この記事で扱う証明

教科書 第2章 練習問題(1)の(15)と(18)です。3つの主張を順に示します。

まず(15)が、平均余命の再帰式です。

$$e_{x} = p_{x}\left(1 + e_{x+1}\right)$$

そして(18)は、$q_{x} \leq q_{x+1} \leq q_{x+2} \leq \cdots$ のときに次が成り立つ、というものです。(b)では $q_x > 0$ とします($q_x = 0$ なら右辺が定義できません)。

(a)$e_{x} \geq e_{x+1} \geq e_{x+2} \geq \cdots$

(b)$e_{x} \leq \dfrac{p_{x}}{q_{x}}$

$e_x$ は略算平均余命、つまり「あと何年生き延びるか」を年単位で数えたものの期待値です。

定義を確認する

$e_x$ の定義は、生存確率の総和です。

$$e_{x} = \npx{1}{x} + \npx{2}{x} + \npx{3}{x} + \cdots = \sum_{n=1}^{\infty} \npx{n}{x}$$

「1年後も生きている確率」「2年後も生きている確率」を全部足す。これが年単位で数えた余命の期待値になります。

なぜ和が期待値になるのかは、数え方を変えると見えます。ちょうど $n$ 年後まで生きて $n+1$ 年目に死ぬ人は、上の和に $n$ 回だけ数えられます(1年後から $n$ 年後までの各項に1回ずつ)。だから和は「各人が生き延びた年数」の平均になっています。

証明(15):1年ぶんを外に出す

再帰式は、定義の各項から $p_x$ を括り出すだけです。

$$\npx{n}{x} = p_{x} \cdot \npx{n-1}{x+1}$$

「$x$ が $n$ 年生きる」を「まず1年生きて、その後 $x+1$ 歳の人として $n-1$ 年生きる」に分解した形です。これを定義に入れます。

$$e_{x} = p_{x} + p_{x}\npx{1}{x+1} + p_{x}\npx{2}{x+1} + \cdots = p_{x} + p_{x}\left(\npx{1}{x+1} + \npx{2}{x+1} + \cdots\right)$$

括弧の中は $e_{x+1}$ そのものです。したがって

$$e_{x} = p_{x} + p_{x}e_{x+1} = p_{x}\left(1 + e_{x+1}\right)$$

(15)が示せました。1年生き延びる確率を掛け、その先の余命に1年足す——意味も素直に読めます。

証明(18a):項ごとに比べる

死亡率が年齢とともに増えるなら、生存率は減ります。

$$q_{x} \leq q_{x+1} \leq \cdots \quad \Longleftrightarrow \quad p_{x} \geq p_{x+1} \geq \cdots$$

ここで $e_x$ と $e_{x+1}$ を、項ごとに並べて比べます。

$$e_{x} = p_{x} + p_{x}p_{x+1} + p_{x}p_{x+1}p_{x+2} + \cdots$$ $$e_{x+1} = p_{x+1} + p_{x+1}p_{x+2} + p_{x+1}p_{x+2}p_{x+3} + \cdots$$

第 $n$ 項どうしを見ます。上は $p_x p_{x+1} \cdots p_{x+n-1}$、下は $p_{x+1} p_{x+2} \cdots p_{x+n}$。因子の個数は同じ $n$ 個で、しかも上の $j$ 番目の因子 $p_{x+j-1}$ は下の $j$ 番目の因子 $p_{x+j}$ 以上です。

すべての因子が対応する相手以上で、いずれも正。だから積も上のほうが大きい。項ごとに大きいのだから、和も大きい。

$$e_{x} \geq e_{x+1}$$

これがすべての年齢で言えるので、(a)が示せました。

証明(18b):再帰式に自分自身を代入する

(b)が、この問題のいちばん面白いところです。(15)と(a)を組み合わせます。

再帰式は

$$e_{x} = p_{x} + p_{x}e_{x+1}$$

でした。ここで(a)から $e_{x+1} \leq e_{x}$ です。この $e_{x+1}$ を、より大きい $e_x$ に置き換えると、右辺は増えるか等しいので

$$e_{x} \leq p_{x} + p_{x}e_{x}$$

$e_x$ が両辺に現れました。あとは移項するだけです。

$$e_{x} - p_{x}e_{x} \leq p_{x} \quad \Longrightarrow \quad e_{x}\left(1 - p_{x}\right) \leq p_{x}$$

$1 - p_x = q_x$ なので、$q_x > 0$ のとき両辺を $q_x$ で割って

$$e_{x} \leq \frac{p_{x}}{q_{x}}$$

(b)が示せました。証明そのものは3行です。$q_x = 0$ の場合は右辺が定義できないので、この形の上限は使えません。

上限の $p_x/q_x$ は何を表しているか

出てきた $p_x/q_x$ に、はっきりした意味があります。

もし死亡率が $q_x$ のまま将来ずっと変わらないとしたら、生存確率は $\npx{n}{x} = p_x^{\,n}$ です。平均余命は等比級数の和になります。

$$p_{x} + p_{x}^{2} + p_{x}^{3} + \cdots = \frac{p_{x}}{1 - p_{x}} = \frac{p_{x}}{q_{x}}$$

つまり $p_x/q_x$ は、「いまの死亡率がずっと続く」と仮定したときの平均余命です。

そう読むと、(b)の意味は明快になります。この問題の仮定では死亡率が年齢とともに上がっていくのだから、いまの死亡率が続く場合より長生きできるはずがない。当たり前のことを、式で言っているだけです。逆に言えば、死亡率が下がっていく年齢帯——乳幼児期など——では、この不等式の向きは保証されません。

証明で $e_{x+1}$ を $e_x$ に置き換えたのは、まさに「将来も今と同じ条件が続くとみなす」操作でした。単調性という前提が、この置き換えを正当化しています。

数値で確かめる

40歳の $q_{40} = 0.001$ とすると、上限は

$$\frac{p_{40}}{q_{40}} = \frac{0.999}{0.001} = 999$$

999年。上限としてはあまりに緩く、実用にはなりません。若い年齢では死亡率が小さいので、この不等式はほとんど何も言っていないに等しくなります。

一方、90歳で $q_{90} = 0.2$ なら

$$\frac{0.8}{0.2} = 4$$

4年。高齢では、それなりに意味のある押さえになります。

不等式の使いどころは年齢によって違う、というのは覚えておく価値があります。証明問題としては(b)を示せれば十分ですが、数値問題で「上限として使えるか」を判断する場面では、この感覚が要ります。

つまずきポイント:$e_x$ と $\mathring{e}_x$ の区別

第2章には、よく似た記号が2つあります。

$e_x$ は略算平均余命で、年単位で数えたもの。$\mathring{e}_x$ は完全平均余命で、端数まで含めて数えたものです。よく使われる関係が

$$\mathring{e}_{x} \approx e_{x} + \frac{1}{2}$$

ですが、これは近似式です。各年度内で死亡が一様に発生すると仮定したとき、死んだ人の生存年数が平均して半年ぶん多く数えられる——そこから出てくる補正で、一様分布を離れれば $1/2$ ちょうどにはなりません。

この記事で扱った再帰式も不等式も、$e_x$ のほうについてのものです。$\mathring{e}_x$ にも再帰式はありますが、形が違います。

$$\mathring{e}_{x} = \int_{0}^{1} \npx{t}{x}\, dt + p_{x}\, \mathring{e}_{x+1}$$

第1項が $p_x$ ではなく積分になります。1年の途中で死んだ人の生存年数も端数まで数えるからです。問題文にどちらの記号が書いてあるかを、まず確認してください。丸が付いているかどうかだけの違いなので、見落としやすいところです。

まとめ

  • 略算平均余命は生存確率の総和 $e_x = \sum_{n \geq 1} \npx{n}{x}$。1年ぶんを括り出すと再帰式 $e_x = p_x(1+e_{x+1})$ が出る。
  • 死亡率が年齢とともに増えるなら生存率は減る。項ごとに因子を比べれば $e_x \geq e_{x+1}$ が出る。
  • 上限は、再帰式の $e_{x+1}$ を $e_x$ に置き換えて移項するだけで出る。3行の証明。
  • $p_x/q_x$ は「いまの死亡率がずっと続く」と仮定したときの平均余命。等比級数の和として読める。
  • 若い年齢では上限が緩すぎて実用にならない。高齢では意味のある押さえになる。