数にかかわらず同じ形で回せるようになり、免責付きのデータが与えられたときに何を等号で結べばよいかを判断できるようになります。

経験推定とパラメトリック推定の記事で扱った最尤法と対にして押さえると、出題設定に応じた使い分けができます。

記号と用語を日本語に直す

記号・用語 日本語
モーメント 確率変数のべき乗の期待値 $E(X)$、$E(X^2)$、$E(X^3)$ など
1次モーメント $E(X)$。平均
2次モーメント $E(X^2)$。分散は $V(X) = E(X^2) - \{E(X)\}^2$
$\bar{x}$ 標本平均。データから計算した平均
$s^2$ 標本分散。$\frac{1}{n}\sum(x_i - \bar{x})^2$
$\mathrm{CV}$ 変動係数。標準偏差 $\div$ 平均

モーメントは「分布の形を表す代表的な数値」だと思っておけば足ります。1次モーメントが位置、1次と2次を組み合わせた分散が広がりを表します。

核になる式:理論とデータを等号で結ぶ

分布のモーメントは、パラメータの式で書けます。平均 $\theta$ の指数分布なら $E(X) = \theta$、パラメータ $\lambda$ の指数分布なら $E(X) = 1/\lambda$ というように。

一方、手元のデータからは標本平均や標本分散が計算できます。この2つを等号で結んで、パラメータについて解く。それがモーメント法です。

未知パラメータが $k$ 個あるなら、低次から順に $k$ 本の方程式を立てて連立させます。慣例として低次から使いますが、連立方程式が解を持つか、解が1つに定まるかは分布ごとに確かめる必要があります。

$$E(X) = \bar{x} = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} x_i$$

$$V(X) = s^2 = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}(x_i - \bar{x})^2$$

3次以上が必要なら $E(X^3)$ と標本3次モーメントを結ぶ、と続けます。

素朴に見えますが、その素朴さが長所です。分布の平均・分散の公式さえ知っていれば、対数も偏微分も使わずに答えが出ます。

数値例1:未知数が1つのとき

クレーム50件の損害額の合計が6,000万円だったとします。損害額 $X$ が

$$f(x) = \lambda e^{-\lambda x} \qquad (0 < x < \infty)$$

の指数分布に従うとして、$\lambda$ を推定します。

未知パラメータは $\lambda$ の1個なので、方程式も1本。いちばん低次の平均を使います。指数分布の平均は $E(X) = 1/\lambda$ です。

標本平均は $\bar{x} = 6{,}000 / 50 = 120$(万円)。等号で結んで

$$\frac{1}{\lambda} = 120 \quad \Longrightarrow \quad \hat{\lambda} = \frac{1}{120} \approx 0.00833$$

割り算しかしていません。推定された密度関数は $\hat{f}(x) = \frac{1}{120}e^{-x/120}$ です。

数値例2:未知数が2つのとき、比を取って1つ消す

標本平均 $\bar{x} = 500$(万円)、標本分散 $s^2 = 750{,}000$ が得られたとします。$X$ が対数正規分布に従うとして、$\mu$ と $\sigma$ を推定します。対数正規分布の平均と分散は

$$E(X) = \exp\left(\mu + \frac{\sigma^2}{2}\right), \qquad V(X) = \left(e^{\sigma^2} - 1\right)\exp\left(2\mu + \sigma^2\right)$$

未知数が2つなので方程式も2本です。

$$\exp\left(\mu + \frac{\sigma^2}{2}\right) = 500 \tag{i}$$

$$\left(e^{\sigma^2} - 1\right)\exp\left(2\mu + \sigma^2\right) = 750{,}000 \tag{ii}$$

$\mu$ と $\sigma$ が両方の式に絡んでいます。ここでの定石は、比を取ることです。

(i) の両辺を2乗すると $\exp(2\mu + \sigma^2) = 250{,}000$。これは (ii) の右側の因子そのものです。したがって (ii) を (i) の2乗で割れば

$$e^{\sigma^2} - 1 = \frac{V(X)}{\{E(X)\}^2} = \frac{750{,}000}{250{,}000} = 3$$

$\mu$ が消えました。右辺の $V(X)/\{E(X)\}^2$ は変動係数の2乗です。対数正規分布では、ばらつきの相対的な大きさだけで $\sigma$ が決まる——この構造を覚えておくと速くなります。

$e^{\sigma^2} = 4$ の対数を取って

$$\hat{\sigma}^2 = \log 4 = 2\log 2 = 1.3863, \qquad \hat{\sigma} \approx 1.1774$$

(i) に戻します。$\log 500 = 3\log 10 - \log 2 = 6.9078 - 0.6931 = 6.2147$ なので

$$\hat{\mu} = 6.2147 - \frac{1.3863}{2} = 5.5216 \approx 5.52$$

答えは $\hat{\mu} \approx 5.52$、$\hat{\sigma} \approx 1.18$ です。

なお、$\mu$ は $\log X$ の平均であって $X$ の平均ではありません。$e^{5.5216} \approx 250$ で、$X$ の平均500とは一致しません。差の $e^{\sigma^2/2}$ が右に長い裾の効果です。記号に引きずられて $\hat{\mu} = \bar{x}$ としないよう気をつけてください。

免責が付いたとき:何と何を結ぶのか

試験でよく問われるのが、手元のデータが損害額そのものではない設定です。

損害額 $X$ がパレート分布 $f(x) = q x^{-(q+1)}$($x > 1$)に従い、エクセス方式の免責金額が4のとき、支払のあった12件の支払額(損害額から免責金額を引いた額)が

$$3,\ 5,\ 6,\ 8,\ 9,\ 11,\ 14,\ 18,\ 22,\ 27,\ 34,\ 35$$

だったとします。$q$ を推定します。

ここが急所です。モーメント法で結ぶ2つの量は、同じものの平均でなければ意味がありません。

記録されているのは、支払があった事故についての支払額だけです。免責以下の事故は記録に残っていません。したがって観測されているのは「$X > a$ という条件のもとでの $X - a$」であり、これを $Y$ と書きます。理論側も、この条件付きの平均に揃えなければなりません。

混同しやすいのが、全事故を含めた無条件の支払額 $W = \max(X - a,\ 0)$ です。こちらは免責以下の事故を「支払0」として数えるので、$E(W) = \int_a^{\infty}(x-a)f(x)dx$ となり、$E(Y)$ とは別の量になります。どちらのデータが与えられているかで、結ぶ相手が変わります。

まず、損害が免責を超える確率は

$$S(a) = P(X > a) = \int_a^{\infty} q t^{-(q+1)} dt = a^{-q}$$

条件付き期待値の定義から

$$E(Y) = E(X - a \mid X > a) = \frac{\int_a^{\infty}(x - a)f(x)dx}{S(a)}$$

分子が $E(W)$、それを $S(a)$ で割ると $E(Y)$ になる、という関係です。

分子を2つに分けて計算します($q > 1$ で収束します)。

$$\int_a^{\infty} x \cdot q x^{-(q+1)} dx = \frac{q a^{1-q}}{q-1}, \qquad \int_a^{\infty} a \cdot q x^{-(q+1)} dx = a \cdot a^{-q} = a^{1-q}$$

差を取ると $a^{1-q}\left(\frac{q}{q-1} - 1\right) = \frac{a^{1-q}}{q-1}$。これを $S(a) = a^{-q}$ で割って

$$E(Y) = \frac{a}{q - 1}$$

免責金額 $a$ に比例する、きれいな形になりました。免責を上げるほど、支払われる1件あたりの平均額も比例して大きくなる、という性質です。

標本平均は $\bar{y} = 192/12 = 16$。$a = 4$ を代入して

$$\frac{4}{q-1} = 16 \quad \Longrightarrow \quad \hat{q} = 1.25$$

$\hat{q} = 1.25$ は $1 < q \leq 2$ の範囲なので、平均は存在するが分散は存在しない分布ということになります。巨大損害のリスクが大きい種目では、こういう推定値が出ることは珍しくありません。

試験ではこう出る

  • 分布と標本平均(と標本分散)を与えて、パラメータを推定させる形
  • 免責やてん補限度額が付いたデータから推定させる形
  • モーメント法と最尤法の両方で推定し、結果を比較させる形

指数分布のようにパラメータが1個の分布では、モーメント法と最尤法の答えが一致します。どちらも「標本平均を平均に合わせる」ことになるからです。一致するかどうかを問う正誤問題もあるので、この事実は押さえておく価値があります。

つまずきポイント:どのモーメントを使うか

モーメント法の弱点は、どのモーメントを使うかで答えが変わることです。1次と2次を使うか、1次と3次を使うかで、別の推定値になります。慣例として低次から順に使いますが、それは慣例であって理論的な必然ではありません。

また、パレート分布のように高次モーメントが存在しない分布では、使えるモーメントが限られます。上の例で $\hat{q} = 1.25$ が出たら、分散を使った推定はそもそもできません。

また、サンプル数が十分大きいときの推定量のばらつきで比べると、最尤法のほうが小さくなることが知られています(最尤推定量が漸近有効であるため)。有限のデータで常に最尤法が勝つという意味ではありませんが、計算が軽いぶん精度では譲る——そういう位置づけの手法だと理解しておくと、使い分けの判断がつきます。

まとめ

  • モーメント法は、理論上のモーメント(パラメータの式)と標本モーメント(データの値)を等号で結んで解くだけ。
  • 未知数が $k$ 個なら低次から $k$ 本の方程式を立てて連立する。
  • 未知数が2つで絡み合っているときは、比を取ると片方が消える。対数正規分布では $V(X)/\{E(X)\}^2$ が変動係数の2乗になり、$\sigma$ だけの式になる。
  • 免責付きのデータでは、理論側も「支払があったクレームの支払額の平均」——条件付き平均——に揃える。パレート分布なら $E(X-a \mid X>a) = a/(q-1)$。無条件の $E\left[\max(X-a,0)\right]$ とは別物。
  • 長所は計算の軽さ、短所はどのモーメントを使うかで答えが変わることと、高次モーメントが存在しない分布で使えないこと。