この記事の数え方
アクチュアリー受験研究会のキックオフミーティングで発表された、損保数理の合格体験談のうち直近5年度分、8件を読みました。
母数は8件です。中央値や平均を出しても意味のある数字にならないので、「8件中何件」という形だけで書きます。
発表者は登壇した合格者であって、全合格者から無作為に選ばれた人ではありません。個々の発表内容は引用せず、分類してこちらの言葉で書き直しています。
3科目で比べると、損保数理だけ違う項目がある
同じ集計を数学9件と生保数理7件にも行いました。並べると差が出ます。
| 語られていた論点 | 損保数理 | 数学 | 生保数理 |
|---|---|---|---|
| 計算力・計算量・電卓 | 5/8 | 1/9 | 2/7 |
| 時間配分・解く順序 | 4/8 | 1/9 | 1/7 |
| モチベーション・継続 | 4/8 | 2/9 | 2/7 |
| 過去問の周回 | 6/8 | 7/9 | 5/7 |
計算量と時間配分の2つが、損保数理では他の2科目と比べて明らかに多く語られています。
ある発表者は、科目の特徴として次のように整理していました。試験時間に対して問題量が多いのは他科目も同じだが、計算量は第1次試験のなかで最も多いと感じる。教科書は数学が苦手な人には難解で、章ごとに独立した内容が多い。合格点を取るまでの学習難易度が高く、高得点を狙うのも難しい科目である、と。
章ごとに独立している、という指摘は学習計画に効きます。積み上げ式ではないので、どの章から入ってもよく、逆にどこかの章を落としたまま進めてしまえます。
教材の組み合わせ
8件が挙げた教材を集計すると次のようになります。
| 教材・環境 | 言及件数 |
|---|---|
| 過去問 | 8/8 |
| 指定教科書 | 7/8 |
| 合格へのストラテジー | 7/8 |
| 受験研究会の勉強会・質問 | 6/8 |
| 社内・学内の勉強会 | 2/8 |
| レベルチェックテスト・模試 | 2/8 |
| 自作の単語帳・ノート | 2/8 |
指定教科書が7/8件と高いのは生保数理と同じ傾向です。数学の5/9件とは対照的で、記号や用語の定義を確認する場所として教科書が必要になる科目だと分かります。
さらに損保数理に固有なのが、教科書の精読が得点に直結するという指摘です。ある発表者は、正誤問題を正解するためには教科書の精読が欠かせないと書いていました。同じ発表者は、教科書の太字部分は出尽くしていて出てこない、一方で章ごとに順番に出題される傾向があるので、次に来る章を予想するという意味でのヤマを張る余地はある、とも述べています。太字の暗記では足りず細部の精読が要る、しかし章の当たりは付けられる、という2段構えの読みです。
他科目の知識が効く
8件のうち3件が、他科目で学んだことが損保数理に効いたと書いていました。これは他の2科目には見られない特徴です。
数学から持ち込むものとして挙がっていたのは、主な分布の確率関数と密度関数、期待値、分散を九九のように使える状態にしておくこと、そして部分積分の公式です。ある発表者は、指数関数と多項式の積の積分について、微分を繰り返して並べる形の公式を挙げていました。
生保数理から持ち込むものとして挙がっていたのが、積立保険の章です。純保険料や責任準備金の考え方を生保数理で学んだ後のほうが理解しやすかった、という記述が複数件にありました。
逆向きの注意もあります。ある発表者は、数学ではあまり出てこない分布の特性値が損保数理では必要になる、と書いていました。数学で扱う範囲より広い分布を、損保数理では扱います。
学習の順序としては、数学と生保数理を先に置くと損保数理が楽になる、という関係が読み取れます。
学習の時系列
8件のスケジュールを重ねると次のようになります。
| 時期 | 多くの件で行われていたこと |
|---|---|
| 年明けから春 | 教科書を一読。分からなくても通す |
| 春から夏 | ストラテジーやワークブックで問題の解き方を反復 |
| 夏から秋 | 過去問演習。ショートカット公式を使って解けるようにする |
| 秋から試験まで | 教科書の精読。正誤問題と未出題の対策 |
ある発表者は、この流れを4段階として明示していました。教科書を訳が分からなくても読む、問題演習で解き方を反復する、過去問でストラテジーに出ていない問題も解けるようにする、最後に教科書を精読する、という順序です。教科書が最初と最後の2回出てくるのが特徴です。
過去問の1周目は解けなくてよい、と書いている件も複数ありました。4月から8月にかけて過去問を1周し、解けなくても問題ないとしたうえで、解き直しで解法を頭に入れていく、という進め方です。
学習時間を記録していた件
8件のうち、学習内容ごとの所要時間を記録していた件が1件ありました。
| 学習内容 | 所要時間 |
|---|---|
| 過去問15年分を3周以上 | 150時間 |
| 合格へのストラテジー3周以上 | 30時間 |
| 受験研究会の毎月の勉強会 | 20時間 |
| アクチュアリー会の基礎講座 | 20時間 |
| アクチュアリー会の演習講座 | 20時間 |
| 社内の毎週の自主勉強会 | 20時間 |
| 社内の隔週の勉強会 | 20時間 |
| 直前の単語帳による暗記 | 10時間 |
| 指定教科書 | 辞書として使用 |
合計はおよそ290時間です。うち半分強を過去問が占めています。
この発表者は繁忙期のある職場に勤める社会人で、その時期には学習を止めています。学習履歴を月ごとに見ると、年に4か月ほどが繁忙期で休みになっており、動けた月は毎朝3問ずつ進める形を取っていました。
止まる月があることを前提に計画を立てている点が、社会人受験者には参考になります。
過去問の量
量を明記していたのは8件中4件でした。
| 件 | 過去問の量 |
|---|---|
| A | 15年分を3周以上 |
| B | 分野別に周回。自分は3周すると理解できると分かっていたので3周に設定 |
| C | 4月から8月に1周。その後解き直しで解法を入れる |
| D | ワークブックと過去問を並行。章ごとに問題を集めて解く |
Bの発表者は、高校時代から問題集を3周すると成果が出せるという自分の性質を把握していたので、その回数に合わせたと書いていました。他人の周回数ではなく自分の性質から決める、という考え方です。
Dの発表者は、機械的に解ける章については、問題文の特徴からその章の問題だけを集めて解く方法を取っていました。問題文に事故年度と経過年数の表があれば支払備金の問題だと分かるので、その形式だけを横断して解く、という進め方です。章ごとに独立しているという科目の性質を利用しています。
数字で出せなかったこと
学習時間の数値を書いていたのは8件中2件、項目別に集計していたのは1件だけです。何回目の受験で合格したかを明記していた件は1件でした。
発表資料は総量ではなく時系列で語る形式が主流です。この資料群から学習時間や受験回数の分布は出せません。
まとめ
- 計算力や計算量に触れた件が8件中5件。数学の1/9件、生保数理の2/7件と比べて突出している。
- 指定教科書は7/8件。正誤問題のために精読が必要という指摘があり、教科書は最初と最後の2回使う。
- 他科目の知識が効くと書いた件が3/8件。数学の分布と部分積分、生保数理の純保険料と責任準備金。
- 章ごとに独立した科目なので、問題形式から章を特定して横断的に解く方法が取れる。
- 学習時間を項目別に記録した1件では、合計約290時間のうち150時間が過去問だった。