問題

(合格へのタクティクス 損保数理第1章 フランチャイズ・エクセス系/参考類題 H14.1-IV)

損害額 $X$ が平均100の指数分布で表されるとき、支払額ゼロの場合を含めた平均支払額について、エクセス方式の場合を $S_E$(免責金額10)、フランチャイズ方式の場合を $S_F$(免責金額20)とする。このとき $S_E / S_F$ を求めよ。

原問との違い:参考類題である本試験の原問は、分布関数を $F(x) = 1 - e^{-x/100}\ (x \ge 0)$ の形で与えたうえで、$S_F / S_E$(この記事とは逆向きの比)を問うています。

そして原問の選択肢には、1.087 と 0.920 の両方が並んでいます。この記事で求める $S_E/S_F = \frac{5}{6}e^{0.1} \approx 0.920$ の逆数が $S_F/S_E = \frac{6}{5}e^{-0.1} \approx 1.087$ で、原問の正解は後者です。向きを取り違えるともっともらしい選択肢に着地する、という作りになっています。どちらを分子にするかを最初に確認すること自体が、出題の狙いです。

なお原問には「$e^x$ の値が必要な場合には $e^x = 1 + x + \dfrac{x^2}{2}$ で近似せよ」という指示が付いています。CBT方式では関数電卓が使えないため、指数関数の値はこのように与えられるか、選択肢に $e^{0.1}$ の形で残されます。

まず何に着目するか

問題文の「支払額ゼロの場合を含めた平均支払額」という但し書きが、この問題の入口です。

支払いが発生した契約だけで平均をとるのか、支払いゼロの契約も母集団に含めて平均をとるのかで、答えはまったく変わります。ここでは含めるので、期待値を素直に $0$ から $\infty$ まで(実質は免責を超える範囲で)積分すればよいことになります。条件付き期待値にする必要はありません。

次に、2つの方式の違いを式に落とします。

$$\text{エクセス:}\ Y = \max(0,\ X-a) \qquad \text{フランチャイズ:}\ Y = \begin{cases} 0 & (X \le a)\\ X & (X > a)\end{cases}$$

被積分関数が $(x-a)$ か $x$ か。違いはここだけです。免責金額が $S_E$ で10、$S_F$ で20と別々に設定されているので、混ぜないよう注意します。

指数分布の密度は $f(x) = \frac{1}{100}e^{-x/100}$ です。

解法の筋道

エクセス方式は、指数分布の無記憶性を使うと積分せずに答えが出ます。

$$E[(X-a)_+] = e^{-a/\mu} \times \mu$$

免責を超える確率 $e^{-a/\mu}$ をかけた先で、超過分の期待値がまた平均 $\mu$ の指数分布になる、というのが無記憶性です。ただし試験では定義どおりの積分でも十分間に合うので、両方の道筋を示します。

フランチャイズ方式は $x$ そのものを積分するので、定義どおりに進むなら部分積分が必要です。ここで使う形を先に用意しておくと速くなります。

$$\int x\,\frac{1}{\mu}e^{-x/\mu}dx = -(x+\mu)e^{-x/\mu} + C$$

この不定積分は、微分して確かめられます。積の微分から

$$\frac{d}{dx}\left\{-(x+\mu)e^{-x/\mu}\right\} = -e^{-x/\mu} + \frac{x+\mu}{\mu}e^{-x/\mu} = \frac{x}{\mu}e^{-x/\mu}$$

確かに元に戻ります。この形を覚えておくと、フランチャイズ方式は代入するだけになります。

ただし、フランチャイズ方式にも無記憶性は使えます。支払額の期待値を条件付きに分解すると

$$E[X \cdot 1_{\{X > a\}}] = P(X > a)\,E[X \mid X > a]$$

で、無記憶性より $X \mid (X > a)$ は $a + (\text{平均} \mu \text{の指数分布})$ と同じ分布に従うので $E[X \mid X > a] = a + \mu$。したがって

$$S_F = e^{-a/\mu}\,(a + \mu)$$

免責20、$\mu = 100$ を入れれば $e^{-0.2} \times 120 = 120\,e^{-0.2}$ で、部分積分の答えと一致します。「超えた先はまた同じ指数分布」という一言で、両方式とも積分せずに書き下せるわけです。以下では両方の道筋を示します。

計算

エクセス方式(免責10)

$$S_E = \int_{10}^{\infty}(x-10)\frac{1}{100}e^{-x/100}dx$$

$t = x - 10$ と置くと $dx = dt$、$e^{-x/100} = e^{-0.1}e^{-t/100}$ なので

$$S_E = e^{-0.1}\int_0^{\infty} t\,\frac{1}{100}e^{-t/100}dt = e^{-0.1} \times 100 = 100\,e^{-0.1}$$

積分の中身は平均100の指数分布の期待値そのものです。これが無記憶性の正体でもあります。

フランチャイズ方式(免責20)

$$S_F = \int_{20}^{\infty} x\,\frac{1}{100}e^{-x/100}dx = \left[-(x+100)e^{-x/100}\right]_{20}^{\infty}$$

上端は $x \to \infty$ で $e^{-x/100}$ が指数的に0に落ちるので0。下端を代入して

$$S_F = 0 - \left\{-(20+100)e^{-20/100}\right\} = 120\,e^{-0.2}$$

無記憶性を使えば $S_F = e^{-0.2}(20+100) = 120\,e^{-0.2}$ と一行で書けます。どちらでも構いませんが、本番では後者のほうが速く、計算ミスも減ります。

比をとる

$$\frac{S_E}{S_F} = \frac{100\,e^{-0.1}}{120\,e^{-0.2}} = \frac{100}{120}\,e^{-0.1+0.2} = \frac{5}{6}\,e^{0.1}$$

答えは $\dfrac{5}{6}e^{0.1}$ です。

数値で確かめると $e^{0.1} \approx 1.1052$ なので $\frac{5}{6} \times 1.1052 \approx 0.921$。エクセス(免責10)のほうが、フランチャイズ(免責20)より平均支払額がやや小さいという結果です。免責が小さいエクセスのほうが支払いが多くなりそうですが、フランチャイズは超えたら全額出るので、そちらが上回っています。

よくある誤答

指数関数の値を途中で代入してしまう。 $e^{-0.1} \approx 0.9048$、$e^{-0.2} \approx 0.8187$ を早い段階で入れると、割り算のときに $e^{0.1}$ という簡潔な形が見えなくなり、答えが選択肢と照合しにくくなります。この問題の選択肢には $e^{0.1}$ がそのまま並んでいます。指数関数は最後まで文字のまま持ち、比をとってから整理する。タクティクスの解説でも同じ工夫が指摘されています。

フランチャイズ方式で $(x-20)$ を積分してしまう。方式の定義を取り違えると、こうなります。

$$S_F = \int_{20}^{\infty}(x-20)\frac{1}{100}e^{-x/100}dx = 100\,e^{-0.2} \qquad (\text{誤り})$$

これだとエクセス方式の計算になり、比は $\frac{100e^{-0.1}}{100e^{-0.2}} = e^{0.1}$ となって $5/6$ が消えます。フランチャイズは免責額を引かない、という定義に立ち返ってください。実際、$5/6$ という係数は $120$ と $100$ の比、つまり「$x$ を積分したか $(x-a)$ を積分したか」の差から生まれています。

免責金額を取り違える。 $S_E$ が10で $S_F$ が20です。同じ値だと思い込むと、$e$ の肩の数字がずれます。

類題はどこにあるか

タクティクス 損保数理の第1章「フランチャイズ・エクセス系」に10問あります。この問題は目標3分で、この節の中では最も軽い部類です。

  • H28.1-II(目標9分)— パレート分布での免責。教科書第2章の練習問題の改題
  • H26.2.1(目標9分)— 対数正規分布。計算は複雑だが公式化されたテクニックで処理できる
  • H23.2-III(目標10分)— この節で最も重い。計算量が多く、指数関数を最後に代入する工夫が必須
  • H21.2-IV(目標9分)— 支払対象とならない事故を分布関数の設定から除くことが論点

分布が変わっても、「支払額を場合分けで書く → 期待値を積分する」という骨格は同じです。この問題で骨格を固めてから、分布を差し替えた問題に進むと、どの分布でも同じ手順で処理できるようになります。