この記事で扱う証明

死力 $\mu_x$ と死亡率 $q_x$ の大小に関する式を3つ示します。教科書 第2章 練習問題(1)の(7)(8)(5)(b)です。

証明1(7)— $l_x\,\mu_x$ が $x$ の増加関数であれば

$$\mu_x < q_x$$

証明2(8)— $\mu_x$ が $x$ の増加関数であれば

$$q_{x-1} < \mu_x < \frac{q_x}{p_x}$$

証明3(5b)— 近似 $\mu_x \fallingdotseq \dfrac{d_{x-1} + d_x}{2\,l_x}$ のもとで、$d_{x-1} \gtreqless d_x$ に従って

$$\mu_x \gtreqless q_x$$

死力はある瞬間の死にやすさ、死亡率は1年間の死にやすさです。時間の幅が違う量を比べるので、橋渡しには1年分の積分が要ります。

使う道具

主役は、1年間の死亡確率の積分表現です。

$$q_x = \frac{1}{l_x}\int_0^1 l_{x+t}\,\mu_{x+t}\,dt = \int_0^1 \npx{t}{x}\,\mu_{x+t}\,dt$$

$l_{x+t}\,\mu_{x+t}$ は年齢 $x+t$ での死亡の密度なので、それを1年分足し合わせて $l_x$ で割れば、$x$ 歳の人が1年以内に死ぬ確率になります。

これに、積分の大小評価の基本を合わせます。区間全体で中身が大きければ積分も大きい。中身を単調性で上や下から押さえて、積分の外に定数を出す、という操作だけです。

証明3では、死力の差分近似 $\mu_x \fallingdotseq \dfrac{d_{x-1} + d_x}{2\,l_x}$(前後1年の死亡数の平均を生存数で割ったもの)を使います。

証明1:中身を左端の値で下から押さえる

仮定は「$l_x\,\mu_x$(死亡の密度)が増加関数」です。積分の中身 $l_{x+t}\,\mu_{x+t}$ は、区間 $0 < t < 1$ で左端の値 $l_x\,\mu_x$ より大きくなります。

$$q_x = \frac{1}{l_x}\int_0^1 l_{x+t}\,\mu_{x+t}\,dt > \frac{1}{l_x}\int_0^1 l_x\,\mu_x\,dt = \frac{l_x\,\mu_x}{l_x} = \mu_x$$

これで $\mu_x < q_x$ が出ました。瞬間の死にやすさより、これから1年の(悪化していく分を含んだ)死にやすさのほうが大きい、という読み方ができます。

証明2:1年前からの積分と、生存確率の押さえを組み合わせる

仮定は「$\mu_x$ が増加関数」。今度は上下から挟みます。

下からの評価には、1年前から始まる積分を使います。$q_{x-1}$ を積分表現で書き、生存確率が1以下であることと、死力が区間内で $\mu_x$ 未満であることを使うと

$$q_{x-1} = \int_0^1 \npx{t}{x-1}\,\mu_{x-1+t}\,dt < \int_0^1 \mu_x\,dt = \mu_x$$

上からの評価は、$x$ 歳からの積分です。区間 $0 < t < 1$ で生存確率は $\npx{t}{x} > p_x$(1年後の値が最小)、死力は $\mu_{x+t} > \mu_x$ なので

$$q_x = \int_0^1 \npx{t}{x}\,\mu_{x+t}\,dt > \int_0^1 p_x\,\mu_x\,dt = p_x\,\mu_x$$

両辺を $p_x$ で割れば $\mu_x < \dfrac{q_x}{p_x}$。合わせて

$$q_{x-1} < \mu_x < \frac{q_x}{p_x}$$

が得られます。死力は「前の1年の死亡率」と「次の1年の死亡率を生存率で割ったもの」の間に必ず収まる、という挟み込みです。

証明3:差分近似なら、隣の死亡数と見比べるだけ

死力の差分近似と、死亡率を同じ分母で書いた式を並べます。

$$\mu_x \fallingdotseq \frac{d_{x-1} + d_x}{2\,l_x}, \qquad q_x = \frac{d_x}{l_x} = \frac{d_x + d_x}{2\,l_x}$$

分母が同じなので、分子の比較に落ちます。違いは第1項が $d_{x-1}$ か $d_x$ かだけ。したがって

$$d_{x-1} \gtreqless d_x \quad \text{に従って} \quad \mu_x \gtreqless q_x$$

死亡数が年齢とともに増えている領域(生命表の大部分)では $d_{x-1} < d_x$ なので $\mu_x < q_x$ となり、証明1の結論と整合します。逆に高齢で死亡数が減り始めた領域では、この近似の範囲で大小が入れ替わります。

数値で確かめる

小さな生命表で確かめます。$l$ の並びを 1,000、990、975、955 とすると、死亡数は 10、15、20 と増加しています。真ん中の年齢($l_x = 990$ の行)で

$$\mu_x \fallingdotseq \frac{10 + 15}{2 \times 990} = 0.01263, \qquad q_x = \frac{15}{990} = 0.01515$$

$d_{x-1} = 10 < d_x = 15$ なので $\mu_x < q_x$。証明2の不等式の並びも、この近似値で確かめておきます。

$$q_{x-1} = \frac{10}{1{,}000} = 0.01000 < \mu_x \fallingdotseq 0.01263 < \frac{q_x}{p_x} = \frac{0.01515}{975/990} = 0.01538$$

一方、死亡数が一定(生存数が直線で減る)なら $d_{x-1} = d_x$ で、$\mu_x$ と $q_x$ の差は近似の範囲で消えます。大小を分けているのが死亡数の増減であることが、ここからも読めます。

つまずきポイント

「死力は瞬間の値だから、1年分を均した死亡率より必ず大きい」という思い込みが典型的な誤りです。実際は逆で、死亡の密度が増えていく通常の年齢域では $\mu_x < q_x$。死亡率は「これから1年の悪化分」を先取りしているぶん大きくなります。大小は生命表の形(死亡の密度の増減)で決まるのであって、瞬間か平均かという言葉の印象では決まりません。

証明2の上界を $q_x$ と書いてしまうのも要注意です。正しくは $\dfrac{q_x}{p_x}$ で、分母の $p_x$ を落とすと不等式が成り立たなくなる場合があります。上の数値例でも $\mu_x = 0.01263 < q_x = 0.01515$ でたまたま収まっていますが、これは仮定が効いた結果であって、証明が保証するのは $\dfrac{q_x}{p_x} = 0.01538$ までです。

本試験ではこう問われる

死力は平成12年度以降の26年度中22年度に登場します。また、複数の量の大小関係を選ばせる形式は26年度中7年度(2009・2011・2014・2018・2020・2023・2025年度)に出ています。

タクティクス 生保数理の第2章「死力」の1問目(H11-I.1(I)(1))は、まさに生命関数の大小問題で、講師コメントに「大小問題も様々なパターンで慣れてコツを覚えて積み上げていこう」とあります。この記事の一手(積分表現に戻して中身を押さえる)が、そのコツの中身です。

第1章にも、利率の記号 $i$、$\delta$、$d$ などの大小を級数展開で判定する問題群があります。第1章は展開で、第2章は積分の単調評価で、と道具は違いますが、「定義に戻って評価する」という筋は同じです。

まとめ

  • 橋渡しは積分表現 $q_x = \displaystyle\int_0^1 \npx{t}{x}\,\mu_{x+t}\,dt$。死力と死亡率は時間の幅が違うので、1年分の積分で同じ土俵に載せる。
  • 死亡の密度が増加なら $\mu_x < q_x$。死力が増加なら $q_{x-1} < \mu_x < \dfrac{q_x}{p_x}$ に挟まれる。上界の分母 $p_x$ を落とさない。
  • 差分近似では分子の $d_{x-1}$ と $d_x$ の比較に落ちる。近似の範囲で大小を分けるのは死亡数の増減で、数値例(死亡数 10・15・20)でも一致を確認した。

※ 厳密に言えば(補注)

  • 証明1・証明2の「増加関数」は狭義(真に増加)の意味で使っています。広義の単調非減少で読む場合、不等号は等号付き($\le$)になります。
  • 証明3の判定は差分近似 $\mu_x \fallingdotseq \dfrac{d_{x-1}+d_x}{2\,l_x}$ のもとでの話です。厳密な死力は年齢の間の生存数の補間の仕方に依存するため、離散生命表の $d_{x-1}$ と $d_x$ の大小だけで厳密な $\mu_x$ と $q_x$ の大小が確定するわけではありません。数値例の検算も、この近似値を使った確認です。