この記事で身につくこと
損保数理で最初に生保数理の記号が出てくるのが、この長期契約の話です。この記事を読み終えると、長期係数の公式を収支相等から導けるようになり、確定年金現価率 $\aann{n}$ が式のどこに、なぜ現れるのかを説明できるようになります。
記号と用語を日本語に直す
長期契約の式には、金額の記号と割合の記号が混在します。先に分けておきます。
| 記号 | 意味 | 金額か割合か |
|---|---|---|
| $P$ | 1年契約の営業保険料 | 金額 |
| $P'$ | $n$年長期契約の営業保険料(一括払) | 金額 |
| $p$ | 純保険料(年額) | 金額 |
| $\alpha$ | 新契約費(初年度のみ発生する定額経費) | 金額 |
| $\beta$ | 維持費(毎年発生する定額経費) | 金額 |
| $\theta$ | 代理店手数料率 | 割合(対営業保険料) |
| $\delta$ | 利潤率 | 割合(対営業保険料) |
そして、この節の主役の記号です。
| 記号 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| $v$ | ブイ | 現価率。$v = 1/(1+i)$ |
| $\aann{n}$ | エー・ツーテン・エヌかぎ | 期始払確定年金現価率 |
| $\ann{n}$ | エー・エヌかぎ | 期末払確定年金現価率 |
$\aann{n}$ は「毎年初めに1円ずつ $n$ 年間もらえる権利が、今いくらの価値があるか」を表します。定義はそのまま足し算です。
$$\aann{n} = 1 + v + v^2 + \cdots + v^{n-1}$$
最初の項が $1$(=割引なし)であることに注意してください。期始払なので、1年目の1円は今すぐもらえるからです。期末払の $\ann{n} = v + v^2 + \cdots + v^n$ とは別物です。
核になる式:1年契約の式を $n$ 年に伸ばすだけ
まず1年契約の収支相等です。別の記事で扱った形をそのまま使います。
$$P = \alpha + (\beta + p) + P(\theta + \delta) \;\Longrightarrow\; P = \frac{\alpha + \beta + p}{1 - (\theta+\delta)} \qquad \cdots (1)$$
次に $n$ 年の長期契約(一括払)を考えます。変わるのは支出の側だけです。
- 新契約費 $\alpha$ は契約時の1回だけ。$n$ 倍にならない。
- 維持費 $\beta$ と純保険料 $p$ は毎年かかる。ただし2年目以降の支出は先の話なので、現在価値に割り引く。
毎年 $(\beta+p)$ ずつ $n$ 年間かかる費用の現価は、各年度の支出が年度初めに発生するので、まさに $(\beta+p) \times \aann{n}$ です。
$$P' = \underbrace{\alpha}_{\text{初年度のみ}} + \underbrace{(\beta+p)\aann{n}}_{\text{毎年発生・現価}} + \underbrace{P'(\theta+\delta)}_{\text{手数料・利潤}}$$
$P'$ について解きます。
$$P'\{1 - (\theta+\delta)\} = \alpha + (\beta+p)\aann{n}$$ $$P' = \frac{\alpha + (\beta+p)\aann{n}}{1 - (\theta+\delta)} \qquad \cdots (2)$$
長期係数 $K$ を $K = P'/P$ と定義し、$(2)$ を $(1)$ で割ります。分母の $1-(\theta+\delta)$ が約分で消えて、
$$K = \frac{\alpha + (\beta+p)\aann{n}}{\alpha + \beta + p}$$
割安になる理由が、この式にそのまま書いてあります。分子の $\alpha$ は1回きりで $n$ 倍になっていません。そして毎年分は $n$ 倍ではなく $\aann{n}$ 倍($n$ より小さい)になっています。この2つが割引の正体です。
未経過料率係数
途中解約したときに返す金額を決めるのが未経過料率係数 $U_t$ です。$t$ 年経過した時点で、残り $n-t$ 年分に対応する費用の現価は
$$\frac{(\beta+p)\aann{n-t}}{1-(\theta+\delta)}$$
です。ここに $\alpha$ は入りません。新契約費は契約時にすでに使い切っているからです。これを契約時に払った $P'$ で割ると、分母の $1-(\theta+\delta)$ がまた約分され、
$$U_t = \frac{(\beta+p)\aann{n-t}}{\alpha + (\beta+p)\aann{n}}$$
分子に $\alpha$ はないが、分母には $\alpha$ がある。この非対称が未経過料率係数の急所です。
数値例
予定利率1%、$n=5$ 年の長期一時払契約を考えます。1年契約の営業保険料を1としたときの構成割合を、$p = 0.5$、$\alpha = 0.2$、$\beta = 0.1$、$\theta = 0.1$、$\delta = 0.1$ とします(合計1)。
まず $\aann{5}$ を出します。$v = 1/1.01 = 0.990099$ なので
$$\aann{5} = 1 + 0.990099 + 0.980296 + 0.970590 + 0.960980 = 4.901966$$
5年分なのに $4.90$ です。割引の効果で0.1年分ほど目減りしています。
長期係数を求めます。$\beta + p = 0.6$ なので
$$P' = \frac{0.2 + 0.6 \times 4.901966}{1 - (0.1+0.1)} = \frac{0.2 + 2.941179}{0.8} = \frac{3.141179}{0.8} = 3.926\cdots$$
1年契約の営業保険料が1なので、長期係数は約3.93です。5年分の保険料を単純に足した名目合計5.00と比べれば、約21%安くなっています。
この21%の中身を分けておくと、長期係数の意味がはっきりします。1年契約を5回、毎年の初めに払っていく場合の契約時点での現価は $\aann{5} = 4.902$ です。3.93はこれよりさらに小さいので、割引は2段階で起きていることになります。
$$\underbrace{5.00 \to 4.902}_{\text{お金の時間価値}} \qquad \underbrace{4.902 \to 3.93}_{\text{新契約費が1回で済む}}$$
下げ幅の大部分は後者、つまり新契約費 $\alpha$ を5回ではなく1回しか払わなくてよいことから来ています。時間価値による分は2%程度にすぎません。
次に、第3保険年度末に解約したときの未経過料率係数です。残りは2年なので $\aann{2} = 1 + 0.990099 = 1.990099$。
$$U_3 = \frac{0.6 \times 1.990099}{0.2 + 0.6 \times 4.901966} = \frac{1.194059}{3.141179} = 0.380\cdots$$
約0.38。払った3.93のうち38%が戻る計算です。5年のうち2年を残しているので単純には40%ですが、それより少し少なくなっています。
試験ではこう出る
長期係数と未経過料率係数は、第1章の主力の出題です。
- 2019.1-1 — 予定料率構成割合の表($p=50\%$、$\alpha=20\%$、$\beta=10\%$、$\theta=10\%$、$\delta=10\%$)と予定利率1%が与えられ、保険期間5年の長期一時払契約の長期係数と、第3保険年度末に解約したときの未経過料率係数を求めさせる。上の数値例はこの問題の設定そのものです。
- H29.1-2 — 保険期間1年と2年の契約が同数あるとき、保険料収入全体に占める純保険料の割合を求めさせる。予定利率0%なので年金現価率が単純に年数になる設定。
- H21.2-I — 長期係数を求めるオーソドックスな問題。
いずれも「新契約費は初保険年度のみ支出され、維持費はすべての保険年度において支出される」という条件が明記されます。この一文が $\alpha$ と $\beta$ を分ける理由そのものです。
つまり、この記事の内容は暗記事項ではなく、第1章の長期係数の問題をそのまま解くための道具です。
つまずきポイント:期始払か期末払か
長期係数で使うのは期始払の $\aann{n}$ です。期末払の $\ann{n}$ ではありません。
理由は支出のタイミングにあります。保険料は契約時に受け取り、費用は各保険年度の初めに支出されると考えます。1年目の支出は今すぐなので割り引きません。だから
$$\aann{n} = 1 + v + \cdots + v^{n-1} \quad(\text{第1項が } 1)$$
の形になります。期末払だと第1項が $v$ から始まり、1年目の費用まで割り引いてしまいます。正誤問題で「期末払年金現価率を用いる」と書かれたら誤りです。
もうひとつ、未経過料率係数の分子に $\alpha$ を入れてしまう誤りがあります。
$$U_t = \frac{\alpha + (\beta+p)\aann{n-t}}{\alpha + (\beta+p)\aann{n}} \qquad (\text{これは誤り})$$
新契約費は契約を獲得した時点で使い切っています。解約時に「まだ使っていない新契約費」は存在しないので、分子には入りません。一方、分母は契約時に受け取った保険料の構成なので $\alpha$ を含みます。分子と分母で $\alpha$ の扱いが違うことを、理由とセットで覚えてください。
最後に、$U_t$ の向きです。経過期間 $t$ が長くなるほど残り期間 $n-t$ は短くなるので、$\aann{n-t}$ は小さくなり、$U_t$ は減少します。満期に近づくほど戻りが少なくなる。当たり前のようですが、増加すると書いた選択肢に引っかかる人がいます。
なお、予定利率が0のときは $v=1$ なので $\aann{n} = n$ となり、割引の効果が消えます。この確認は検算に使えます。
まとめ
- 長期契約の収支相等は、新契約費 $\alpha$ を1回だけ、毎年分を $\aann{n}$ 倍にして立てる。割安になる理由はこの2点。
- 長期係数は $K = \{\alpha + (\beta+p)\aann{n}\} / (\alpha+\beta+p)$。未経過料率係数の分子に $\alpha$ は入らない。
- 使うのは期始払の $\aann{n}$。第1項が $1$ から始まることを、支出のタイミングから確認する。