その名前をどこで見るか
ルンドベリの不等式として出てきます。損保数理の第8章、危険理論の中心にある結果です。
クレームの発生がポアソン過程に従い、1件ごとの金額が独立同分布で、保険料率が期待クレーム支払額を上回る——第8章で扱う標準的なモデル(クラメール=ルンドベリ模型)を考えます。初期資産 $u$ から出発して資産がいつかマイナスになる確率を破産確率といい $\psi(u)$ と書きます。正の調整係数 $R$ が存在するとき、ルンドベリの不等式はこの確率を次のように押さえます。
$$\psi(u) \leq e^{-Ru}$$
$R$ は調整係数(ルンドベリ係数)と呼ばれる正の数で、クレーム額の分布と安全割増から決まります。裾が極端に重く積率母関数が存在しない分布では、この $R$ 自体が存在せず、不等式をそのまま使えません。$R$ が大きいほど、また初期資産 $u$ が大きいほど、破産確率の上限が小さくなる。式が言っているのはそれだけです。
タクティクスの問題文では「Lundberg の不等式を用いて保険会社にとって最も保守的に評価した破産確率を求めよ」という形が繰り返し出てきます。保守的に評価する、とは上限のほうを答えとして使う、という意味です。
名前を探すときの注意
この記事の下敷きにするために過去問26年分を全文検索したとき、最初は「ルンドベリ」というカタカナで数えて0年度という結果が出ました。誤りです。過去問は英字で Lundberg と書きます。両方の表記で数え直すと13年度でした。
同じことがビュールマン(Bühlmann)にも起きます。教材や過去問を検索するときは、人名は英字表記でも試してください。この科目では、それだけで見つかる問題数が変わります。
どんな人だったか
フィリップ・ルンドベリ(Filip Lundberg)は20世紀初頭のスウェーデンの数理統計学者・保険数理人です。1903年の学位論文で、後に集合的危険理論と呼ばれる枠組みを提示しました。
彼の発想の新しさは、契約を1件ずつ見るのをやめたことにあります。それまでの保険数理は、個々の契約について保険料と給付を釣り合わせる考え方(個別的危険理論)が中心でした。ルンドベリは、会社全体に入ってくるクレームの流れをポアソン過程として捉え、資産の増減を1つの確率過程として扱いました。この見方の転換が、危険理論という分野そのものを作りました。
なぜその概念が必要になったか
保険会社にとっての本質的な問いは「平均的にいくら儲かるか」ではなく「潰れないか」です。期待値が黒字でも、クレームの当たり年が続けば資産は尽きます。
破産確率 $\psi(u)$ は、この問いに正面から答える量です。ところが、厳密に計算しようとすると積分方程式を解くことになり、クレーム額の分布が指数分布のような特別な場合を除いて閉じた式になりません。
ルンドベリの不等式は、この困難を迂回します。厳密な値の代わりに上限を与える。上限さえ分かれば、「破産確率が1%以下であることを保証するには初期資産をいくら持てばよいか」という実務的な問いには答えられます。$e^{-Ru} \leq 0.01$ を解いて $u \geq \log 100 / R$ とすればよい。これは十分条件で、実際の破産確率はこれより小さくなり得ます。
調整係数 $R$ をどう出すか
試験で問われるのは、たいてい $R$ の計算です。$R$ は次の方程式(ルンドベリ方程式)の正の解として定まります。
$$1 + (1+\theta)\mu R = M_X(R)$$
ここで $\theta$ は安全割増率、$\mu$ はクレーム1件あたりの平均額、$M_X$ はクレーム額の積率母関数です。クレーム額が指数分布なら $M_X$ が簡単な形になるので、$R$ が手計算で出ます。
この式を見ると、記号の読み分けの記事で扱った $\theta$ が安全割増率として使われていることが分かります。第3章の $\Theta$(リスクパラメータ)とは別物です。
安全割増 $\theta$ が0以下だと $R$ が存在せず、破産確率は1になります。保険料が期待クレーム額ちょうどでは、いつか必ず潰れる。この事実は、なぜ保険料に安全割増を乗せるのかという問いへの、数理からの回答になっています。
試験ではこう出る
過去問での登場は26年度中13年度。出方には型があります。
- クレーム額の分布と安全割増を与えて、調整係数 $R$ を求めさせる形
- $R$ を求めたうえで、破産確率の上限 $e^{-Ru}$ を計算させる形
- 破産確率を一定水準以下にするために必要な初期資産 $u$ を逆算させる形
- 再保険を付けた場合に $R$ がどう変わるかを比較させる形(第9章との複合)
最後の型は損保数理らしい出題です。再保険で大口クレームを移せば、保有するクレーム額の分布は軽くなります。一方で再保険料を払うぶん、手元に残る安全割増は減ります。$R$ が大きくなるかどうかは、この綱引きの結果次第——再保険の条件で決まります。数値を与えて実際に比べさせる問題が出ます。
まとめ
- ルンドベリの不等式は $\psi(u) \leq e^{-Ru}$。破産確率を厳密に解かずに上限で押さえる。
- フィリップ・ルンドベリは20世紀初頭のスウェーデンの保険数理人。契約単位でなく会社全体のクレームの流れを確率過程として扱う集合的危険理論を作った。
- 試験で問われるのは調整係数 $R$ の計算。$1+(1+\theta)\mu R = M_X(R)$ を解く。安全割増が0以下なら $R$ は存在せず破産確率は1になる。
- 過去問には英字の Lundberg で登場する。カタカナだけで検索すると0件になるので注意。