この記事で身につくこと
損保数理の本試験では、問題文の冒頭に「予定損害率 $p$」「予定新契約費率 $\alpha$」……という表が唐突に置かれ、そこから計算が始まります。この表は毎年ほぼ同じ形で出てくるので、記号の意味を一度きちんと整理しておくと、以降の章がまとめて楽になります。この記事を読み終えると、5つの記号が保険料のどの部分を指すのか、そしてなぜ5つを足すと $1$ になるのかを、自分の言葉で説明できるようになります。
記号と用語を日本語に直す
私たちが普段「保険料」と呼んで保険会社に支払っているお金は、専門用語では営業保険料(Gross Premium)と呼びます。営業保険料は、その使い道によって大きく2つに分かれます。
| 用語 | 英語 | 何に使われるか |
|---|---|---|
| 営業保険料 | Gross Premium | 契約者が実際に支払う総額 |
| 純保険料 | Pure Premium | 将来の保険金支払いに充てる部分(「危険保険料」とも呼びます) |
| 付加保険料 | Loading | 保険会社の運営経費・代理店手数料・利潤に充てる部分 |
付加保険料の中身は、さらに社費(人件費・システム費・オフィス賃料など)、代理店手数料、利潤に分かれます。
ここで、教科書の言葉と試験の記号がずれます。先に対応を押さえてください。
| 試験の記号 | 呼び名 | 保険料のどの部分か |
|---|---|---|
| $p$ | 予定損害率(純保険料率) | 純保険料。保険金の支払いに回る割合 |
| $\alpha$ | 予定新契約費率 | 社費のうち、契約を取った初年度だけかかる分 |
| $\beta$ | 予定維持費率 | 社費のうち、毎保険年度かかる分 |
| $\theta$ | 予定代理店手数料率 | 代理店手数料 |
| $\delta$ | 利潤率 | 利潤 |
教科書が「社費」とひとまとめにしている部分が、試験では初年度だけかかる新契約費 $\alpha$ と毎年かかる維持費 $\beta$ に割られます。長期契約や解約に関する問題ではこの区別がそのまま計算に効いてくるので、$\alpha$ と $\beta$ を混ぜないでください。
$\beta$ の呼び名には注意が必要です。本試験の問題文は「予定維持費率」と書きます。$\alpha$ と $\beta$ を合わせたものが事業費(社費)なので、$\beta$ だけを「予定事業費率」と呼ぶと $\alpha + \beta$ と紛らわしくなります。
$$\text{事業費(社費)} = \text{新契約費} + \text{維持費} \quad\Longrightarrow\quad \text{事業費率} = \alpha + \beta$$
なお $p$ は、問題によって「予定損害率」と書かれることも「純保険料率」と書かれることもあります。同じものを指しています。
核になる式:なぜ足すと1になるのか
出発点は、次の1行です。
$$\text{営業保険料} \;=\; \text{純保険料} \;+\; \text{付加保険料}$$
「積」ではなく「和」です。ここを取り違えると以降の計算がすべて崩れます。
付加保険料の内訳まで開いてみましょう。営業保険料を $P$ とすると、
$$P \;=\; \underbrace{pP}_{\text{純保険料}} \;+\; \underbrace{\alpha P + \beta P + \theta P + \delta P}_{\text{付加保険料}}$$
と書けます。$p, \alpha, \beta, \theta, \delta$ がいずれも営業保険料 $P$ に対する割合として定義されているからです。両辺を $P$ で割れば、
$$p + \alpha + \beta + \theta + \delta = 1$$
が出ます。これが予定料率構成割合と呼ばれるものです。導出はこれだけですが、実用上の価値があります。問題文の表を見たらまず5つを足してみて、$1$ にならなければ読み違えているという検算に使えるからです。
ただし、この分解が成り立つのは保険期間1年の契約、より正確には5つの率がすべて同じ営業保険料を分母として定義されている場合です。保険期間が $n$ 年に伸びると、$\alpha$ は契約時に1回だけ、$\beta$ は毎保険年度と、支出のタイミングがずれます。長期一時払契約の保険料を $P'$ と置いて $P' = pP' + \alpha P' + \beta P' + \cdots$ と書くことはできません。ここが次に出てくる長期係数の計算の中身そのものです。
数値例
営業保険料が10,000円、構成割合が $p = 50\%,\ \alpha = 20\%,\ \beta = 10\%,\ \theta = 10\%,\ \delta = 10\%$ の商品を考えます。
| 区分 | 割合 | 金額 |
|---|---|---|
| 純保険料 | $p = 50\%$ | 5,000円 |
| 新契約費 | $\alpha = 20\%$ | 2,000円 |
| 維持費 | $\beta = 10\%$ | 1,000円 |
| 代理店手数料 | $\theta = 10\%$ | 1,000円 |
| 利潤 | $\delta = 10\%$ | 1,000円 |
| 営業保険料 | 100% | 10,000円 |
純保険料が5,000円、付加保険料が $2{,}000 + 1{,}000 + 1{,}000 + 1{,}000 = 5{,}000$ 円。合計10,000円で、確かに営業保険料に一致します。
10,000円のうち、保険金の財源として見込まれているのは5,000円ということです。残りの半分は、会社を動かし、売ってくれた代理店に払い、事業を続けるための利益に充てられます。ここでいう5,000円は予定料率上の見込みであって、その契約者の10,000円から物理的に5,000円が切り分けられるわけではありません。保険料は集団でプールされ、実際の保険金は事故の発生状況で上下します。
保険が「掛け捨てで損」と言われがちな理由も、この分解を見れば構造として理解できます(もっとも、保険の価値は損害を集団に移転できることにあるので、保険金を受け取らなかったことだけで損得が決まるわけではありません)。
試験ではこう出る
この構成割合は、それ自体を答えさせる形ではなく、計算問題の前提として与えられるのが典型です。
- 2019.1-1 — $p = 50\%,\ \alpha = 20\%,\ \beta = 10\%,\ \theta = 15\%,\ \delta = 5\%$ の表が与えられ、保険期間5年の長期一時払契約の長期係数と、第3保険年度末に解約したときの未経過料率係数を求めさせる。
- H29.1-2 — 純保険料126、新契約費48、維持費24、代理店手数料18、利潤24、計240という金額の表が与えられる(割合に直せば $p = 0.525,\ \alpha = 0.2,\ \beta = 0.1,\ \theta = 0.075,\ \delta = 0.1$)。保険期間1年と2年の契約が同数あるときの「保険料収入全体に占める純保険料の割合」を求めさせる。
どちらの問題にも「新契約費は初保険年度のみ支出され、維持費はすべての保険年度において支出される」「代理店手数料および利潤は営業保険料に比例する」という条件が添えられています。この条件文が、まさに $\alpha$ と $\beta$ を分けて定義する理由そのものです。保険期間が $n$ 年に伸びると、$\alpha$ は1回しか登場しないのに $\beta$ は年数分登場する——この非対称性が長期係数の計算の中身になります。
つまり、この記事の内容は暗記事項ではなく、第1章の長期係数・未経過係数の問題を解くための前提です。ここが曖昧なまま先に進むと、長期係数の式を丸暗記するしかなくなります。
つまずきポイント:付加保険料は「純保険料に足す」のではない
最後に、式の形そのものを取り違える誤りを1つ潰しておきます。
付加保険料率が30%と言われたとき、純保険料に1.3を掛ければ営業保険料になる——という筋は誤りです。
$$P = \text{純保険料} \times (1 + 0.3) \qquad (\text{誤り})$$
構成割合はすべて営業保険料に対する割合として定義されています。付加保険料率30%というのは「営業保険料の30%が付加保険料」という意味であって、「純保険料の30%」ではありません。したがって純保険料は営業保険料の70%にあたり、正しくは割り算になります。
$$P = \frac{\text{純保険料}}{1 - 0.3}$$
数値で確かめます。純保険料が7,000円なら、
$$\frac{7{,}000}{0.7} = 10{,}000$$
掛け算だと $7{,}000 \times 1.3 = 9{,}100$ で足りません。営業保険料10,000円のうち付加保険料は3,000円で、確かに30%になっています。分母に来るか分子に来るかは、その率が何に対する割合として定義されているかで決まります。
この構造は、収支相等の式で $P = r + e + (\theta+\delta)P$ を解いたときに $1-(\theta+\delta)$ が分母に現れるのとまったく同じことです。営業保険料に比例する費目は、移項すると分母に行く。ここを押さえておけば、長期係数の式に出てくる分母の $1-(\theta+\delta)$ を丸暗記せずに済みます。
まとめ
- 営業保険料 = 純保険料 + 付加保険料。積ではなく和。
- 構成割合はいずれも営業保険料に対する比なので $p + \alpha + \beta + \theta + \delta = 1$。表を見たらまず足して検算する。
- $\beta$ は「予定維持費率」。事業費(社費)は $\alpha + \beta$ の両方を指す。
- 営業保険料に比例する費目($\theta, \delta$)は、移項すると分母に行く。掛け算ではなく割り算。