その名前をどこで見るか

ケンドールの $\tau$(タウ)とスピアマンの $\rho$(ロー)として出てきます。損保数理の第10章、コピュラとリスク評価の文脈です。

どちらも2つの確率変数の従属の強さを $-1$ から $1$ の範囲で測る指標ですが、測り方が違います。

ケンドールの $\tau$ は、2組のデータを取り出して「両方とも同じ向きに大きいか(協和)」「片方だけ大きいか(不協和)」を数え、その差を確率で表したものです。

$$\tau = P(\text{協和}) - P(\text{不協和})$$

スピアマンの $\rho$ は、値そのものではなく順位に置き換えてから、通常のピアソンの相関係数を計算したものです。

共通しているのは、値の大きさではなく順序だけを見ることです。

順位で測ると、何が良いのか

損保数理でこの2つが主役になる理由は、コピュラとの相性にあります。

コピュラは、複数のリスクの従属構造を、それぞれの分布の形から切り離して扱うための道具です。各確率変数を累積分布関数で $[0,1]$ の一様分布に変換してから、その間の結びつきだけを取り出します。この変換は順序を保つので、順位に基づく指標は変換の前後で変わりません。

ここが決定的です。ピアソンの相関係数は、分布の形が変わると値が変わってしまいます。同じ従属構造でも、片方を対数変換しただけで相関係数は動く。一方、ケンドールの $\tau$ とスピアマンの $\rho$ は動きません。だからコピュラのパラメータと1対1に結びつけられます。

タクティクスの問題文にある「クレイトン・コピュラのケンドールの $\tau$ は $\alpha/(\alpha+2)$ で表される」は、まさにこの関係です。コピュラのパラメータ $\alpha$ を与えれば $\tau$ が決まり、逆に $\tau$ を測ればパラメータが決まる。この往復が第10章の計算の骨格になります。

どんな人だったか

モーリス・ケンドール(Maurice Kendall)は20世紀イギリスの統計学者です。統計学の体系的な教科書『The Advanced Theory of Statistics』の著者として知られ、順位相関係数 $\tau$ を1938年に提案しました。ランダム性の検定や時系列の研究でも足跡を残しています。

チャールズ・スピアマン(Charles Spearman)はやや年上の、イギリスの心理学者です。統計学者ではなく心理学者である点が面白いところで、知能の研究——複数のテスト成績の背後に共通の因子があるという仮説——から因子分析を生み出した人物でもあります。順位相関係数は、その研究の過程で1904年に導入されました。

保険数理の教科書に、統計学者と心理学者の名前が並んでいる。もとの動機は所得でも保険でもなく、片方は統計理論、片方は知能の測定でした。

なぜその概念が必要になったか

保険会社が複数の種目を扱うとき、リスクは独立ではありません。台風は火災保険と自動車保険の両方に損害をもたらしますし、景気の悪化は複数の種目の損害率を同時に押し上げます。

問題は、この連動を相関係数だけで測ると、肝心なところを見落とすことです。相関係数は分布の中心付近での直線的な関係をよく測りますが、両方が同時に極端な値を取る確率——裾の従属——はほとんど反映しません。保険会社にとって本当に怖いのは、まさにその同時発生です。

そこで、分布の形に左右されない順位ベースの指標と、裾の構造まで表現できるコピュラを組み合わせる。第10章がこの2つを並べて扱うのは、そのためです。

試験ではこう出る

過去問26年度分のうち、ケンドールは10年度、スピアマンは3年度に登場します。タクティクスの本文でもケンドールの $\tau$ への言及が多く、コピュラの節の中心にあります。

  • コピュラのパラメータからケンドールの $\tau$ を計算させる形(クレイトン、ガンベルなど)
  • 逆に $\tau$ の値からパラメータを逆算させる形
  • 少数のデータ組から $\tau$ を定義どおり数えさせる形
  • ピアソンの相関係数との違いを問う正誤形式

定義どおり数える問題は、組の数が増えると時間を食います。$n$ 個のデータなら組は $n(n-1)/2$ 個です。タクティクスの解説が「公式解答の解き方は時間がかかる上、間違いやすい」と断ったうえで別の数え方を示しているのは、この計算量の問題があるからです。順位を並べ替えてから数える、といった工夫を持っておくと安全です。

まとめ

  • ケンドールの $\tau$ は協和と不協和の確率の差、スピアマンの $\rho$ は順位に直したピアソン相関。どちらも順序だけを見る。
  • 順位ベースなので、分布の形を変える変換をしても値が変わらない。だからコピュラのパラメータと1対1に対応する。
  • モーリス・ケンドールは20世紀イギリスの統計学者、チャールズ・スピアマンは知能研究から因子分析を生んだ心理学者。
  • 過去問26年度分のうち、ケンドールは10年度、スピアマンは3年度。コピュラのパラメータとの往復が主な出方。
  • 定義どおり数える問題は組の数が $n(n-1)/2$ で増える。数え方の工夫を用意しておく。