この記事で身につくこと
保険料の決め方には2つの流儀があります。この記事を読み終えると、損害率法と純保険料法それぞれの式を書けるようになり、両者が数学的に一致することを自分で証明できるようになります。証明は数行です。
記号と用語を日本語に直す
まず記号を揃えます。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| $A$ | 実績損害率 |
| $E$ | 予定損害率(目標値) |
| $Z$ | 信頼度(クレディビリティ係数)、$0 \le Z \le 1$ |
| $m$ | 料率改定率 |
| $F$ | クレーム頻度(事故発生率) |
| $D$ | 平均損害額(Severity、1件あたりの平均支払額) |
頻度と平均損害額の定義を取り違えないでください。$D$ は「円/件」という金額です。教材によっては「平均損傷率」と呼びますが、率ではなく額なので、名前ではなく定義式のほうで覚えてください。
$$F = \frac{\text{保険金支払件数}}{\text{契約件数}}, \qquad D = \frac{\text{総支払保険金}}{\text{保険金支払件数}}$$
$D$ は「総支払保険金 ÷ 件数」です。分母と分子を逆にした選択肢が用意されます。
核になる式:ズレの何割を反映させるか
損害率法は、率の世界で考えます。実績損害率 $A$ が予定損害率 $E$ からどれだけずれたかを、$E$ に対する割合で測ります。
$$m = \frac{A - E}{E} = \frac{A}{E} - 1$$
$A = E$ なら $m = 0$、$A$ が $E$ の1.1倍なら $m = 0.1$(10%の値上げ)。直感どおりの式です。
ただしデータ数が少ないと $A$ はぶれます。そこで信頼度 $Z$ を使い、ずれの $Z$ 割だけを反映させます。
$$m = Z \times \frac{A - E}{E}$$
この式は、実績と予定を $Z : (1-Z)$ で加重平均した「採用損害率」$A' = ZA + (1-Z)E$ を使って書いても同じになります。
$$m = \frac{A' - E}{E} = \frac{\{ZA + (1-Z)E\} - E}{E} = \frac{Z(A - E)}{E} = Z\,\frac{A-E}{E}$$
純保険料法は、金額の世界で考えます。純保険料を頻度と単価の積で組み立てるので、実務ではFD方式とも呼ばれます。
$$\text{純保険料} = F \times D$$
こちらも信頼度を入れます。実績純保険料を $P_{act}$、予定純保険料を $P_{exp}$ として
$$P_{new} = P_{act} \times Z + P_{exp} \times (1 - Z)$$
変形すると意味がはっきりします。
$$P_{new} = P_{exp} + (P_{act} - P_{exp}) \times Z$$
予定に対して、実績とのずれを $Z$ 割だけ反映させる。損害率法とまったく同じ構造です。$Z$ は激変緩和のクッションとして働きます。
数値例
予定損害率 $E = 60\%$、実績損害率 $A = 69\%$、信頼度 $Z = 0.8$ のときの改定率を求めます。
$$m = Z \times \frac{A - E}{E} = 0.8 \times \frac{0.69 - 0.60}{0.60} = 0.8 \times \frac{0.09}{0.60} = 0.8 \times 0.15 = 0.12$$
12%の値上げです。信頼度を使わなければ15%の値上げでしたが、実績を8割だけ信用したので12%に抑えられています。
純保険料法でも確かめます。契約1件あたり、予定純保険料が600円、実績純保険料が690円(予定の1.15倍)だったとすると
$$P_{new} = 690 \times 0.8 + 600 \times 0.2 = 552 + 120 = 672\ \text{円}$$
予定600円に対して672円。$672 / 600 = 1.12$ なので、こちらも12%の増加です。
試験ではこう出る
改定率は、予定と実績の料率構成割合が表で与えられ、そこから計算させる形で出ます。信頼度(クレディビリティ係数)が与えられ、社費率を分子に置くか分母に置くかまで指定されることがあります。
問題文で必ず確認すべきは3点です。
- 信頼度 $Z$ をどの量に掛けるか(実績損害率です。予定ではありません)
- 改定後の社費率・代理店手数料率・利潤率に、実績値と予定値のどちらを使うか
- 社費率を分子に置く形か、分母に置く形か
この3点の指定は問題文に書かれています。読み落とすと必ずずれます。
つまり、この記事の内容は暗記事項ではなく、料率改定の計算問題で式を正しく組み立てるための前提です。
つまずきポイント:一致することの証明を自分で書けるか
2つの方法が一致することは、数行で示せます。信頼度 $Z = 1$(データが十分ある)として、記号を置きます。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| $L$ | インカードロス(トレンドおよびLDF修正後) |
| $N$ | 契約件数(エクスポージャ数) |
| $P$ | 現行料率水準での既経過保険料 |
| $p$ | 1件あたりの現行営業保険料($p = P/N$) |
| $E$ | 予定損害率 |
純保険料法では、$Z=1$ なので実績純保険料がそのまま新純保険料です。
$$pp_{new} = \frac{L}{N}$$
純保険料は営業保険料の $E$ 割にあたるので、営業保険料にするには $E$ で割り戻します。
$$R^{PP}_{new} = \frac{L/N}{E} = \frac{L}{NE} \qquad \cdots (1)$$
損害率法では、まず実績損害率が $A = L/P$ なので
$$m = \frac{A - E}{E} = \frac{L/P - E}{E} = \frac{L}{PE} - 1$$
新しい営業保険料は、現行の1件あたり保険料 $p$ を $(1+m)$ 倍したものです。
$$R^{LR}_{new} = p(1+m) = \frac{P}{N}\left(1 + \frac{L}{PE} - 1\right) = \frac{P}{N} \cdot \frac{L}{PE} = \frac{L}{NE} \qquad \cdots (2)$$
$(1)$ と $(2)$ が一致しました。$P$ が約分で消えるところが要で、現行保険料の水準がいくらであっても結論は変わらないことを意味しています。
さて、つまずきやすいのは符号の向きです。
実績損害率が予定損害率より低い場合、改定率はマイナス(値下げ)になります。「損害率が低い=成績が良い=会社が儲かっている=値上げ」と考えてしまう人がいますが、逆です。成績が良いということは保険料を取りすぎていたということなので、下げる方向に働きます。
$$A < E \;\Longrightarrow\; m = \frac{A-E}{E} < 0 \;\Longrightarrow\; \text{値下げ}$$
信頼度の掛け方も入れ替えられます。
$$P_{new} = P_{act} \times (1-Z) + P_{exp} \times Z \qquad (\text{これは誤り})$$
$Z$ が掛かるのは実績のほうです。$Z=1$ が「実績を100%信頼する」を意味するので、$Z$ と実績が組になります。$Z=1$ を代入して実績そのものになるかを確かめれば、その場で判定できます。
まとめ
- 損害率法は率の世界で $m = Z(A-E)/E$、純保険料法は金額の世界で $P_{new} = ZP_{act} + (1-Z)P_{exp}$。どちらも「予定に対してずれを $Z$ 割反映」という同じ構造。
- 同じデータなら両者の営業保険料は一致する。証明では現行保険料 $P$ が約分で消える。
- 実績損害率が予定より低ければ改定率はマイナス。信頼度 $Z$ が掛かるのは実績の側。