その名前をどこで見るか
パレート分布として出てきます。損保数理ではクレーム1件あたりの金額の分布として使われ、密度関数は
$$f(x) = \frac{\alpha x_0^{\alpha}}{x^{\alpha+1}} \qquad (x \geq x_0)$$
の形をしています。$x_0$ は最小値(この額より小さいクレームは考えない)、$\alpha$ は裾の重さを決める形状パラメータです。
過去問やタクティクスでは、$f(x) = 4x^{-5}$($x > 1$)のように具体的な数値で与えられることがほとんどです。この場合は $x_0 = 1$、$\alpha = 4$ にあたります。密度が $x$ のべき乗の形をしていたら、パレート分布だと思ってください。
指数分布との対比が、この分布の意味
損保数理でパレート分布を学ぶ意味は、指数分布との対比にあります。
| 指数分布 | パレート分布 | |
|---|---|---|
| 裾の減り方 | $e^{-\lambda x}$(指数的に速い) | $x^{-\alpha}$(べき乗。遅い) |
| 平均が存在する条件 | 常に存在 | $\alpha > 1$ |
| 分散が存在する条件 | 常に存在 | $\alpha > 2$ |
| 表すもの | 平均的な大きさのクレーム | 大口クレーム・巨大災害 |
決定的な違いは、モーメントが必ずしも存在しないことです。$\alpha \leq 1$ なら平均さえ無限大になります。$\alpha = 1.5$ なら平均はあるが分散が無い。この性質は数学的な珍事ではなく、現実のリスクの姿を反映しています。地震や台風のような損害は、過去の平均から次を予測することが原理的に難しい。パレート分布はその難しさを式として持っています。
試験でも、$\alpha$ の値によって期待値や分散が存在するかどうかを判定させる出題があります。計算に入る前に $\alpha$ を見る、という習慣が要ります。
どんな人だったか
ヴィルフレド・パレート(Vilfredo Pareto)は19〜20世紀のイタリアの経済学者・社会学者です。ローザンヌ大学で経済学を教え、所得分布の研究で知られました。
彼が発見したのは、所得の分布が上のほうで一定のべき乗則に従う、という経験則でした。「上位2割が全体の8割を占める」というパレートの法則、経済学のパレート最適も同じ人物の名前です。所得という社会現象の統計から出てきた分布が、100年後に保険の大口クレームを表す道具として使われている、という流れになります。
なぜその概念が必要になったか
保険料を決めるには、クレーム額の分布を仮定する必要があります。最初に試されるのは指数分布です。計算が軽く、無記憶性という扱いやすい性質を持っているからです。
しかし実データを見ると、指数分布では現実の大口クレームの頻度を説明できません。指数分布の下では、平均の10倍のクレームが起きる確率は $e^{-10}$ 程度と、事実上ゼロです。現実の保険では、そうした損害がときどき起きます。
パレート分布なら、桁が変わります。$\alpha = 2$ の場合、平均の10倍を超える確率は400分の1。指数分布の $e^{-10}$(約2万2千分の1)と比べて50倍以上です。さらに最小値 $x_0$ の10倍を超える確率で見れば $10^{-\alpha}$、$\alpha = 2$ なら100分の1になります。大口クレームの存在を計算に乗せるために、裾の重い分布が必要になる。それがこの分布の存在理由です。
試験ではこう出る
過去問での登場は26年度中10年度。損保数理らしい出方をします。
- 免責金額 $d$ を設定したときの支払額の期待値を計算させる形。積分区間が $[d, \infty)$ に切られる
- 超過損害額再保険(ELC)で、保有額を超える部分の期待値を出させる形(第9章との複合)
- パレート分布の期待値・分散が存在する条件を、$\alpha$ の値から判定させる形
- IBNRクレームの件数計算で、報告遅れの分布として使う形(第5章との複合)
積分の型は決まっています。免責額 $d$ を超えた分だけを支払う通常の免責なら、支払額の期待値は
$$E\left[(X-d)^{+} ight] = \int_d^{\infty} (x - d)\, f(x)\, dx = \int_d^{\infty} x f(x)\, dx - d\, P(X > d)$$
です。どちらの積分も、密度の指数を整理すれば $x^{-\alpha}$ の積分に帰着します。この処理を手が覚えていれば、免責が絡んでも再保険が絡んでも同じ計算です。なお、$d$ を超えたら全額を払うフランチャイズ方式なら $\int_d^{\infty} x f(x)\, dx$ のほうを使います。どちらの方式かで式が変わるので、問題文の読み取りが先です。
もうひとつ、条件付き分布の性質も押さえておきます。$X > d$ を条件としたときの $X$ 自身の分布は、下限が $x_0$ から $d$ に置き換わった、同じ形状パラメータのパレート分布になります。$P(X > x \mid X > d) = (d/x)^{\alpha}$ という形です。一方、超過額 $X - d$ の条件付き分布は $P(X-d > y \mid X > d) = \{d/(d+y)\}^{\alpha}$ となり、元と同じ形には戻りません。指数分布の無記憶性——超過額の分布が元とまったく同じ——との違いがここに出ます。どちらの分布が仮定されているかで、解法を切り替えてください。
まとめ
- パレート分布の密度は $x$ のべき乗の形。裾が指数分布よりずっと重く、大口クレームを表すために使う。
- $\alpha \leq 1$ なら平均が、$\alpha \leq 2$ なら分散が存在しない。計算前に $\alpha$ を確認する。
- ヴィルフレド・パレートは19〜20世紀イタリアの経済学者。所得分布の研究から生まれた分布が保険で使われている。
- 過去問では26年度中10年度。免責・超過損害額再保険・IBNRと組み合わせた出題が定番。
- $X > d$ の条件下で $X$ 自身は下限が $d$ のパレートになるが、超過額 $X-d$ は元と同じ形には戻らない。指数分布の無記憶性と対にして覚える。