なぜ損保数理だけ計算量が問題になるのか

体験談分析の記事で見たとおり、計算力・計算量への言及は8件中5件。数学(1/9)、生保数理(2/7)と比べて明らかに多い。件数は少ないので断定はできませんが、出題の構造を見ると、この偏りには理由があります。

理由は3つあります。

1つ目は、多段階の計算が多いことです。チェインラダー法(16/26年度に登場)は、三角表から各年度の進展係数を出し、それを累積し、最新の対角線に掛けて将来分を推定します。1つ間違えると後ろが全部ずれる連鎖構造で、しかも数字の個数が多い。

2つ目は、分布の期待値を積分で出す場面が多いことです。免責(22/26年度)やエクセス方式・フランチャイズ方式(合わせて24/26年度)が絡むと、積分区間が切られたり、条件付き期待値になったりします。指数分布・パレート分布・対数正規分布のそれぞれについて、この処理が要求されます。

3つ目は、指数関数と対数が式の中に残ることです。破産確率(24/26年度)では、調整係数 $R$ を求めたうえで $e^{-Ru}$ という指数項を扱いますし、積率母関数(22/26年度)は $e^{tx}$ の期待値そのものです。

関数電卓が使えない、という制約

CBTで持ち込める電卓は、四則演算・平方根・メモリーのみです(詳細は制度の記事にまとめました)。$e^x$ も $\log$ も $x^y$ もキーがありません。

上で挙げた3つ目の理由——指数関数が式に残る——と、この制約は正面からぶつかります。そのため損保数理の出題では、次のような配慮がよく見られます。

  • 問題文が $e^{-0.2} = 0.8187$ のように数値を与える
  • 選択肢が $e^{0.1}$ を含んだ式のまま並んでいる
  • 途中で指数項が相殺され、最終的な答えに残らない

いずれにしても、指数関数を電卓で数値化する作業が受験者に押しつけられることは、まずありません。受験者がやるべきなのは、指数関数を最後まで文字のまま持ち回ることです。途中で近似値に直すと、桁が増えて計算が重くなるうえ、選択肢と形が合わなくなります。

制限された電卓で戦う3つの技

その前提で、手を動かす部分を軽くする技術を挙げます。

累乗は定数計算で作る。 $(1+i)^n$ や $v^n$ は、多くの電卓で「$\times$ を2回押す(機種により1回)」の定数乗算モードを使い、$=$ を繰り返して作れます。注意点は $=$ の回数と指数の対応が機種で違うことです。$1.02 \times 1.02 =$ から始めると1回目の $=$ で2乗になるので、$n$ 乗までは $=$ を $n-1$ 回。$1 \times 1.02 =$ から始めれば回数がそのまま指数になります。本番で使う電卓で必ず確かめてください。

メモリーで三角表を回す。 チェインラダーの進展係数は「縦の和 ÷ 縦の和」の繰り返しです。$M+$ で列の和を作り、$MR$ で呼び出して割る。途中結果を紙に書き写す回数を減らすほど、転記ミスが減ります。損保数理でいちばん惜しい失点は、計算の間違いではなく書き写しの間違いです。

平方根キーは対数正規分布で効く。 $\sqrt{\ }$ が使えることを忘れないでください。対数正規分布の計算で $\sigma^2$ から $\sigma$ を出す場面や、分散から標準偏差を経て変動係数を出す場面で1押しです。

180分の使い方 — 診断してから解く

体験談で時間配分に触れた4件に共通していたのは、最初に全体を見てから解く順序を決める、という手順でした。CBTは問題間の移動が軽いので、この戦略が取りやすくなっています。

診断の観点は3つです。

  • 三角表がある問題は、計算量が確定的に重い。時間の見積もりを大きめに取る
  • 積分が必要な問題は、分布が何かで難易度が決まる。指数分布なら軽い、パレートや対数正規なら重い
  • 破産確率・調整係数の問題は、式を立てるまでが勝負。立ってしまえば計算は短い

この3つを最初の数分で仕分けし、軽いものから確実に取る。重い三角表の問題を最初に始めて、途中で1つずれて全部やり直す——これが典型的な失敗です。

演習でやるべきこと

最後に、本番までの練習で意識すべき点を挙げます。

時間を計って解くこと。これに尽きます。損保数理では「解ける」と「時間内に解ける」の差が、そのまま合否の差になります。目標解答時間が付いている問題集を使い、自分の所要時間との差を記録してください。差が大きい問題の種類が、あなたが詰めるべき領域です。

そして、本番で使う電卓を演習の最初から使うこと。定数計算の $=$ の回数、メモリーキーの位置、平方根の挙動。これらは電卓ごとに違い、本番当日に確かめる時間はありません。

まとめ

  • 計算力・計算量への言及は体験談8件中5件で3科目最多。「解けるが間に合わない」が語られやすい科目。
  • 重さの原因は、三角表の多段階計算、免責を含む積分、指数関数の混入の3つ。
  • CBTの電卓は四則演算・平方根・メモリーのみ。指数関数は出題側が数値を与えるか選択肢に残すので、受験者は文字のまま持ち回る。
  • 累乗は定数計算($=$ の回数は機種で違う)、三角表はメモリー、対数正規は平方根キー。
  • 180分は最初に仕分けてから使う。三角表は重い、破産確率は式が立てば短い。軽いものから確実に取る。
  • 演習は必ず時間を計り、本番で使う電卓を最初から使う。