この記事で身につくこと
保険料は「料率 × 何か」で決まります。この「何か」を選ぶのが、料率算定のいちばん最初の仕事です。この記事を読み終えると、料率測定単位が満たすべき条件を自分の言葉で挙げられるようになり、賠償責任保険が売上高を単位に選ぶ理由を「インフレに対して自動的に調整が効くから」と式で説明できるようになります。
記号と用語を日本語に直す
まず3つの言葉を区別します。ここを混ぜると、後の章のミニマムバイアス法やGLMで必ず詰まります。
| 用語 | 英語 | 意味 |
|---|---|---|
| ロス・エクスポージャ | Loss Exposure | 損失が発生しうる対象そのもの(建物、自動車、被保険者、事業活動など) |
| 料率測定単位 | Exposure Unit | 保険料率を適用するときの基本単位(1棟、1台、売上高1万円など) |
| 危険標識 | Rating Variable | 危険度を区分するための属性(建物の構造、所在地、用途、運転者の年齢など) |
「建物の構造・所在地・用途」は危険標識であって、ロス・エクスポージャではありません。危険にさらされている対象は建物そのもので、構造や用途はその建物の危険度を評価するための属性です。
この区別は、そのまま本試験の問題文の言い回しになっています。
地域(都市か郊外か)および構造(耐火か非耐火か)の二つの危険標識で複合的に区分されている。……<エクスポージャ($E_{ij}$)> 都市 560/440、郊外 200/300(2024.1、H27.1 など)
危険標識が表の行と列を作り、エクスポージャがそのマス目に入る数です。この形はミニマムバイアス法・GLMの問題でほぼ毎年出てきます。
保険種目ごとに、実際に使われている単位はこうなっています。
| 保険種目 | 主な料率測定単位 |
|---|---|
| 自動車保険 | 台数、走行距離 |
| 傷害保険 | 人数 |
| 火災保険 | 建物棟数、保険金額 |
| 海上保険 | 航海数、保険金額 |
| 賠償責任保険 | 売上高、給与総額、延べ床面積 |
賠償責任保険では、事業活動の規模を表す金額(売上高・給与総額)が単位に使われている点に注目してください。ここが後で効いてきます。金額を単位にすること自体は賠償責任保険に限らず、火災保険・海上保険の「保険金額」も金額です。逆に賠償責任保険でも延べ床面積のような非金額の単位が使われます。種目で決まるのではなく、何が危険の大きさをよく表すかで選ばれるということです。
良い「ものさし」の条件として、代表的には次の3つが挙げられます。
- 危険度の反映 — 危険の大小を正確に反映すること
- 測定の容易性 — 保険会社にとって確認や測定が簡単で、客観的に検証できること
- 操作の困難性 — 契約者が数字をごまかしたり操作したりしにくいこと
核になる式:なぜ「金額」を単位にするのか
保険料収入は、次の1行で決まります。
$$\text{保険料収入} = \text{料率} \times \text{エクスポージャ数}$$
いま物価が $f$ 倍になったとします。修理費も治療費も $f$ 倍になるので、支払う保険金は $f$ 倍に増えます。このとき保険料収入がどうなるかは、エクスポージャ数がインフレでどう動くかだけで決まります。
エクスポージャが「建物の面積」なら、物価が上がっても面積は変わりません。
$$\text{保険料収入} = \text{料率} \times \text{面積} \quad(\text{変わらない})$$
料率を改定しない限り、収入は据え置きのまま支払いだけが $f$ 倍になります。
一方、エクスポージャが「売上高」なら、物価上昇にともなって企業の売上高も名目額として上がっていきます。仮に売上高が同じ $f$ 倍になったとすると、
$$\text{保険料収入} = \text{料率} \times (f \times \text{売上高}) = f \times (\text{料率} \times \text{売上高})$$
料率を1円も変えていないのに、保険料収入が $f$ 倍になりました。増えた保険金支払いに、そのまま対応できています。良い「ものさし」の条件に、実質的な4つ目として「インフレへの耐性」が加わると考えてください。
ただし、これは「売上高が損害額と同じ率で動く」という仮定の上の話です。実際には売上高は販売数量や価格転嫁の可否にも左右され、賠償責任保険の損害額は賠償額の高額化や訴訟費用にも動かされるので、両者の上昇率が一致する保証はありません。追随が完全ではないから、料率の検証と改定は別途必要になります。売上高や給与総額が選ばれる理由も、インフレ追随性だけでなく、事業規模や活動量との関連が強いことが併せて効いています。
数値例
延べ床面積10,000平方メートルの工場に、2つの料率体系を当てはめます。物価が20%上がった($f = 1.2$)ときに何が起きるかを比べます。
| 単位 | 当初 | 物価20%上昇後 | |
|---|---|---|---|
| A社 | 面積1平方メートルあたり100円 | $100 \times 10{,}000 = 100$万円 | $100 \times 10{,}000 = 100$万円 |
| B社 | 売上高の0.5% | $5$億円 $\times 0.5\% = 250$万円 | $6$億円 $\times 0.5\% = 300$万円 |
想定していた保険金が当初200万円だったとすると、物価上昇後は240万円になります。A社は収入100万円のまま支払いが240万円に増え、料率を改定しない限り赤字が拡大します。B社は収入が250万円から300万円に増え、支払いの増加に自動的に追随しています。
面積は「測定が容易」で「操作が困難」という条件は満たしていますが、インフレには無力だということです。
試験ではこう出る
料率測定単位そのものの定義を答えさせる出題は、平成12年度以降の損保数理にはほとんどありません。単位は、計算問題の中で「何で割るか」という形で現れます。一方、危険標識とエクスポージャのほうは、ミニマムバイアス法や一般化線形モデルの問題で毎年のように表の形で登場します(「エクスポージャ」は26年度中18年度に出現)。
- 2018.1-I — 自動車保険の契約台数・保険料収入・支払保険金が3年度分与えられ、料率改定と補償縮小をはさんだうえで3か年通算のリトンベーシス損害率を求めさせる。ここで「契約1台あたりの保険料」を出す場面があり、保険料収入を契約台数で割るという操作をします。この「台数」がまさに料率測定単位です。
この問題では、直近年度の保険料収入を契約台数で割って1台あたりの保険料を出し、それを3年度分の台数合計に掛け直すことで、料率水準を揃えた保険料収入を作ります。料率測定単位が「1台」だと決まっているからこそ、この揃え方ができます。
つまり、この記事の内容は暗記事項ではなく、料率改定の計算で分母を間違えないための前提です。
つまずきポイント:エクスポージャは「事故の数」ではない
料率測定単位は、リスクにさらされている量であって、事故が起きた数ではありません。
$$\text{料率測定単位} = \text{リスクにさらされた量}\ (\text{契約台数・売上高など})$$ $$\text{クレーム件数} = \text{実際に事故が起きた数}$$
この2つを混同すると、クレーム頻度の式が壊れます。頻度は
$$F = \frac{\text{クレーム件数}}{\text{エクスポージャ量}}$$
で、分母がエクスポージャ、分子がクレーム件数です。分母と分子を同じものだと思ってしまうと、頻度が必ず1になってしまいます。
分母を「契約件数」と覚えないでください。1年契約を件数で数える単純な設定ならそれで足りますが、自動車保険なら台数年、賠償責任保険なら売上高や給与総額が分母になります。保険期間の違う契約を1件ずつ数えると、リスクにさらされた時間の差が消えてしまいます。
もうひとつ、インフレとの関係の向きも取り違えやすいところです。売上高を単位にするのは「インフレで保険料が上がるのを防ぐため」ではなく、「インフレによる支払い増に自動的に追随するため」です。正誤問題でこの向きを逆にした選択肢が出たら、迷わず誤りと答えてください。
まとめ
- ロス・エクスポージャは危険にさらされている対象そのもの。構造・所在地・用途は危険標識で、別の概念。
- 料率測定単位は代表的には「危険度を反映し、測定が容易で、操作が困難」の3条件を満たす必要がある。
- 単位を金額(売上高など)にすると、インフレ時に保険料収入が一定程度追随する。面積や台数にはこの性質がない。
- エクスポージャ(リスクにさらされた量)とクレーム件数(事故の数)は別物。頻度の式では分母と分子に分かれる。