この記事で身につくこと
複合ポアソン分布には、合算と分解に関する2つの強い性質があります。この記事を読み終えると、独立なポートフォリオを合算したときの新しいパラメータを書けるようになり、クレーム額ごとに件数を分けたものが独立なポアソン分布になる理由を説明できるようになります。さらに、クレーム総額の確率を直接計算・分解計算・再帰計算の3通りで出して、答えが一致することを確かめます。
記号と用語を日本語に直す
| 記号・用語 | 意味 |
|---|---|
| $S_i$ | 第 $i$ ポートフォリオのクレーム総額。パラメータ $\lambda_i$、クレーム額分布 $P_i(x)$ の複合ポアソン分布 |
| 再生性 | 独立な複合ポアソンの和が、また複合ポアソンになる性質 |
| 分解特性 | クレーム額の種類ごとの件数 $N_k$ が、互いに独立なポアソン分布になる性質 |
| $M_S(t)$ | 積率母関数(MGF)。$M_S(t) = E[e^{tS}]$ |
| $(a,b)$ クラス | $p_k = (a + b/k)\,p_{k-1}$ を満たす件数分布の族。$(a,b,0)$ クラスとも呼ばれる |
用語のずれを1つ名指しします。「再生性」という言葉は、ポアソン分布どうしの和(第2章の頻度分布)でも、複合ポアソン分布どうしの和でも使われます。試験の文脈でどちらの再生性かは、和をとる対象が件数 $N$ なのか総額 $S$ なのかで見分けてください。この記事で扱うのは総額 $S$ のほうです。
核になる式:積率母関数の形がすべてを語る
複合ポアソン分布の積率母関数は
$$M_S(t) = \exp\{\lambda\,(M_X(t) - 1)\}$$
です。$\lambda$ が件数の平均、$M_X(t)$ がクレーム額1件分の積率母関数。2つの定理は、どちらもこの形と「積率母関数が一致すれば分布も一致する」という一意性定理から出ます。
再生性:合算は指数の肩の足し算
独立な $S_1, \dots, S_m$ の和 $S$ の積率母関数は、独立性から積になり、指数法則で肩の和にまとまります。
$$M_S(t) = \prod_{i=1}^{m} \exp\{\lambda_i(M_i(t)-1)\} = \exp\Bigl\{\sum_{i=1}^{m}\lambda_i\,M_i(t) - \Lambda\Bigr\} \qquad \Bigl(\Lambda = \sum_{i=1}^{m}\lambda_i\Bigr)$$
肩から $\Lambda$ をくくり出すと
$$M_S(t) = \exp\Bigl\{\Lambda\Bigl(\sum_{i=1}^{m}\frac{\lambda_i}{\Lambda}M_i(t) - 1\Bigr)\Bigr\}$$
となります。ここで係数 $\lambda_i/\Lambda$ は非負で総和が1なので、$\sum(\lambda_i/\Lambda)M_i(t)$ は「確率 $\lambda_i/\Lambda$ で分布 $P_i$ から1件引く」という混合分布の積率母関数そのものです。つまり合算後も複合ポアソンの形をしていて、新しいパラメータは
$$\Lambda = \sum_{i=1}^{m}\lambda_i, \qquad P(x) = \sum_{i=1}^{m}\frac{\lambda_i}{\Lambda}P_i(x)$$
です。新しいクレーム額分布が頻度比 $\lambda_i/\Lambda$ による重み付き混合になるのは、「会社全体で1件のクレームが起きたとき、それが第 $i$ ポートフォリオ由来である確率は発生率の比」という直感と一致します。
分解特性:件数のゆらぎが負の相関を打ち消す
クレーム額が離散値 $x_1, \dots, x_m$(確率 $\pi_1, \dots, \pi_m$)しか取らないとします。額 $x_k$ の事故件数を $N_k$ とすると、$N_1, \dots, N_m$ は互いに独立で、それぞれパラメータ $\lambda\pi_k$ のポアソン分布に従います。
直感に反するのは独立性のほうです。全体の件数 $N$ を固定すれば、内訳 $(N_1, \dots, N_m)$ は多項分布に従い、たしかに負の相関を持ちます。1万円の事故が多かった年は、その分2万円の事故が減るはずだ、という感覚です。ところが $N$ 自体もポアソン分布でゆらいでいると、そのゆらぎが内訳の負の相関をちょうど打ち消します。
証明は、結合積率母関数を全期待値の法則で $N$ について条件付けし、多項分布の積率母関数 $(\pi_1 e^{t_1} + \cdots + \pi_m e^{t_m})^n$ をポアソン確率で重み付けて足すと、指数関数のマクローリン展開で無限和が閉じて
$$M(t_1,\dots,t_m) = \prod_{k=1}^{m}\exp\{\lambda\pi_k(e^{t_k}-1)\}$$
という積の形に分離する、という流れです。各因子はパラメータ $\lambda\pi_k$ のポアソン分布の積率母関数そのものなので、独立性と各 $N_k$ の分布が同時に読み取れます。これはポアソン過程を確率 $\pi_k$ で色分けすると各色が独立なポアソン過程になる、という間引き(thinning)の性質の離散版です。
数値例
件数がパラメータ $\lambda = 0.8$ のポアソン分布、クレーム額が1単位(確率 0.25)・2単位(確率 0.375)・3単位(確率 0.375)とします。総額が3単位になる確率 $f(3)$ を3通りで計算します。
1つ目は直接法。クレーム額分布の $n$ 重畳み込み $p^{n*}(3)$ をポアソン確率で重み付けます。$p^{1*}(3) = 0.375$、$p^{2*}(3) = 2 \times 0.25 \times 0.375 = 0.1875$、$p^{3*}(3) = 0.25^3 = 0.015625$ と、ポアソン確率 $e^{-0.8} = 0.449329$、$0.8e^{-0.8} = 0.359463$、$0.32e^{-0.8} = 0.143785$、$\frac{0.8^3}{6}e^{-0.8} = 0.038343$ から
$$f(3) = 0.375 \times 0.359463 + 0.1875 \times 0.143785 + 0.015625 \times 0.038343 = 0.162358$$
2つ目は分解法。額ごとの件数は独立なポアソンで、$N_1 \sim \mathrm{Po}(0.8 \times 0.25) = \mathrm{Po}(0.2)$、$N_2 \sim \mathrm{Po}(0.3)$、$N_3 \sim \mathrm{Po}(0.3)$。総額が3になる内訳は $(N_1,N_2,N_3) = (3,0,0),\ (1,1,0),\ (0,0,1)$ の3通りだけで、独立性から各確率は積で書けます。
$$f(3) = \frac{0.2^3 e^{-0.2}}{6}e^{-0.6} + 0.2e^{-0.2} \cdot 0.3e^{-0.3} \cdot e^{-0.3} + e^{-0.5} \cdot 0.3e^{-0.3} = 0.162358$$
3つ目は再帰法。ポアソンの場合のパンジャーの再帰式
$$f_S(x) = \frac{\lambda}{x}\sum_{y=1}^{\min(x,r)} y\, f_X(y)\, f_S(x-y)$$
を初期値 $f_S(0) = e^{-0.8} = 0.449329$ から回します。$r$ はクレーム額の最大値で、この例では $r = 3$ です。
| $x$ | 計算 | $f_S(x)$ |
|---|---|---|
| 1 | $0.8 \times (1 \times 0.25 \times 0.449329)$ | 0.089866 |
| 2 | $0.4 \times (0.25 \times 0.089866 + 0.75 \times 0.449329)$ | 0.143785 |
| 3 | $\frac{0.8}{3} \times (0.25 \times 0.143785 + 0.75 \times 0.089866 + 1.125 \times 0.449329)$ | 0.162358 |
3つの方法すべてで $f(3) = 0.162358$ が一致しました。あわせて平均と分散を分解特性で確かめると、$E(S) = 1 \times 0.2 + 2 \times 0.3 + 3 \times 0.3 = 1.7$、$V(S) = 1 \times 0.2 + 4 \times 0.3 + 9 \times 0.3 = 4.1$ で、公式 $E(S) = \lambda E(X) = 0.8 \times 2.125$、$V(S) = \lambda E(X^2) = 0.8 \times 5.125$ と一致します。
再帰式が使えるのは、件数分布が $p_k = (a + b/k)p_{k-1}$ を満たす $(a,b)$ クラスのときです。ポアソン($a=0,\ b=\lambda$)、二項、負の二項の3つが該当します。$f_S(x)$ の計算にそれまでの $f_S(0), \dots, f_S(x-1)$ を再利用できるので、畳み込みを全部やり直す直接法に比べて計算量が大幅に減ります。
試験ではこう出る
複合ポアソン分布は平成12年度以降の26年度中17年度に登場する、この章の中心論点です。
- H29.1-III は、複合ポアソン分布の畳み込みで解くこともできますが、分解特性を知っていると計算が大きく縮む問題です。タクティクスの講師コメントにも、性質を知り尽くして解く方法との使い分けが書かれています
- 2019.3-I は、パンジャーの再帰式そのものを穴埋めで導出させたうえで数値計算までさせる問題です。再帰式は結果を覚えるだけでなく、確率母関数の係数比較という導出の筋道ごと問われました
- H12.2(1)・H16.1(4)・H22.1-I のように、複合ポアソンの基本性質でスピード勝負をさせる小問も繰り返し出ています
タクティクス第2章「クレームの分析」には19問が収録されており、この記事の論点はその背骨にあたります。この記事の内容は暗記事項ではなく、畳み込みで解くか性質で解くかを問題ごとに選ぶための前提です。
つまずきポイント:件数を固定した world と混同する
「1万円の事故が増えたら2万円の事故は減るはずだから、$N_1$ と $N_2$ が独立のわけがない」と考えてしまう。この直感は、全体の件数 $N$ を固定した条件付きの世界では正しいのです(そのとき内訳は多項分布で、負の相関を持ちます)。しかし無条件の世界では $N$ 自体がポアソンでゆらぎ、そのゆらぎが負の相関を打ち消して、内訳は独立になります。
正誤問題で「$N$ を固定すると各 $N_k$ は独立なポアソン分布に従う」と出たら誤りです。固定した瞬間に多項分布(負の相関あり)に変わります。独立になるのは $N$ を固定しないときで、しかも件数分布がポアソンのときに限ります。件数が負の二項分布の複合分布では、この分解は独立になりません。
まとめ
- 独立な複合ポアソンの和は複合ポアソン。新しい頻度は $\Lambda = \sum\lambda_i$、新しいクレーム額分布は頻度比で重み付けた混合分布。
- クレーム額の種類ごとの件数は互いに独立なポアソン分布 $\mathrm{Po}(\lambda\pi_k)$。件数のゆらぎが内訳の負の相関を打ち消す。
- 総額の確率は直接法・分解法・再帰法の3通りで計算でき、数値例では $f(3) = 0.162358$ ですべて一致した。
- パンジャーの再帰式が使えるのは件数分布が $(a,b)$ クラス(ポアソン・二項・負の二項)のときに限る。
※ 厳密に言えば(補注)
- 積率母関数による証明は、クレーム額の積率母関数が $t = 0$ の近傍で存在することを前提にしています。対数正規分布のように積率母関数を持たない分布もあり、その場合は特性関数(クレーム額が整数値なら確率母関数)で同じ議論をします。結論の再生性・分解特性はそのまま成り立ちます。
- 分解特性の独立性は、各クレーム額の確率 $\pi_k$ が正である通常の設定での話です。$N$ を固定したときの負の相関(共分散 $-n\pi_i\pi_j$)も同様です。