この記事で身につくこと
損害率の分母と分子の取り方は別の記事で扱いました。ここではもう一段上の話、どの期間で区切って集計するかを扱います。この記事を読み終えると、3つの集計方法の定義を言えるようになり、会計年度統計と事故年度統計で損害率がずれる理由を、数値を追いながら説明できるようになります。
記号と用語を日本語に直す
集計方法は3つあります。名前が「何を基準に区切るか」をそのまま表しています。
| 集計方法 | 英語 | 何で区切るか |
|---|---|---|
| 会計年度統計 | Calendar Year | 帳簿上でお金が動いた年度 |
| 契約年度統計 | Policy Year | 契約を結んだ年度 |
| 事故年度統計 | Accident Year | 事故が起きた年度 |
それぞれの保険料と保険金の取り方はこうなります。
| 保険料 | 保険金 | |
|---|---|---|
| 会計年度 | 当年度の既経過保険料 | 当年度支払保険金 + 支払備金の増減 |
| 契約年度 | 当該年度の契約の保険料合計 | その契約群から発生した全保険金 |
| 事故年度 | 会計年度の既経過保険料 | その期間内に発生した事故による発生保険金 |
以下ではアーンド・ベーシス(分母を既経過保険料とする損害率)を前提にします。会計年度統計でも、分母に計上保険料をとるリトン・ベーシスの損害率を計算することはあります。ここで「会計年度の保険料=常に既経過保険料」と覚えないでください。
事故年度統計は「会計年度−事故年度統計(Calendar-Accident Year)」とも呼ばれます。保険料は会計年度から、保険金は事故年度から取るという組み合わせだからです。名前の長さがそのまま中身を表しています。
核になる式:差は「過去の事故の修正」だけ
会計年度と事故年度で、保険料は同じ(既経過保険料)です。したがって差は分子だけです。
会計年度の発生保険金は、当年度に帳簿上で動いた分をすべて拾います。
$$L^{CY} = \underbrace{L^{AY}}_{\text{当年度発生の事故}} + \underbrace{\Delta_{\text{過去}}}_{\text{過去の事故の見積もり修正}}$$
ここで $\Delta_{\text{過去}}$ は、過去の年度に起きた事故について当年度に判明した見積もりのずれです。見積もりが足りなかったなら正、多すぎたなら負になります。
したがって2つの損害率の関係は、既経過保険料を $EP$ として
$$\text{CY損害率} - \text{AY損害率} = \frac{\Delta_{\text{過去}}}{EP}$$
差は過去の事故の修正額を既経過保険料で割ったものに等しい、というのが結論です。過去の見積もりがぴったりだった年度($\Delta_{\text{過去}} = 0$)では、両者は一致します。
事故年度統計では、過去の事故の修正は当年度に混ぜず、その事故が起きた年度のデータを遡って直します。だから当年度の損害率は「当年度に起きた事故」だけで評価できます。
数値例
ある会社の当年度のデータです。既経過保険料は1億8,000万円とします。
| クレーム | 事故の年度 | 期首備金 | 当年度の動き | 期末備金 |
|---|---|---|---|---|
| X | 過去の年度 | 5,000万円 | 6,000万円を支払って解決 | 0 |
| Y | 当年度 | 0 | 未解決 | 4,000万円 |
| Z | 当年度 | 0 | 1,000万円を支払って解決 | 0 |
会計年度統計では、帳簿上動いたものをすべて拾います。
$$L^{CY} = \underbrace{(6{,}000 + 1{,}000)}_{\text{支払額}} + \underbrace{(4{,}000 - 5{,}000)}_{\Delta\text{備金}} = 7{,}000 - 1{,}000 = 6{,}000\ \text{万円}$$
$$\text{CY損害率} = \frac{6{,}000}{18{,}000} \approx 33.3\%$$
事故年度統計では、当年度に発生したYとZだけを集計し、古い事故Xは無視します。
$$L^{AY} = \underbrace{4{,}000}_{\text{Yの備金}} + \underbrace{1{,}000}_{\text{Zの支払}} = 5{,}000\ \text{万円}$$
$$\text{AY損害率} = \frac{5{,}000}{18{,}000} \approx 27.8\%$$
差は $6{,}000 - 5{,}000 = 1{,}000$万円。これはクレームXの見積もり不足(5,000万円と見ていたものが6,000万円かかった)そのものです。先ほどの式で確かめると
$$\frac{\Delta_{\text{過去}}}{EP} = \frac{1{,}000}{18{,}000} \approx 5.6\%$$
そして $33.3\% - 27.8\% \approx 5.6\%$ ですから、ぴったり合います(表示している値はいずれも四捨五入後なので、末尾は丸めの分だけ動きます)。5.6ポイントの差は、すべて過去の失敗が当年度に流れ込んだものです。これを見て「今年は成績が悪いから値上げしよう」と判断したら、判断材料を間違えていることになります。
試験ではこう出る
集計方法は、同じデータから2通りの損害率を計算させる形で問われます。
- 2018.2.3 — アーンドベーシス損害率について、会計年度統計ベースと会計年度−事故年度統計ベースの両方を計算させ、違いを理解しているかを見る。
- 2020.1-1 — 会計年度と会計年度−事故年度の計算をさせる。優良戻し保険料や追徴保険料が絡み、本来はどの年度の保険料に算入されるべきかという論点も含む。
どちらも、クレームごとに事故年度と金額が表で与えられます。当年度に発生した事故だけを拾えるかどうかが分かれ目で、表の読み取りができれば計算は易しいものです。
つまり、この記事の内容は暗記事項ではなく、問題文が指定する集計方法に応じて分子を組み替えるための前提です。
つまずきポイント:契約年度統計は「正確だが遅い」
3つの集計方法の長短は、次のように整理できます。
| 正確さ | 速報性 | |
|---|---|---|
| 会計年度 | 低い(過去の修正が混入) | 高い |
| 契約年度 | 最も高い | 最も低い |
| 事故年度 | 高い | 高い |
契約年度統計の弱点は「正確性」ではありません。逆です。契約年度統計は保険料と保険金が完全に同じ契約群で対応するので、正確性は最も高い。弱点は速報性のほうにあります。ある年度の最終日に始期を迎えた1年契約は翌年度の末ごろまで保険期間が続き、そこからさらに事故の報告遅れ・支払遅れ・備金の見直しを待つ必要があります。契約年度のデータが固まるまでに、どんなに早くても2年、実際にはもっとかかるということです。
料率算定にはどれを使うか
ここまでの整理から、答えは自然に出ます。
会計年度統計は料率算定には向きません。分子に過去の事故の見積もり修正が混入するので、「今の料率水準が妥当か」を判断する材料にならないからです。上の数値例で33.3%という数字を見て値上げに動くのが、まさにその失敗です。
理論上いちばん良いのは契約年度統計です。保険料と保険金が同じ契約群で対応しているので、ある料率で引き受けた契約群の成績を、そのまま評価できます。ただし前述のとおりデータが固まるのが遅く、固まった頃には料率も市場環境も変わっています。
実務で広く使われるのは事故年度統計です。過去の修正が混入しないという会計年度にはない長所を持ちながら、契約年度ほど確定を待たなくてよいからです。正確さと速報性の折り合いがいちばん良いところにあります。
$$\text{会計年度:使えない} \quad<\quad \text{事故年度:実務の標準} \quad<\quad \text{契約年度:理論上は最良だが遅い}$$
試験では、問題文が集計方法を指定してきます。指定に従って分子を組み替えられれば十分ですが、なぜその方法が指定されているのかまで分かっていると、正誤問題で迷わなくなります。
もうひとつ、名前の対応も入れ替えられます。
$$\text{会計年度−事故年度統計(Calendar-Accident Year)} = \text{事故年度統計の別称}$$
これを契約年度統計の別称だとする選択肢が出ますが、誤りです。名前に Accident が入っている時点で事故年度側です。
まとめ
- 集計方法は会計年度・契約年度・事故年度の3つ。区切る基準がそれぞれ帳簿・契約・事故。
- 会計年度と事故年度の損害率の差は、過去の事故の見積もり修正額を既経過保険料で割ったものに等しい。
- 契約年度統計は正確性が最も高く、速報性が最も低い。弱点は正確さではなく時間。
- 料率算定に会計年度統計は使えない。実務の標準は事故年度統計。