この記事で身につくこと

純保険料の計算をいくら精密にしても、それだけでは保険会社は動きません。社費も手数料も利潤も必要です。この記事を読み終えると、収支相等の原則から営業保険料の方程式を立てられるようになり、その解の分母 $1-(\theta+\delta)$ が何を意味しているかを説明できるようになります。

記号と用語を日本語に直す

この節の記号は、金額で置くものと割合で置くものが混在します。そこが最初の関門なので、先に分けておきます。

記号 意味 金額か割合か
$P$ 営業保険料 金額
$r$ 予定純保険料 金額
$e$ 予定社費 金額
$\theta$ 予定代理店手数料率 割合(対営業保険料)
$\delta$ 予定利潤率 割合(対営業保険料)

この式の中では、純保険料と社費は「いくらかかるか」が営業保険料と無関係に先に決まる固定費、代理店手数料と利潤は「営業保険料の何%」という形で決まる比例費として扱われます。この違いが式の形を決めます。

(現実の社費には契約件数や保険料に連動する部分もありますが、ここでは問題文の設定にならって定額として扱います。試験では「社費を定額で180」のように明示されるので、それに従ってください。)

収支相等の原則は、次の一文です。

$$\text{収入の現価総額} = \text{支出の現価総額}$$

核になる式:移項して割るだけ

収支相等を、上の記号で書き下します。収入は $P$、支出は純保険料と社費と手数料と利潤の合計です。

$$P = r + e + (\theta + \delta)P$$

右辺に $P$ が出てきます。手数料と利潤が営業保険料に比例するからで、これは避けられません。ただし一次方程式なので普通に解けます。

$P$ の項を左辺に集めます。

$$P - (\theta+\delta)P = r + e$$ $$P\{1 - (\theta+\delta)\} = r + e$$

両辺を $1-(\theta+\delta)$ で割って、

$$P = \frac{r + e}{1 - (\theta+\delta)}$$

これが営業保険料の基本公式です。

分母の意味を読み取っておきます。$1-(\theta+\delta)$ は、営業保険料のうち手数料と利潤に持っていかれない残りの割合です。その残りが、固定費である純保険料と社費を賄わなければなりません。だから固定費を「残りの割合」で割り戻すと、必要な営業保険料が出ます。

$$P = \frac{\overbrace{r+e}^{\text{固定費}}}{\underbrace{1-(\theta+\delta)}_{\text{比例費を引いた残り}}}$$

この形は損保数理を通じて何度も現れます。長期契約の長期係数も、積立保険の保険料も、骨格はこの式です。

両辺を $P$ で割れば、割合の形にもなります。$\lambda = r/P$(予定損害率)、$\epsilon = e/P$(予定社費率)と置くと

$$1 = \lambda + \epsilon + \theta + \delta$$

別の記事で扱った予定料率構成割合の関係が、ここでも同じ形で出てきます。

数値例

次のデータで営業保険料を求めます。

項目
予定純保険料 $r$ 600円
予定社費 $e$ 200円
代理店手数料率 $\theta$ 15%
利潤率 $\delta$ 5%

分母は $1 - (0.15 + 0.05) = 0.80$ です。

$$P = \frac{600 + 200}{0.80} = \frac{800}{0.80} = 1{,}000\ \text{円}$$

検算します。営業保険料1,000円のうち、20%にあたる200円が手数料と利潤で出ていきます。残りは800円。これが純保険料600円と社費200円の合計とぴったり一致します。

項目 金額 対営業保険料
純保険料 600円 60%
社費 200円 20%
代理店手数料 150円 15%
利潤 50円 5%
営業保険料 1,000円 100%

4つを足すと100%。ここでも予定料率構成割合の和が1になる関係が確かめられます。

試験ではこう出る

この基本公式は、単独で問われるより他の論点の中で式を立てる場面に現れます。長期契約の長期係数を導くとき、積立保険の保険料を求めるとき、いずれもまずこの形の方程式を立てるところから始まります。

料率改定の文脈では、実績値を使って改定率 $\alpha$ を求める形になります。実績損害率を $\lambda'$、実績社費率を $\epsilon'$、改定後の手数料率を $\theta'$ として

$$\alpha = \frac{\lambda' + \epsilon'}{1 - (\theta' + \delta)} - 1$$

分子に社費率が入っているのが特徴で、事故が増えた場合だけでなく、会社の経費が増えた場合にも保険料が上がることを表しています。

なお、社費率を分子に置く形と分母に置く形の両方が使われます。分母に置く場合は

$$\alpha = \frac{\text{改定後損害率}}{1 - (\text{社費率} + \text{代理店手数料率} + \text{利潤率})} - 1$$

となり、答えが変わります。どちらの形で計算するかは問題文の指定に従ってください。

つまり、この記事の内容は暗記事項ではなく、以降の章で保険料の方程式を立てるための骨格です。

つまずきポイント:固定費と比例費を混ぜない

間違えやすいのは、社費を割合だと思って分母に入れてしまうことです。基本公式では

$$P = \frac{r + e}{1 - (\theta + \delta)}$$

であって、

$$P = \frac{r}{1 - (\epsilon + \theta + \delta)} \qquad (\text{形が違う})$$

ではありません。後者も社費率を分母に置く流儀として存在しますが、そのときは $\epsilon$ が割合であることが前提です。$e$(金額)と $\epsilon$(割合)を混ぜて、金額を分母に入れてしまうと式が壊れます。記号が金額なのか割合なのかを、毎回確認する癖をつけてください。

もうひとつ、代理店手数料の基準も入れ替えられます。手数料は営業保険料に比例するのであって、純保険料に比例するのではありません。純保険料に一定率を掛けて算出するという選択肢は誤りです。

最後に、少し意地の悪い論点を1つ。予定社費 $e$ を半分に削減できたとして、営業保険料も半分になるでしょうか。なりません。

$$P = \frac{r + e/2}{1 - (\theta+\delta)}$$

分子は $r + e$ から $r + e/2$ に減りますが、$r$ は変わらないので、全体が半分になるのは $r = 0$ のときだけです。先ほどの数値例なら $(600+100)/0.8 = 875$円で、1,000円の半分どころか12.5%の減少にとどまります。固定費の一部だけを削っても、比例して全体が減るわけではないということです。

まとめ

  • 収支相等は $P = r + e + (\theta+\delta)P$。右辺に $P$ が出るのは手数料と利潤が比例費だから。
  • 解くと $P = (r+e) / \{1-(\theta+\delta)\}$。分母は比例費を引いた残りの割合で、固定費をこれで割り戻す。
  • 金額の記号($r, e$)と割合の記号($\theta, \delta$)を混ぜない。手数料が比例するのは営業保険料であって純保険料ではない。