この記事の数え方

前編と同じく、アクチュアリー受験研究会のキックオフミーティングで発表された生保数理の合格体験談、直近5年度分の7件を読んで分類したものです。

母数は7件です。発表者は登壇した合格者であり、全合格者から無作為に選ばれたわけではありません。個々の発表内容は引用せず、分類してこちらの言葉で書き直しています。

最初の壁は、想像より高い

7件のうち複数件が、学習の初期にほとんど手が出なかったことを書いていました。

ある発表者は、ワークブックを一周してから過去問に取りかかりました。平成12年度と13年度を解いた結果が0点と5点。絶望した、と書いています。その後、受験研究会で質問し、反復の回数を増やすことと理解を深めることが必要だと知って方針を変えました。

別の発表者は、6月時点の知識が「定期保険や養老保険といった種類がある」「計算基数という記号がたくさん出てくる」という程度だったと書いています。この状態で過去問に入り、1年分を解き終えるのに1週間、時間にして12時間以上かかっていました。

さらに別の件では、5月に教科書を読んで絶望し、6月から7月は勉強から離れていたとあります。

これらはいずれも、最終的に合格した人の記述です。最初に歯が立たないことは、この科目では異常ではありません。

つまずきは4つに分かれた

7件の記述を分類すると、次のようになりました。

つまずき 言及件数
記号と計算基数が読めない 4/7
理解したつもりで止まっている 3/7
計算ミス 3/7
手が動かない状態からどう進めるか 3/7

つまずき1:記号と計算基数

生保数理は記号の体系が独特です。年金現価記号のかぎ、据置を表す左下の添字、責任準備金の記号。これらが読めないと、問題文の意味がそもそも取れません。

不合格の翌年に合格した1件が、自分に足りていなかった項目を具体的に挙げていました。計算基数、確率論的表示、人口モデル、解約と変更と転換、就業不能の年金現価と特約、完全年金です。いずれも記号や仕組みの理解が浅いと式変形が止まる箇所です。

この発表者は、翌年に年金数理を並行して学んだことで計算基数の扱いが腑に落ち、それが解約や変更や転換の理解にもつながったと書いています。別の科目を経由して戻ってくるという道筋です。

前編で触れた、教科書を章順に読まない進め方も、ここに効きます。純保険料と責任準備金を先に持ってくれば、記号が繰り返し出てくるので定着が早くなります。

つまずき2:理解したつもりで止まっている

もっとも示唆的だったのが、不合格の翌年に合格した1件の分析です。

この発表者は、不合格だった年と合格した年の差を「概念・公式・用語の本質的な理解の深さの不足」と言語化し、理解を3段階に分けていました。

  • 導出できる
  • 意味が言える
  • 自由自在に使える

そのうえで、不合格だった年は範囲の7割ほどしかこの水準に達しておらず、合格した年は9割5分まで持ち上げた、と述べています。安定して点を取るには全体の9割ほどを深いところまで仕上げる必要がある、というのが結論でした。

同じ発表者は、過去問10年分それぞれの得点を記録して並べていました。67点から100点まで散らばっています。合格点は60点ですが、67点の年があるということは、当たり外れで落ちる可能性が残っているということです。

理解の段階を自分で決めておく、という発想は他の件にも現れます。どこまで導出できるようにするか、どこからは覚えて瞬時に書けるようにするか。項目ごとに線を引くという書き方です。

すべてを導出できるようにするのは時間が足りず、すべてを丸暗記するのは応用が利きません。項目ごとに線を引くしかない、という結論は7件を通じて共通していました。

つまずき3:計算ミス

3/7件が計算ミスに触れていました。

不合格の翌年に合格した件は、まとめの2番目に「計算ミスが結果を大きく左右する」と置いています。対策として挙げていたのは、自分の癖を把握すること、計算ミスをしにくい方法を探すことでした。

別の件は、過去問を年度別に解く段階で、勘違いと計算ミスが多発したのでその傾向を把握した、と書いています。ミスを減らそうとするのではなく、どういうミスをするのかを先に知る、という順序です。

本番での対策を具体的に書いていた件もありました。終了25分前になったら見直しに入り、余った時間を解けそうな問題に投入する。見直しは労力に対する得点の効率が最も良い、という判断です。同じ件は、電卓を左手でブラインドで打つことでペンを持ち替える時間を減らす、計算用紙は半分に折って使い表が終わったら裏を使う、といった手順まで書いていました。

つまずき4:手が動かない状態からどう進めるか

学習の初期に問題が解けないとき、どう進めるか。ここで方法が分かれます。

ある発表者は、問題を読む、解説をなぞる、教科書で調べる、という3段階で進めていました。解説は見る・読むでは不十分で、なぞる必要があるとしています。

別の発表者は、解説を見ても分からない場合は、書いてある解説をそのまま覚えてしまうか、受験研究会で質問する、という方針でした。先に進んでいくうちに解法が理解できるようになり、後から解けるようになる場合があった、と書いています。

3件目は、「理解してから問題を解く」のではなく「解きながら理解していく」と明言し、早めに問題演習に移ることを重要な点として挙げていました。

いずれも、理解できるまで足を止めないという点で共通しています。分からない箇所を抱えたまま前へ進み、後から回収する。生保数理のように記号と概念が積み上がる科目では、先の章まで見てから戻ったほうが早い、ということのようです。

質問できる環境を作った件が多い

7件中5件が、受験研究会での質問や勉強会、社内や友人との学習に触れていました。数学の9件中4件と比べると比率が高くなっています。

内容もさまざまです。毎月の勉強会に参加した件、社内で隔週の自主勉強会を運営した件、知り合った人にオンラインの通話ツールで教わった件、友人と教え合った件があります。

一方で、勉強仲間と呼べる人はおらず一人で対策したという件もありました。この発表者は代わりに、理解度を深めるために消しゴムに向かって説明していた、と書いています。人に説明できる状態にするという目的は同じで、相手がいるかどうかだけの違いです。

説明できるかどうかを理解の基準に置く、という発想は複数件に共通していました。

続けるための工夫

学習を止めないための具体的な工夫も挙がっていました。

週に1日、1問しか解かない日を作るという件。過去問の点数が低い日は無理に勉強せず気分転換に充てるという件。仕事の後の勉強は安定しないので毎朝に切り替えたという件。目標を紙に書いてスマートフォンの待ち受けにしていたという件。

いずれも、意志の力に頼らない仕組みを作るという方向で一致しています。

まとめ

  • 学習初期に過去問で0点と5点だった件、1年分に12時間かかった件がある。最初に歯が立たないのは異常ではない。
  • つまずきは4つ。記号と計算基数4/7件、理解の浅さ3/7件、計算ミス3/7件、手が動かない段階の進め方3/7件。
  • 不合格の翌年に合格した件は、理解を3段階に分け、範囲の7割から9割5分へ引き上げたと分析していた。
  • 項目ごとに、導出まで求めるか瞬時に書ければよいかの線を引く。全部を導出するのも全部を暗記するのも成り立たない。
  • 質問できる環境に触れた件が5/7件。一人だった件も、説明できる状態を基準に置く点は同じだった。