問題
(合格へのタクティクス 損保数理第1章 損害率系/参考類題 H27.1-2)
ある定額払保険商品の発売にあたり、次のとおり保険料収入と保険金支払について計画を作成し、それに基づく各年度の損害率の検討を行う。
- 発売開始日は初年度の期首(保険始期は毎月1日のみ)
- 保険期間は1年間のみ
- 払込方法は一時払のみとし、保険始期と同日に収入する
- 各月の営業保険料収入は、初年度は毎月35万円、次年度は毎月40万円
- 予定損害率は60%とし、事故は保険期間中均一に発生すると仮定する。事故発生から保険金支払までの期間は2か月とする
このとき、下記の損害率を求めよ。
- 初年度のアーンドベーシス損害率(既経過保険料は保険始期を毎月月初とする12分の1法で算出し、発生保険金については事故発生と同時に保険金の発生を認識するものとして算出する)
- 初年度のリトンベーシス損害率
- 次年度のリトンベーシス損害率
まず何に着目するか
この問題の骨格は「同じ計画から3つの違う数字が出るのはなぜか」を理解しているかどうかです。
(1) のアーンドベーシスは、期間対応が取れた指標です。分母は経過した分の保険料、分子は発生した分の保険金。事故が保険期間中均一に発生するという仮定があるので、経過した保険料に対して発生する保険金は必ず予定損害率どおりになります。つまり計算せずに答えが出ます。ここに気づけるかどうかが最初の分かれ目です。
(2)(3) のリトンベーシスは、分母が計上保険料(契約時に全額)、分子が支払保険金(実際に出ていったお金)です。事故発生から支払まで2か月のタイムラグがあるので、ある年度に契約した保険の保険金が、その年度中に全額出ていくとは限りません。ここで期間を数える作業が発生します。
数える対象は「保険始期ごとに、当年度中に支払が行われる事故発生期間は何か月分か」です。保険始期が月初のみ、保険期間1年、支払まで2か月という条件から、始期が遅いほど当年度に間に合う支払は少なくなります。
解法の筋道
(1) アーンドベーシス
事故が保険期間中均一に発生し、発生保険金を事故発生と同時に認識するので、既経過保険料と発生保険金は常に予定損害率の比を保ちます。したがって
$$\text{アーンドベーシス損害率} = \text{予定損害率} = 60\%$$
12分の1法で既経過保険料を計算する必要はありません。比で考えれば分母と分子の両方に同じ経過割合がかかり、約分で消えるからです。
(2)(3) リトンベーシス
分母は簡単です。計上保険料は契約時に全額なので、月額 × 12 です。
分子を数えます。ある月に始期を迎えた契約について、事故はその後1年間に均一に発生し、支払は事故の2か月後です。したがって当年度中に支払われるのは、当年度末の2か月前までに発生した事故に限られます。
初年度について、第1月始期の契約を考えます。保険期間は第1月から翌年の第12月まで。当年度末(第12月末)までに支払が行われるのは、第10月末までに発生した事故です。つまり第1月から第10月までの10か月分。
第2月始期なら、保険期間は第2月から。当年度中の支払対象は第2月から第10月までの9か月分。以下同様に減っていき、第10月始期は1か月分。第11月始期の契約は、最初の支払が翌年度の第1月になるので当年度は対象外。第12月始期も同様に対象外です。
保険料は月額一定なので、1か月あたりの発生保険金は(月額保険料 × 予定損害率 ÷ 12)です。したがって
$$\text{支払保険金} = \frac{10+9+\cdots+1}{12} \times (\text{月額保険料}) \times 0.6$$
次年度は、初年度契約の残りと次年度契約の分の両方が出ていきます。ここが (3) の要点です。
計算
(1) 上記のとおり、60%。
(2) 初年度のリトンベーシス
計上保険料は $35 \times 12 = 420$ 万円。
支払保険金は、$1$ から $10$ までの和が $55$ なので
$$\frac{10+9+\cdots+1}{12} \times 35 \times 0.6 = \frac{55}{12} \times 21 = 96.25\ \text{万円}$$
$$\text{リトンベーシス損害率} = \frac{96.25}{420} = 0.2291\cdots$$
初年度のリトンベーシス損害率は約23%です。
(3) 次年度のリトンベーシス
計上保険料は $40 \times 12 = 480$ 万円。
支払保険金は2つの部分に分かれます。
初年度に契約した分の残り。初年度の第1月始期の契約は、初年度中に10か月分が支払われました。残りは第11月・第12月に発生した事故の2か月分が次年度に支払われます。第2月始期なら初年度に9か月分なので残りは3か月分。以下、第10月始期は残り11か月分、第11月始期は12か月分(丸ごと次年度)、第12月始期は保険期間の最終月に発生した事故の支払が翌々年度に回るため11か月分です。
$$\frac{2+3+\cdots+12+11}{12} \times 35 \times 0.6$$
分子の和は $2+3+\cdots+12 = 77$ に $11$ を足して $88$。
$$\frac{88}{12} \times 21 = 154\ \text{万円}$$
次年度に契約した分。初年度と同じ構造なので
$$\frac{10+9+\cdots+1}{12} \times 40 \times 0.6 = \frac{55}{12} \times 24 = 110\ \text{万円}$$
合計して
$$\text{リトンベーシス損害率} = \frac{154 + 110}{480} = \frac{264}{480} = 0.55$$
次年度のリトンベーシス損害率は55%です。
3つの答えが 60%、23%、55% と大きくばらつきました。同じ商品の同じ計画から出た数字です。
よくある誤答
(1) を真面目に12分の1法で計算しようとする。計算しても60%になりますが、時間を大きく損します。目標解答時間7分の問題で、ここに時間を使うと (3) が終わりません。期間対応が取れている指標では、均一発生の仮定のもとで損害率は予定どおりになるという理屈を先に押さえてください。
タイムラグを事故発生側ではなく支払側で数えてしまう。「当年度末までに支払われるのは、当年度末の2か月前までに発生した事故」という向きを逆にすると、月数がずれます。タクティクスの解説では、支払期間ベースで記述するほうが数えやすいという指摘もあります。自分がどちらのベースで数えているかを最初に決めて、最後まで揃えるのが対策です。
(3) で初年度契約の残りを忘れる。次年度に契約した分だけで計算すると $110/480 = 22.9\%$ となり、初年度とほぼ同じ数字になります。ここで「前年と同じくらいだろう」と納得してしまうと誤答に気づけません。タイムラグがある以上、前年契約の支払が当年度に流れ込むことを構造として理解しておく必要があります。
リトンベーシスの向きを取り違える。初年度23%、次年度55%と、次年度のほうが大幅に高く出ています。商品の収益性は変わっていないのに、です。これは初年度に「支払がまだ出ていない」ぶん損害率が低く出て、次年度にその分が乗ってくるためです。保険料収入が増えている局面ではリトンベーシス損害率は低く出るという一般則が、そのまま現れています。
類題はどこにあるか
タクティクス 損保数理の第1章「損害率系」に9問あります。この問題は目標7分です。
- 2018.1-I(目標7分)— 料率改定と補償縮小をまたいだリトンベーシス損害率
- H17.1-1(目標7分)— 料率改定を保険料収入に反映する典型問題
- 2018.2.3(目標7分)— アーンドベーシスの会計年度ベースと会計年度−事故年度ベースの違い
- 2020.1-1(目標7分)— 優良戻し保険料・追徴保険料が絡む
この問題の価値は、リトンベーシス損害率を未調整のまま料率算定に持ち込めない理由を、数字で体験させるところにあります。事故発生から支払までのタイムラグと契約量の変動が、そのまま損害率に出てしまうからです。同じ商品で23%と55%が出るという事実を一度計算しておくと、ベーシスの違いを説明する記述問題でも強くなります。