問題
(合格へのタクティクス 損保数理第1章 長期係数・未経過係数系/参考類題 2019.1-1)
ある保険商品の予定料率構成割合(保険期間1年)は下表のとおりであった。
| 項目 | 記号 | 値 |
|---|---|---|
| 予定損害率 | $p$ | 50% |
| 予定新契約費率 | $\alpha$ | 20% |
| 予定事業費率 | $\beta$ | 10% |
| 予定代理店手数料率 | $\theta$ | 10% |
| 利潤率 | $\delta$ | 10% |
また、次の条件が与えられている。
- 純保険料および維持費は毎年同一
- 新契約費は初保険年度のみ支出され、維持費はすべての保険年度において支出される
- 代理店手数料および利潤は営業保険料に比例し、予定代理店手数料率および利潤率は、保険期間1年における予定代理店手数料率および利潤率を用いる
- 予定利率は1%
- 各保険年度の支出は各保険年度初にすべて支払われる
この商品の保険期間5年の長期一時払契約について、次を求めよ(小数点第3位四捨五入)。
- この契約の長期係数
- この契約が第3保険年度末に解約となったときの未経過料率係数
原問との違い:参考類題である本試験の原問では、予定代理店手数料率が15%、利潤率が5%になっています(また「予定事業費率」は原問では「予定維持費率」と表記されています)。上の類題では10%と10%です。
しかし答えはどちらも同じで、長期係数3.93、未経過料率係数0.38になります。式に現れるのは $\theta$ と $\delta$ の和だけで、$15\% + 5\%$ も $10\% + 10\%$ もどちらも20%だからです。手数料率と利潤率を別々に与えられても、収支相等の式に入る段階で足し合わされる——このことは、解く前に気づいておくと計算が1つ減ります。
まず何に着目するか
この問題の分かれ目は、条件文を「支出の種類」「支出の時点」「営業保険料に比例する部分」の3つに分けて式に翻訳できるかです。使うのは次の3つの条件です。
「新契約費は初保険年度のみ支出され、維持費はすべての保険年度において支出される」——この一文が、$\alpha$ と $\beta$ を区別して定義している理由そのものです。5年契約でも $\alpha$ は1回きり、$\beta$ は5回分かかります。
「各保険年度の支出は各保険年度初にすべて支払われる」——支出のタイミングが年度初めなので、割り引くときに使うのは期始払の確定年金現価率 $\aann{n}$ です。期末払の $\ann{n}$ ではありません。この一文を読んだ瞬間に $\aann{n}$ が確定します。
「代理店手数料および利潤は営業保険料に比例し」——$\theta, \delta$ は割合なので、収支相等の式で右辺に $P'(\theta+\delta)$ という形で現れ、移項して分母に来ます。
構成割合の合計を確かめておきます。
$$p + \alpha + \beta + \theta + \delta = 0.5 + 0.2 + 0.1 + 0.1 + 0.1 = 1$$
合計が1になるのは、これらがすべて営業保険料に対する割合だからです。1年契約の営業保険料を $1$ として計算できることを意味しており、以降の数値がそのまま係数になります。
解法の筋道
式を立ててから計算に入ります。
(1) 長期係数
$n$ 年長期一時払契約の営業保険料 $P'$ について、収支相等を立てます。収入は $P'$、支出は「新契約費(1回)+ 毎年分の現価 + 手数料と利潤」です。
$$P' = \alpha + (p+\beta)\aann{n} + P'(\theta+\delta)$$
$P'$ について解きます。
$$P' = \frac{\alpha + (p+\beta)\aann{n}}{1 - (\theta+\delta)}$$
1年契約の営業保険料を $1$ としているので、この $P'$ がそのまま長期係数です。
(2) 未経過料率係数
$m$ 年経過時点で残っているのは、残り $n-m$ 年分の「毎年かかる費用」だけです。新契約費はすでに使い切っているので入りません。
この残存費用を営業保険料の水準に直すと、$P'$ と同じように $1-(\theta+\delta)$ で割った形になります。
$$\text{残り期間に対応する額} = \frac{(p+\beta)\aann{n-m}}{1-(\theta+\delta)}$$
未経過料率係数は、これを契約時に受け取った $P'$ で割ったものです。割り算をすると $1-(\theta+\delta)$ が分子と分母の両方に現れて約分され、消えます。
$$U_m = \frac{(p+\beta)\aann{n-m}\ /\ \{1-(\theta+\delta)\}}{\{\alpha + (p+\beta)\aann{n}\}\ /\ \{1-(\theta+\delta)\}} = \frac{(p+\beta)\aann{n-m}}{\alpha + (p+\beta)\aann{n}}$$
最終的な式に $\theta$ も $\delta$ も残らないのはこのためです。手数料率や利潤率が変わっても未経過料率係数は変わらない、という意味でもあります。
計算
予定利率1%なので $v = 1/1.01 \fallingdotseq 0.990099$。
$$\aann{5} = 1 + v + v^2 + v^3 + v^4$$ $$\fallingdotseq 1 + 0.990099 + 0.980296 + 0.970590 + 0.960980 = 4.901965$$
(以下、途中の値はすべて表示上の丸めです。等号は近似の意味で読んでください。)
5年契約なのに $4.90$ です。割引の効果で約0.1年分が目減りしています。
$p + \beta = 0.5 + 0.1 = 0.6$、$1 - (\theta+\delta) = 1 - 0.2 = 0.8$ なので
$$P' = \frac{0.2 + 0.6 \times 4.901966}{0.8} \fallingdotseq \frac{3.141179}{0.8} \fallingdotseq 3.926474$$
小数点第3位を四捨五入して、長期係数は 3.93。
次に未経過料率係数です。第3保険年度末なので残りは2年、$\aann{2} = 1 + v \fallingdotseq 1.990099$。
$$U_3 = \frac{0.6 \times 1.990099}{0.2 + 0.6 \times 4.901966} \fallingdotseq \frac{1.194059}{3.141179} \fallingdotseq 0.380131$$
小数点第3位を四捨五入して、未経過料率係数は 0.38。
検算として意味を確かめます。5年のうち2年を残しているので、単純な比なら $2/5 = 0.40$ です。実際は0.38とそれより小さくなっています。新契約費が分母に入っている(=契約時に多めに徴収している)分だけ、戻りが少なくなるからです。単純比よりわずかに小さいという関係は、答えの妥当性チェックに使えます。
よくある誤答
新契約費を年数分足してしまう。
$$P' = \frac{5\alpha + (p+\beta)\aann{5}}{0.8} \qquad (\text{誤り})$$
条件文に「新契約費は初保険年度のみ支出され」と書いてあります。$\alpha$ は1回きりです。これをやると $P'$ が 4.93 となり、選択肢に合いません。
期末払の年金現価率を使ってしまう。 $\ann{5} = v + v^2 + \cdots + v^5 = 4.853431$ を使うと $P' = 3.890$ となり、四捨五入して3.89。3.93とは違う答えになります。「各保険年度の支出は各保険年度初にすべて支払われる」を読み落とすと、ここで落とします。
未経過料率係数の分子に $\alpha$ を入れてしまう。
$$U_3 = \frac{0.2 + 0.6 \times \aann{2}}{0.2 + 0.6 \times \aann{5}} = \frac{1.394059}{3.141179} = 0.444 \qquad (\text{誤り})$$
0.38 ではなく 0.44 になります。新契約費は契約獲得の時点で使い切っており、解約時に「未使用の新契約費」は存在しません。分子には入らないが分母には入る、この非対称を理由とセットで押さえてください。
類題はどこにあるか
タクティクス 損保数理の第1章「長期係数・未経過係数系」に7問あります。この問題は目標解答時間3分と最も易しい部類で、同じ節には次のような発展形が並んでいます。
- H23-1-1(目標7分)— インフレ率が加わり、割引と同時にインフレを織り込む
- H17-1-2(目標7分)— 純保険料を計算する際に割引を忘れないことが論点
- H22.3-1(目標9分)— 長期契約に運用収益を絡めた問題
- H21.2-I(目標10分)— 長期係数を求めるオーソドックスな問題だが、基礎値の構成の理解が必要
- H28-2-1(目標12分)— この節で最も重い問題
まずこの2019.1-1で式を手に馴染ませてから、インフレ入りのH23-1-1に進むのが順当です。式の骨格は同じで、$\aann{n}$ の中身が変わるだけだと分かると、見通しが立ちます。