その名前をどこで見るか

スクラーの定理として出てきます。損保数理の第10章、コピュラの導入部です。

主張はこうです。2つの確率変数 $X$、$Y$ の同時分布関数 $H(x,y)$ に対して、

$$H(x, y) = C\left(F_X(x),\, F_Y(y)\right)$$

を満たす関数 $C$ が存在する。$F_X$、$F_Y$ はそれぞれの周辺分布関数で、$C$ をコピュラといいます。周辺分布が連続なら、この $C$ は一意に決まります。

言葉にすれば、同時分布は「それぞれの分布」と「結びつけ方」に分解できる、ということです。逆向きも成り立ちます。どんな周辺分布とどんなコピュラを持ってきても、それらを組み合わせた同時分布が作れます。

なぜこの定理が重要なのか

保険のリスクを2つ並べて考えるとき、次の2つの問いは本来は別のものです。

  • 火災保険の損害額はどんな分布か。自動車保険の損害額はどんな分布か
  • その2つはどれだけ連動するか

ところが、多変量正規分布のような既存の道具を使うと、この2つが一体で決まってしまいます。周辺分布は正規分布でなければならず、従属の強さは相関係数ひとつで表される。現実には、片方が対数正規分布で片方がパレート分布、しかも裾でだけ強く連動する、といった状況がありえます。既存の枠組みでは表現できません。

スクラーの定理は、この制約を外してよいと保証します。周辺分布はそれぞれ実データに合うものを選び、連動の仕方はコピュラで別に指定する。組み合わせは自由で、しかもその組み合わせは必ず正当な同時分布になる。モデリングの自由度が一気に広がりました。

コピュラは順位の世界に住んでいる

コピュラ $C$ の引数は $F_X(x)$ と $F_Y(y)$、つまり $[0,1]$ の値です。確率変数を累積分布関数で変換すると一様分布になるので、コピュラは「一様分布に直した後の世界」で従属を記述していることになります。

この変換は順序を保つので、コピュラは値の大きさを見ません。順位だけを見ます。だからケンドールとスピアマンの記事で扱った順位相関が、コピュラのパラメータと1対1に対応するのです。第10章でこの2つが並んで出てくるのは偶然ではありません。

記号の読み分けの記事で触れたとおり、コピュラの引数は $u$、$v$ と書かれます。第8章の初期サープラス $u$ とは別物なので、章が変わったら意味も切り替えてください。

どんな人だったか

エイブ・スクラー(Abe Sklar)は20世紀アメリカの数学者です。1959年にこの定理を発表しました。当時は確率距離空間の研究の一部として提示されたもので、保険や金融への応用が広がったのは1990年代以降のことです。

理論が生まれてから実務で使われるまでに30年以上かかっている。ワン変換の記事で触れた1990年代後半という時期と重なりますが、金融・保険の分野でリスクの相互依存が意識されるようになって初めて、この定理の価値が認識されたということです。

試験ではこう出る

スクラーという名前そのものが出るのは過去問26年度分のうち1年度ですが、コピュラは13年度に登場します。定理の名前より、具体的なコピュラの性質が問われます。

  • クレイトン・コピュラやグンベル・コピュラのパラメータからケンドールの $\tau$ を求めさせる形(クレイトンなら $\alpha/(\alpha+2)$、グンベルなら $1-1/\alpha$)
  • 独立コピュラ、完全従属のコピュラといった特別な場合の性質を問う形
  • 上側・下側の裾従属係数を計算させる形
  • コピュラと周辺分布から同時確率を計算させる形

型ごとの性質は覚えるしかない部分です。クレイトンは下側の裾で強く連動し、グンベルは上側で強く連動する。保険で怖いのは損害が同時に大きくなる側なので、グンベル・コピュラのほうが実務的な関心を集めます。この対応を頭に入れておくと、問題文の文脈から型を推測できます。

まとめ

  • スクラーの定理は、同時分布が「周辺分布」と「コピュラ(結びつけ方)」に必ず分解できることを保証する。
  • おかげで、周辺分布は実データに合うものを自由に選び、連動の仕方は別に指定できる。多変量正規分布の制約から解放される。
  • コピュラの引数は $[0,1]$ の値なので、コピュラは順位の世界で従属を記述する。だから順位相関と1対1に対応する。
  • エイブ・スクラーは20世紀アメリカの数学者。1959年の定理が保険・金融で広く使われ始めたのは1990年代以降。
  • 試験では定理名より個別のコピュラの性質が問われる。クレイトンは下側、グンベルは上側の裾で強く連動する。