この記事で身につくこと

損害率は「保険金 ÷ 保険料」です。定義はこれだけなのに、実務でも試験でも3種類が使い分けられています。この記事を読み終えると、3つのベーシスの分母と分子を即座に言えるようになり、急成長中の会社でリトン・ベーシスの損害率がどちら向きにずれるのかを、理由つきで説明できるようになります。

記号と用語を日本語に直す

まず基本の定義です。

$$\text{損害率} = \frac{\text{保険金}}{\text{保険料}}$$

分子に損害調査費を含めるかどうかで呼び方が変わります。

用語 分子
損害率 保険金(米国などでは損害調査費を含めるのが一般的)
純損害率 損害調査費を含めない、純粋な保険金のみ

そのうえで、料率算定で使う代表的な取り方が3通りあります。

ベーシス 分子 分母
リトン 当年度に支払った保険金 当年度に計上した保険料
ポリシー・イヤー 当該年度の契約群に係る最終損害額(支払済+未払+IBNR) 当該年度の契約の保険料合計
アーンド 発生保険金(支払保険金+支払備金の増減) 既経過保険料

英語名を見ると対応がはっきりします。リトンは Paid-to-Written、アーンドは Incurred-to-Earned です。この3つでは分子と分母がそれぞれ決まった相手とペアで動くのがポイントで、「発生保険金 ÷ 計上保険料」のような混ぜ方はしません。

(実務の分析では、目的に応じて他の組み合わせを使うこともあります。ただしその場合は標準的な名前を持たないので、分子・分母が何を指すのかを毎回定義したうえで使います。試験で「リトン」「アーンド」と書かれていたら、上の表の対応で読んでください。)

アーンドの分子に入るのは、支払済の保険金だけではありません。

$$\text{発生保険金} = \text{支払保険金} + (\text{期末支払備金} - \text{期首支払備金})$$

で、まだ払っていない見込額(IBNRを含む)も入ります。リトンの分子が「当年度に支払った額」であるのと、ここが決定的に違います。

核になる式:ずれはどこから来るのか

3つの違いは、分母と分子が「同じ集団」「同じ期間」を見ているかどうかに集約されます。

リトン・ベーシスを考えます。分母の計上保険料は、契約した瞬間に全額が立ちます。一方、分子の支払保険金は、事故が起きて解決してから出ていきます。賠償責任保険のように解決まで年単位かかるものでは、この時間差が大きくなります。

いま保険料収入が毎年 $g$ 倍のペースで成長しているとします。当年度の計上保険料を $W$、支払保険金の元になっている契約が $k$ 年前のものだとすると、その頃の保険料規模は $W / g^k$ でした。予定損害率を $E$ とすれば、

$$\text{リトン・ベーシス損害率} \approx \frac{E \times W / g^{k}}{W} = \frac{E}{g^{k}}$$

となります。$g > 1$(成長中)なら $g^k > 1$ なので、基礎となる契約群の損害率 $E$ よりも低く(良く)出ます。逆に規模を縮小している会社($g < 1$)では高く(悪く)出ます。

この式は、リトン・ベーシス損害率をそのまま料率算定に使えない理由を表しています。会社の成長スピードという、リスクとは無関係な要因で損害率が動いてしまうからです。

アーンド・ベーシスは、分母を「その年度にリスクが経過した分だけの保険料」、分子を「その年度に発生した事故の損害額」に揃えます。どちらも同じ期間に対応しているので、成長スピードの影響を受けません。

数値例

保険料収入が毎年2倍に成長している会社を考えます。予定損害率は60%、事故の支払いは2年前の契約分が出ていくものとします。

年度 計上保険料 支払保険金(2年前の契約分) リトン・ベーシス損害率
第1年度 100
第2年度 200
第3年度 400 $100 \times 0.6 = 60$ $60 / 400 = 15\%$
第4年度 800 $200 \times 0.6 = 120$ $120 / 800 = 15\%$

基礎となる契約群の損害率は60%なのに、リトン・ベーシスでは15%と出ました。先ほどの式で確かめると、$g = 2$、$k = 2$ なので

$$\frac{E}{g^{k}} = \frac{0.6}{2^{2}} = \frac{0.6}{4} = 0.15$$

ぴったり一致します。この数字を真の損害率だと思って「低いから値下げしよう」と判断すれば、収支を大きく悪化させることになります。

試験ではこう出る

どのベーシスで計算するかは、問題文に明記されます。定義を覚えているかがそのまま問われる形です。平成12年度以降でアーンド/リトンという語が登場するのは26年度中13年度ですが、平成27年度(2015年度)以降に限れば11年度中9年度と、近年ほど出やすくなっています。

  • 2018.1-I — 自動車保険の3年度分のデータに料率改定と補償縮小をはさんだうえで、直近の料率水準・補償範囲ベースでの3か年通算のリトンベーシス損害率を求めさせる。
  • H27.1-2 — 発売初年度からの計画データが与えられ、アーンドベーシス損害率とリトンベーシス損害率を年度別に求めさせる。同じ商品なのに年度によって両者が食い違うことを、そのまま体験させる構成になっている。
  • 2018.2.3 — アーンドベーシス損害率について、会計年度統計ベースと会計年度−事故年度統計ベースの違いを問う。同じ「アーンド」でも集計方法でさらに分かれることを扱う。

いずれも、計算そのものは四則演算です。差がつくのは問題文の指定を正しく拾えるかだけです。

つまり、この記事の内容は暗記事項ではなく、第1章の損害率の問題を読み違えないための前提です。

つまずきポイント:成長中の会社では損害率は「良く」出る

ここは直感と逆になるので、向きを確かめておいてください。

急成長している保険会社のリトン・ベーシス損害率は、基礎となる契約群の損害率より低く(良く)出ます。「急成長していると事故処理が追いつかず成績が悪化しそう」という直感とは逆です。理由は分母にあります。分母の保険料だけが先に急増し、分子の保険金は過去の小さい規模のままだからです。

$$\text{分母(保険料)}\ \nearrow\ \text{急増}\qquad \text{分子(保険金)}\ \to\ \text{過去の規模のまま}$$

分母が大きくなれば比は小さくなる。それだけの話です。

もうひとつ、ベーシスの定義を入れ替える出題は実際にあります。平成29年度(2017年度)の正誤問題では、

ロ. ポリシー・イヤー・ベーシス損害率とは、一定期間中に責任が経過したすべての保険料とその期間中の発生保険金の比率により算出される損害率である。

が「誤」とされ、正しくは「アーンドベーシス損害率とは、」でした。定義の中身は合っていて、名前だけが差し替えてあります。

計算問題の側では、次のひっかけがあります。アーンド・ベーシスを

$$\text{アーンド・ベーシス損害率} = \frac{\text{既経過保険金}}{\text{計上保険料}} \qquad (\text{これは誤り})$$

と書いた選択肢です。「既経過」するのは保険料であって保険金ではありません。保険金の側は「発生」です。正しくは発生保険金 ÷ 既経過保険料で、分子と分母の語をそれぞれ入れ替えた形が誤答として用意されます。

まとめ

  • 料率算定で使う損害率は、分母と分子の取り方でリトン(Paid-to-Written)、ポリシー・イヤー、アーンド(Incurred-to-Earned)の3つに分かれる。
  • 成長中の会社ではリトン・ベーシスは低く(良く)出る。分母だけが先に増えるため。
  • 料率算定にはアーンド・ベーシスを使う。分子は発生保険金、分母は既経過保険料で、語を入れ替えた選択肢は誤り。