この記事で扱う証明
教科書 第2章 練習問題(2)の(12)です。
第1の生命表はゴムパーツの法則に従い、第2の生命表はその死力が第1の生命表の死力の2倍になるように作成されている。第2の生命表の $\npx{n}{x}^{(2)}$ は、第1の生命表の $\npx{n}{x+a}^{(1)}$($a$ は正の定数)に等しくなることを証明し、かつ $a$ の値を定めよ。
死力を2倍にした表が、元の表で年齢を $a$ だけ進めた表と一致する。その $a$ を求めよ、という問題です。
なお、教科書はこの死亡法則を「ゴムパーツの法則」と表記します。人名の読み方としてはゴンペルツが一般的ですが、指定教科書の表記に合わせておきます。
ゴムパーツの生存確率を書き下す
出発点は死力です。
$$\mu_{x} = Bc^{x} \qquad (B > 0,\ c > 1)$$
ゴムパーツの記事で扱ったとおり、死力が年齢とともに幾何級数的に増える形です。$c > 1$ は「年を取るほど死力が上がる」ことを表す条件で、以下の議論はこれを前提にします。
生存確率は死力の積分から出ます。
$$\npx{n}{x} = \exp\left(-\int_{x}^{x+n} \mu_{u}\, du\right) = \exp\left(-\int_{x}^{x+n} Bc^{u}\, du\right)$$
$c^u$ の積分は $c^u/\log c$ なので
$$\int_{x}^{x+n} Bc^{u}\, du = \frac{B}{\log c}\left(c^{x+n} - c^{x}\right) = \frac{B}{\log c}\, c^{x}\left(c^{n} - 1\right)$$
ここで $\log g = -\dfrac{B}{\log c}$ となる定数 $g$ を置くと、指数の中身がきれいにまとまります。
$$\npx{n}{x} = g^{\,c^{x}\left(c^{n} - 1\right)}$$
ゴムパーツの生存確率は、この形です。$g$ の肩に $c^x(c^n-1)$ が乗っている。$x$ の効き方が $c^x$ という因子1つに集約されているのが、この式の要点です。
死力を2倍にすると何が起こるか
第2の生命表では $\mu'_{x} = 2Bc^{x}$ です。$B$ が $2B$ に替わるだけで、$c$ はそのままです。
対応する定数 $g'$ は
$$\log g' = -\frac{2B}{\log c} = 2 \log g$$
つまり $g' = g^{2}$ です。したがって
$$\npx{n}{x}^{(2)} = \left(g'\right)^{c^{x}\left(c^{n}-1\right)} = g^{\,2c^{x}\left(c^{n}-1\right)}$$
元の式と見比べると、肩に2が掛かっただけです。
2を $c^a$ と読み替える
一方、第1の生命表で年齢を $a$ だけ進めると
$$\npx{n}{x+a}^{(1)} = g^{\,c^{x+a}\left(c^{n}-1\right)} = g^{\,c^{a} \cdot c^{x}\left(c^{n}-1\right)}$$
肩に $c^a$ が掛かった形です。
2つを見比べれば、一致するのは $c^a = 2$ のときだと分かります。両辺の対数を取って
$$a = \frac{\log 2}{\log c}$$
証明終わりです。$c > 1$ なので $\log c > 0$、したがって $a > 0$。上乗せする年数は正です。$a$ は $c$ だけで決まり、$B$ にも $g$ にも $x$ にも $n$ にも依存しません。どの年齢から見ても、同じ年数だけ上乗せすればよいことになります。
どのくらいの年数になるか
$c$ に具体的な値を入れてみます。ゴムパーツの $c$ は生命表によって幅がありますが、成人の死力がおよそ8年で倍増する程度の水準がよく使われます。ここで倍増するのは死力であって死亡率ではありません。両者は $\npx{1}{x} = \exp\left(-\int_0^1 \mu_{x+u}du\right)$ で結ばれる別の量です。
たとえば $c = 1.09$ とすると
$$a = \frac{\log 2}{\log 1.09} = \frac{0.6931}{0.08618} \approx 8.0$$
死力を2倍にすることは、年齢を8歳上乗せするのと同じ、という計算になります。$c = 1.10$ なら $a \approx 7.3$、$c = 1.08$ なら $a \approx 9.0$ です。
$c$ が大きい——つまり死力の増え方が急な——生命表ほど、$a$ は小さくなります。急な坂を登っている人にとって、2倍の高さに達するまでの距離は短い、ということです。
メーカムの法則では成り立たない
この性質は、ゴムパーツだからこそ出てきます。以下、メーカムの定数項が $A \neq 0$ の場合の話です($A = 0$ ならメーカムはゴムパーツそのものなので、当然成り立ちます)。
メーカムの法則は $\mu_x = A + Bc^x$ で、年齢によらない定数項 $A$ が付きます。死力を2倍にすると
$$2\mu_{x} = 2A + 2Bc^{x}$$
となりますが、年齢を $a$ 進めた死力は
$$\mu_{x+a} = A + Bc^{x+a} = A + Bc^{a}c^{x}$$
です。$c^a = 2$ と取れば第2項は揃いますが、第1項は $2A$ と $A$ で揃いません。$A \neq 0$ である限り、この差は年齢をどう動かしても埋まりません。定数項が年齢の平行移動では動かないからです。
ゴムパーツで平行移動が成り立つのは、死力が $c^x$ という単一の指数関数だからです。指数関数は、定数倍と引数の平行移動が同じ操作になる——$2 \cdot c^x = c^{a}c^{x} = c^{x+a}$——という性質を持っています。この一点が、問題の答えのすべてです。
試験ではこう問われる
この形の問題は、「2つの生命表の関係を求めよ」という形で出ます。
- 死力を $k$ 倍した生命表と元の生命表の関係(答えは $a = \log k/\log c$)
- 年齢を $a$ 進めた生命表が、死力を何倍したものに相当するか
- ゴムパーツで成り立つ性質のうち、メーカムでは成り立たないものを選ばせる正誤形式
いずれも、$\npx{n}{x} = g^{c^{x}(c^{n}-1)}$ という形を書き下せるかで決まります。この式を暗記するのではなく、死力の積分から2行で出せるようにしておくのが安全です。$c^u$ の積分が $c^u/\log c$ になる、という一点さえ押さえておけば導けます。
つまずきポイント:$g$ と $c$ の役割を混同する
ゴムパーツの式には定数が3つ($B$、$c$、$g$)出てきますが、独立なのは2つです。$g$ は $B$ と $c$ から $\log g = -B/\log c$ で決まります。
死力を2倍にしたとき、変わるのは $B$ と、それに連動する $g$ だけ。$c$ は変わりません。ここを取り違えて $c$ を2倍にすると、まったく別の生命表になってしまいます。
$c$ は「死力の増え方の速さ」、$B$ は「死力の水準」。水準を動かしても坂の傾きは変わらない、と押さえておくと迷いません。
まとめ
- ゴムパーツの生存確率は $\npx{n}{x} = g^{c^{x}(c^{n}-1)}$。$\log g = -B/\log c$ で定まる。
- 死力を2倍にすると $g$ が $g^2$ になり、肩に2が掛かる形になる。
- 年齢を $a$ 進めると肩に $c^a$ が掛かる。両者が一致する条件が $c^a = 2$、すなわち $a = \log 2/\log c$。
- $a$ は $c$ だけで決まり、年齢にも期間にも依存しない。$c = 1.09$ ならおよそ8歳ぶんにあたる。
- メーカムでは定数項 $A$ が平行移動で動かないため、$A \neq 0$ ならこの性質は成り立たない。指数関数1本でできていることが効いている。