この記事の数え方
前編にあたる分析記事と同じく、アクチュアリー受験研究会のキックオフミーティングで発表された損保数理の合格体験談、2021〜2025年度試験の5年度分・8件を読んで分類したものです。
母数は8件です。発表者は登壇した合格者であり、全合格者から無作為に選ばれたわけではありません。個々の発表内容は引用せず、分類してこちらの言葉で書き直しています。
4年かけた人が、何を間違えていたか
8件のなかで最も学びが多いのは、4年かけて合格した1件です。年度ごとに何が起きたかが記録されています。
1年目は独学でした。教科書を読んでも意味が取れず、イメージも湧かない。過去問は問題も解説も理解できない。当然のように手応えなく不合格でした。
2年目に受験研究会に参加し、ワークブックの存在を知ります。厳密な理解はいったん脇に置いて、問題の解き方とショートカット公式を身につける方針に切り替えました。本番では前半は解けたものの、後半の難問に届かず不合格。この年の反省として、読む勉強ばかりで書く練習を怠ったこと、そのために計算の途中で気づくべき変換に気づかずミスが多かったことを挙げています。
3年目も同じ失敗を繰り返します。ワークブックと教科書を読む勉強が中心でした。本番では開始直後に「見たことのある問題ばかりだ」と自信を持ったにもかかわらず、いざ計算すると手が進まず不合格。
4年目に、当たり前のことをした、と書いています。しっかりと書く練習をしたことです。加えて、毎日1問が出題される学習の場に参加し、教科書を細かい部分まで意識して暗記しました。この年に合格しています。
結論として2つを挙げていました。最後まで計算するためには書く練習が欠かせないこと。正誤問題を正解するためには教科書の精読が欠かせないこと。どちらにも「当たり前」と自ら注記しています。
つまずきは4つに分かれた
8件の記述を分類すると次のようになりました。
| つまずき | 言及件数 |
|---|---|
| 計算量と計算ミス | 5/8 |
| 時間配分と解く順序 | 4/8 |
| 学習の継続 | 4/8 |
| 特定の章が越えられない | 3/8 |
つまずき1:読めるが書けない
前節の件が典型ですが、他の件にも同じ構図が現れます。
計算量が第1次試験のなかで最も多いと感じる、という評価が出ていました。試験時間に対して問題量が多いのは他科目も同じでも、1問あたりの計算が重いのが損保数理だという見立てです。
対策として複数件に共通していたのが、ショートカット公式を覚えることでした。ある発表者は、問題演習の段階でショートカット公式をできる限り覚え、過去問の段階ではそれを駆使して解けるようにする、という2段構えを書いています。
計算の量が多い以上、正攻法で押すと時間が足りません。短い道を知っているかどうかが得点差になる、というのが8件から読み取れる共通認識でした。
つまずき2:時間配分と解く順序
8件中4件が触れています。当サイトで体験談を分析した3科目(数学・生保数理・損保数理)のなかで最も多い比率です。
ある発表者は、問題ごとの配点と問題数を年度別に集計していました。その集計(2017〜2021年度)では、問題1が平均およそ20点、問題2がおよそ29点、問題3がおよそ35点、そして2020年度まであった問題4がおよそ16点。2021年度からは問題4がなくなり、そのぶん問題3が50点近くまで膨らんでいます。いずれの年度でも、後半の大問の比重が大きいことが分かります。どの問題にどれだけ時間を割くかを、この配分から逆算する発想です。
別の件は、問題の得点を100点で割り、それに180分と6分の5を掛けた値を目安とし、それを超えたら飛ばす、という判断基準を持っていました。ただし判断が難しいとも書き添えています。
終了25分前になったら見直しに入り、余った時間を解けそうな問題に投入するという運用も挙がっていました。見直しは労力に対する得点効率が最も良い、という判断です。
まったく解けない問題については、あらかじめどの記号を選ぶか決めておいて時間の損失を抑える、という記述もありました。
つまずき3:学習が続かない
8件中4件が継続の難しさに触れています。
社会人の件では、繁忙期に学習が止まることを前提に計画を立てていました。月ごとの学習履歴を見ると、年に4か月ほどは休みになっています。動ける月は毎朝3問ずつ進める形です。仕事の後や休日にまとめて詰め込む形は自分には安定しなかった、と書いていました。
別の社会人の件では、感染症の流行で転職活動が難しくなった年にモチベーションが下がり、受験科目を1科目に絞ったという記述があります。
学生の件では、就職活動と並行した年に学習が停滞したという記述が複数ありました。
いずれも、止まる期間があること自体を織り込んでいます。止まらないようにするのではなく、止まっても戻れるようにする、という構えです。
つまずき4:特定の章が越えられない
損保数理は論点ごとのまとまりが強く、章単位で仕上がりに差がつきやすいため、特定の章だけが残ることがあります。8件中3件が具体的な章名を挙げていました。
もっとも明確だったのが、コピュラを表のラスボス、危険理論を裏のラスボスと呼んだ件です。この発表者は、コピュラについて目的、数式、計算の3段階に分けた攻略法を発表資料の中心に据えていました。
コピュラの目的は確率変数どうしの従属性を表現することにある、という説明から入っています。よく使うピアソンの相関係数は主に線形の関係を測る指標だが、従属性はそれより広い意味での関係であり、順位の連動や裾での同時発生など、相関係数だけでは捉えきれない側面も含む、という整理です。
同じ発表者は、コピュラの周辺で押さえるべき項目も列挙していました。ケンドールの順位相関、スピアマンの順位相関、スクラーの定理、生存コピュラ、反単調コピュラ、積コピュラ、アルキメデス型コピュラ、裾従属係数、経験コピュラ、パラメータの推定、そして連続と離散で何が変わるか。1つの章の中に、これだけの下位項目があります。
他の件では、積立保険の章が生保数理を学んだ後のほうが理解しやすかった、という記述がありました。逆に言えば、生保数理を学ばずに損保数理から入ると、この章で止まる可能性があります。
対策として挙がっていたこと
つまずきに対する対策を、4つの型に整理します。
書く練習を組み込む。読んで分かる状態と、時間内に書き切れる状態は別だという前提に立ちます。毎日1問を解いて投稿する場に参加した件、社内の勉強会で毎週手を動かした件がありました。
教科書を2回使う。1回目は分からなくても通し、演習を挟んでから2回目に精読する。正誤問題の対策はこの2回目に置く、という順序です。
問題形式から章を特定する。問題文に事故年度と経過年数の表があれば支払備金の章だと判断し、その形式だけを横断して解く。問題形式と論点の対応がはっきりしている科目の性質を利用した進め方です。
質問できる場所を確保する。8件中6件が受験研究会での質問や勉強会に触れていました。ある件では、質問事項をメールで事前に送ることで、分からない部分を自分で言語化する効果があったと書いています。分からないことを言葉にする過程そのものが学習になる、という指摘です。
まとめ
- 4年かけて合格した件は、2年続けて読む勉強で失敗していた。開始直後は見たことのある問題だと思っても、書く練習がないと手が進まない。
- つまずきは4つ。計算量と計算ミス5/8件、時間配分4/8件、継続4/8件、特定の章3/8件。
- 計算量が多いぶん、ショートカット公式を覚えて短い道で解けるかが得点差になる。
- コピュラを表のラスボス、危険理論を裏のラスボスと呼んだ件がある。コピュラは下位項目が多く、まとめて時間を取る必要がある。
- 教科書は2回使う。1回目は分からなくても通し、演習後の2回目に精読して正誤問題に備える。