この記事で扱う証明
教科書 第2章 練習問題(2)の(9)と(10)です。2つを示します。
(9)$q_{x} < m_{x} < \dfrac{q_{x}}{p_{x}}$
(10)死亡が年間を通じて一様に発生するときは $\mu_{x + \frac{1}{2}} = m_{x}$
$m_x$ は中央死亡率です。まず、この量の定義を確認するところから始めます。
中央死亡率とは何か
死亡率 $q_x$ の定義は
$$q_{x} = \frac{d_{x}}{l_{x}}$$
分子はその年に死んだ人数、分母は年初の生存者数です。「年初にいた人のうち、何割が1年以内に死ぬか」を測っています。
中央死亡率は、分子を変えずに分母だけを取り替えます。
$$m_{x} = \frac{d_{x}}{\displaystyle\int_{0}^{1} l_{x+t}\, dt}$$
分母の積分は、その1年間の生存延べ年数です。$L_x$ と書かれます。年齢 $x$ から $x+1$ までの生存者数を時間で積み上げたもので、単位は「人年」。人数ではありません。
年の途中で死んだ人は、死ぬまでの期間だけ分母に寄与します。年初にいたかどうかではなく、実際にどれだけの期間そこにいたかで割る、という発想です。
分母が積分になっている、という一点だけを押さえておけば、以下の話はすべて出ます。
証明(9):分母を上と下から挟む
積分の中身 $l_{x+t}$ は、$t$ が0から1へ進むにつれて減っていきます。生存者数が時間とともに減るのだから当然です。
$$l_{x+1} \leq l_{x+t} \leq l_{x} \qquad (0 \leq t \leq 1)$$
区間の幅が1なので、積分もこの範囲に収まります。
$$l_{x+1} \leq \int_{0}^{1} l_{x+t}\, dt \leq l_{x}$$
$l_{x+t}$ が区間内で実際に減っている——つまり $d_x > 0$ である——ときは、どちらも厳密な不等号になります。以下ではこれを前提にします($d_x = 0$ なら3つの量はすべて一致します)。
分母が大きいほど分数は小さくなるので、$m_x = d_x / L_x$ の上下が決まります。
$$\frac{d_{x}}{l_{x}} < m_{x} < \frac{d_{x}}{l_{x+1}}$$
左辺は $q_x$ です。右辺は、分母分子を $l_x$ で割ると
$$\frac{d_{x}}{l_{x+1}} = \frac{d_{x}/l_{x}}{l_{x+1}/l_{x}} = \frac{q_{x}}{p_{x}}$$
したがって
$$q_{x} < m_{x} < \frac{q_{x}}{p_{x}}$$
証明終わりです。「分母を年初の人数にすれば小さい値、年末の人数にすれば大きい値、実際の生存延べ年数はその中間」——それだけの話でした。
教科書の解答は、一様分布を経由する
教科書の解答は少し違う道を通ります。死亡が年間を通じて一様に発生するとして、分母を計算するのです。
$$\int_{0}^{1} l_{x+t}\, dt = l_{x} - \frac{d_{x}}{2}$$
すると
$$m_{x} = \frac{d_{x}}{l_{x} - d_{x}/2} = \frac{q_{x}}{1 - q_{x}/2}$$
あとは $1 > 1 - q_x/2 > 1 - q_x$ という分母の大小から
$$q_{x} < \frac{q_{x}}{1 - q_{x}/2} < \frac{q_{x}}{1 - q_{x}} = \frac{q_{x}}{p_{x}}$$
結論は同じです。ただしこちらは一様分布を仮定しています。前節の証明は $l_{x+t}$ が減少することしか使っていないので、分布の形について何も仮定しないぶん、こちらのほうが広く成り立ちます。
どちらでも解答としては通りますが、「何を仮定したか」を意識しておくと、正誤問題で判断を誤りません。
証明(10):一様分布のとき、死力は年央の値になる
(10)は、死亡が年間を通じて一様に発生する場合の話です。この仮定は
$$l_{x+t} = l_{x} - d_{x}t \qquad (0 \leq t \leq 1)$$
と書けます。生存者数が直線的に減る、ということです。
死力の定義は
$$\mu_{x+t} = -\frac{1}{l_{x+t}} \cdot \frac{d\, l_{x+t}}{dt}$$
直線なので微分は定数 $-d_x$ です。$t = 1/2$ を入れると
$$\mu_{x+\frac{1}{2}} = -\frac{1}{l_{x} - d_{x}/2} \times \left(-d_{x}\right) = \frac{d_{x}}{l_{x} - d_{x}/2}$$
一方の中央死亡率は、前節で計算した分母を使って
$$m_{x} = \frac{d_{x}}{L_x} = \frac{d_{x}}{l_{x} - d_{x}/2}$$
同じ式です。したがって
$$\mu_{x+\frac{1}{2}} = m_{x}$$
証明終わりです。一致の理由は、一様分布の下では生存延べ年数 $L_x$ が年央の生存者数 $l_{x+1/2}$ と等しくなり($l_x - d_x/2$)、しかも死力の分母もそれと同じ値になるからです。$L_x$ と $l_{x+1/2}$ はもともと別の量(人年と人数)なので、一様分布を離れれば一致しません。
3つの量の位置関係
ここまでで、第2章の主要な量の関係が見えます。
$$q_{x} < m_{x} < \frac{q_{x}}{p_{x}}$$
そして一様分布の下では $m_x = \mu_{x+1/2}$ です。
言葉にすると、こうなります。$q_x$ は年初の人数で割った値。$q_x/p_x$ は年末の人数で割った値。$m_x$ は生存延べ年数で割った値で、その中間にある。3つとも分子は同じ $d_x$ で、分母に何を置くかだけが違います。そして一様分布の下では、$m_x$ が年央の死力に一致します。
死力と死亡率の大小を扱った記事では、$q_x$ と $\mu_x$ の関係を積分の単調性で挟みました。同じ挟み方が、ここでも効いています。第2章の不等式は、ほとんどが「積分の中身を単調性で押さえる」という一手で片づきます。
なぜ人口統計は $m_x$ を使うのか
実務的な理由があります。
生命表を作るには、ある年齢の人が1年でどれだけ死ぬかを知る必要があります。ところが実際の統計から直接取れるのは、「その年に $x$ 歳だった人の死亡数」と「$x$ 歳の推計人口」です。後者は年央の時点で推計されることが多く、年初の人数ではありません。
分母が年央の人口に近い量なら、素直に計算できるのは $m_x$ のほうです。そこでまず $m_x$ にあたる量を求め、そこから $q_x$ を出すという順序が取られます。一様分布を仮定すれば
$$m_{x} = \frac{q_{x}}{1 - q_{x}/2} \quad \Longrightarrow \quad q_{x} = \frac{2m_{x}}{2 + m_{x}}$$
という変換で行き来できます。実際の生命表作成では、年齢や資料の性質に応じてこれ以外の補正も入りますが、$m_x$ と $q_x$ を行き来する考え方はこの式に集約されています。
つまずきポイント:$m_x$ の分母を $l_x$ と書いてしまう
この節でいちばん多い間違いは、$m_x$ の分母を $l_x$ と書いてしまうことです。それでは $q_x$ になってしまいます。
$m_x$ の分母は積分。年初の人数ではなく、その1年で生きていた延べ年数です。定義を書くときに $\int_0^1 l_{x+t}\,dt$ と明示する癖をつけておけば間違えません。
もうひとつ、$m_x$ と $\mu_{x+1/2}$ が等しいのは一様分布を仮定した場合だけです。一般には等しくありません。問題文に「死亡が年間を通じて一様に発生する」という条件があるかどうかを、必ず確認してください。
まとめ
- 中央死亡率 $m_x$ は、分子は $d_x$ のまま、分母を生存延べ年数 $L_x = \int_0^1 l_{x+t}dt$(単位は人年)に取り替えたもの。
- $l_{x+t}$ が減少することから、この積分は $l_{x+1}$ と $l_x$ の間にある。$d_x > 0$ なら厳密な不等号で、分母の大小がそのまま $q_x < m_x < q_x/p_x$ になる。
- 教科書の解答は一様分布を経由して $m_x = q_x/(1-q_x/2)$ を作る。前者の証明は分布の形を仮定しないぶん広く成り立つ。
- 一様分布の下では $l_{x+t}$ が直線になり、$L_x$ が年央の生存者数 $l_{x+1/2}$ と一致する。死力の分母もこれと同じになるので $\mu_{x+1/2} = m_x$。
- 人口統計は年央人口に近い量を分母に取るので $m_x$ にあたる値が先に出る。$q_x = 2m_x/(2+m_x)$ で変換する。