この記事で身につくこと

免責は、契約者にとっては保険料を下げる手段で、保険会社にとっては支払いを絞る手段です。この記事を読み終えると、エクセス方式とフランチャイズ方式の支払額を場合分けで書けるようになり、指数分布のときの割引率が $1 - e^{-a/\mu}$ になることを自分で導けるようになります。

記号と用語を日本語に直す

免責の方式は2つあります。支払いが発生したときにいくら払うかが決定的に違います。

方式 損害額 $X$ が免責 $a$ 以下 損害額 $X$ が免責 $a$ を超える
エクセス方式(Excess) 支払わない 超過分 $X - a$ を支払う
フランチャイズ方式(Franchise) 支払わない 全額 $X$ を支払う

フランチャイズ方式は、免責を1円でも超えれば損害額の全額が出ます。免責額を引かないのが特徴で、境目で支払額が不連続に跳ねます。実務上は賠償責任保険などエクセス方式が一般的です。

記号を揃えます。

記号 意味
$X$ 損害額(確率変数)
$f(x), F(x)$ $X$ の確率密度関数、分布関数
$a$ 免責金額(エクセスポイント)
$Y$ 保険会社の支払額
$d$ 免責導入による純保険料の割引率

核になる式:払わずに済んだ分に注目する

エクセス方式の支払額は、場合分けで書けます。

$$Y = \max(0,\ X - a) = \begin{cases} 0 & (X \le a) \\ X - a & (X > a) \end{cases}$$

平均支払額を定義どおりに積分します。

$$E[Y] = \int_a^{\infty}(x-a)f(x)\,dx = \int_a^{\infty} x f(x)\,dx - a\{1 - F(a)\}$$

ここで発想を変えます。保険会社が払わずに済んだ分、つまり契約者の自己負担額に注目します。契約者の負担は、損害が免責以下ならその全額、免責を超えるなら免責額ちょうどなので $\min(X, a)$ です。

$$E[\min(X,a)] = \int_0^a x f(x)\,dx + \int_a^{\infty} a f(x)\,dx$$

免責がなければ保険会社は $E[X]$ を払っていたはずで、そこから自己負担分が引かれるので

$$E[\text{保険会社の支払}] = E[X] - E[\min(X,a)]$$

したがって純保険料の割引率は、払わずに済んだ分の比として定義されます。

$$d = \frac{E[\min(X,a)]}{E[X]}$$

分子を直接積分するより、この形にしたほうが計算が楽になる場面が多くあります。

数値例

損害額 $X$ が平均 $\mu$ の指数分布に従うとします。

$$f(x) = \frac{1}{\mu}e^{-x/\mu} \quad (x \ge 0)$$

このとき $E[\min(X,a)] = \mu\left(1 - e^{-a/\mu}\right)$ となり、$E[X] = \mu$ なので

$$d = \frac{\mu\left(1 - e^{-a/\mu}\right)}{\mu} = 1 - e^{-a/\mu}$$

分布の平均 $\mu$ が約分で消えて、$a/\mu$ という比だけで決まります。

平均 $\mu = 50$万円、免責 $a = 10$万円を入れます。

$$d = 1 - e^{-10/50} = 1 - e^{-0.2}$$

$e^{-0.2} \approx 0.8187$ なので

$$d \approx 1 - 0.8187 = 0.1813$$

割引率は約18.1%です。

1件あたりの自己負担の上限を平均の5分の1の10万円に抑えただけで、純保険料が18%も下がりました。なお、自己負担の期待値は10万円ではなく $E[\min(X,a)] = 50 \times 0.1813 \approx 9.06$万円です。免責金額は上限であって平均ではない、という区別はここで押さえておいてください。

割引の内訳を2つに分ける

この18.1%がどこから来ているのかを分解しておくと、後で効きます。自己負担 $\min(X,a)$ は、2つの部分に分かれます。

$$E[\min(X,a)] = \underbrace{\int_0^a x f(x)\,dx}_{\text{小額事故が丸ごと外れた分}} + \underbrace{a\,P(X > a)}_{\text{高額事故から毎回 }a\text{ を引いた分}}$$

数値を入れます。

$$\int_0^{10} x f(x)\,dx = \mu(1 - e^{-0.2}) - 10\,e^{-0.2} = 9.063 - 8.187 = 0.876 \text{(万円)}$$ $$10 \times P(X > 10) = 10\,e^{-0.2} = 8.187 \text{(万円)}$$

平均50万円に対する割合に直すと、小額事故の除外は1.8%、高額事故からの控除が16.4%。合わせて18.1%です。

割引の大半は、10万円を超える事故から毎回10万円を差し引いた効果です。「10万円以下の小さな事故がなくなるから安くなる」という直感は、金額ベースではほとんど効いていません。件数で見れば10万円以下の事故は全体の18.1%を占めますが、そもそも金額が小さいので、支払総額に対する寄与は1.8%しかないからです。

なお、この「件数割合18.1%」と「割引率18.1%」が一致するのは指数分布だからです。指数分布では

$$d = 1 - e^{-a/\mu} = F(a) = P(X \le a)$$

がちょうど成り立ちます。パレート分布や対数正規分布では一致しません。数値が揃ったからといって、因果関係があると読まないでください。

試験ではこう出る

免責は第1章の主力論点のひとつで、分布を変えながら繰り返し出題されます。

  • H14.1-IV — 損害額が平均100の指数分布のとき、エクセス方式(免責10)の平均支払額 $S_E$ とフランチャイズ方式(免責20)の平均支払額 $S_F$ を求め、その比 $S_F / S_E$ を答えさせる。2つの方式を1問で対比させる構成。
  • H28.1-II — パレート分布での免責。教科書第2章の練習問題の改題。
  • H23.2-III — 計算量が非常に多い問題。指数関数の値を最後まで代入せずに進める工夫が要る。

H14.1-IV を実際に追うと、方式の違いが式にどう出るかがはっきりします。平均100の指数分布で

$$S_E = \int_{10}^{\infty}(x-10)\frac{1}{100}e^{-x/100}dx = 100\,e^{-0.1}$$ $$S_F = \int_{20}^{\infty} x\,\frac{1}{100}e^{-x/100}dx = \left[-(x+100)e^{-x/100}\right]_{20}^{\infty} = 120\,e^{-0.2}$$

比をとると

$$\frac{S_F}{S_E} = \frac{120\,e^{-0.2}}{100\,e^{-0.1}} = \frac{6}{5}\,e^{-0.1} \approx 1.087$$

フランチャイズ方式の積分には $(x-a)$ ではなく $x$ が入るところが、方式の違いそのものです。

比の向きには注意してください。原問の選択肢には $1.087$ と、向きを逆にした $S_E/S_F \approx 0.920$ の両方が並んでいます。どちらを分子にするかを最初に確認する、というのがこの問題の狙いのひとつです。

つまり、この記事の内容は暗記事項ではなく、第1章のフランチャイズ・エクセス系の問題を解くための道具です。

つまずきポイント:割引率と「免責を超える確率」は別物

指数分布のとき、次の2つはよく似た形をしていますが、意味がまったく違います。

$$d = 1 - e^{-a/\mu} \quad(\text{割引率}) \qquad P(X > a) = e^{-a/\mu} \quad(\text{免責を超える確率})$$

足すと1になる関係にあります。割引率は「自己負担の期待値が全体に占める割合」という金額の話、$e^{-a/\mu}$ は「事故が免責を超える確率」という件数の話で、指数分布ではたまたま数値が補い合っているだけです。正誤問題で「割引率は事故が免責金額を超える確率と等しい」と書かれたら誤りです。

もうひとつ、エクセス方式で損害額が免責以下のときの支払額を「免責金額」としてしまう誤りがあります。正しくは0です。免責額を払うのではなく、何も払いません。

$$X \le a \;\Longrightarrow\; Y = 0 \quad(\text{「}a\text{」ではない})$$

最後に、見落としやすい論点を1つ。免責を導入すると、保険金の支払件数(支払クレーム頻度)も減ります。免責以下の事故には保険金が支払われないので、支払ベースのクレーム件数からは落ちるからです。免責 $a$ を入れた後に支払対象として残る割合は $P(X > a)$ です。

ここで $F$ が何を数えているかを確認してください。事故そのものの発生件数は免責を入れても変わりません。変わるのは支払件数のほうです。純保険料が $F \times D$ で決まることを思い出すと、$F$ を支払クレーム頻度と定義した場合には、免責は $F$ と $D$ の両方に影響することが分かります。「免責を導入しても頻度は変わらない」という選択肢が正しいか誤りかは、この $F$ の定義で決まります。

まとめ

  • エクセス方式は超過分 $X-a$、フランチャイズ方式は全額 $X$ を支払う。積分の被積分関数が $(x-a)$ か $x$ かで分かれる。
  • 割引率は自己負担の期待値の比 $d = E[\min(X,a)]/E[X]$。指数分布なら $d = 1 - e^{-a/\mu}$ で、平均が約分で消える。
  • 割引の中身は「小額事故が丸ごと外れた分」と「高額事故から毎回 $a$ を引いた分」。効いているのは後者。
  • 割引率 $1-e^{-a/\mu}$ と免責超過確率 $e^{-a/\mu}$ は足すと1。免責の導入は支払件数も減らす(事故件数は減らない)。