この記事で扱う証明

利率記号どうしをつなぐ式を3つ示します。教科書第1章 練習問題(1)の(6)(7)(8)です。

証明1 — 実利率を利力で近似する

$$i \fallingdotseq \delta + \frac{1}{2}\delta^2 + \frac{1}{6}\delta^3$$

証明2 — 利力を名称利率と名称割引率で近似する

$$\delta \fallingdotseq \frac{i^{(k)} + d^{(k)}}{2}$$

証明3 — 現価率の微分

$$\frac{d\,v^n}{d\delta} = -n v^n, \qquad \frac{d\,v^n}{di} = -n v^{n+1}$$

3つとも見た目は別物ですが、使う一手は共通しています。$\delta$ を指数の肩に置く、これだけです。

使う道具

記号 意味 $\delta$ との関係
$i$ 実利率 $1 + i = e^{\delta}$
$d$ 実割引率 $1 - d = e^{-\delta}$
$v$ 現価率 $v = e^{-\delta}$
$i^{(k)}$ 年 $k$ 回転化の名称利率 $\left(1 + \dfrac{i^{(k)}}{k}\right)^k = e^{\delta}$
$d^{(k)}$ 年 $k$ 回転化の名称割引率 $\left(1 - \dfrac{d^{(k)}}{k}\right)^k = e^{-\delta}$
$\delta$ 利力

この表の右列がすべて $e$ の式になっていることが、この記事の主題です。 $\delta$ 以外の記号は「$e^{\delta}$ をどう分割して表すか」の違いでしかありません。

級数展開は2つだけ使います。

$$e^x = 1 + x + \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{6} + \cdots$$ $$\log(1+x) = x - \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3} - \cdots$$

証明1:$i$ から $\delta$ へは指数を1回

$1 + i = e^{\delta}$ すなわち $i = e^{\delta} - 1$ から始めます。右辺を展開するだけです。

$$i = e^{\delta} - 1 = \left(1 + \delta + \frac{\delta^2}{2} + \frac{\delta^3}{6} + \cdots\right) - 1 = \delta + \frac{1}{2}\delta^2 + \frac{1}{6}\delta^3 + \cdots$$

3次で打ち切れば与式です。証明はこれで終わりです。

精度を見ておきます。$i = 5\%$ のとき $\delta = \log 1.05 = 0.0487902$ で、

$$\delta + \frac{1}{2}\delta^2 + \frac{1}{6}\delta^3 = 0.0499998$$

真の値 $0.05$ との差は $2.4 \times 10^{-7}$。3項で7桁近く合います。実務で使う利率の範囲では $\delta$ が小さいので、高次の項がほとんど効かないからです。

証明2:名称利率は $\delta$ を $k$ 等分したもの

名称利率の定義に戻ります。

$$\left(1 + \frac{i^{(k)}}{k}\right)^k = 1 + i = e^{\delta}$$

両辺の対数をとると

$$\delta = k\,\log\!\left(1 + \frac{i^{(k)}}{k}\right)$$

ここが一手です。指数の形を対数で開くと、$\delta$ が $i^{(k)}$ の式として書けます。あとは $\log(1+x)$ を展開するだけで、$x = i^{(k)}/k$ とおいて

$$\delta = k\left[\frac{i^{(k)}}{k} - \frac{1}{2}\left(\frac{i^{(k)}}{k}\right)^2 + \frac{1}{3}\left(\frac{i^{(k)}}{k}\right)^3 - \cdots\right] = i^{(k)} - \frac{1}{2k}\left(i^{(k)}\right)^2 + \frac{1}{3k^2}\left(i^{(k)}\right)^3 - \cdots$$

割引側も同じです。$\left(1 - \dfrac{d^{(k)}}{k}\right)^k = e^{-\delta}$ から

$$\delta = -k\,\log\!\left(1 - \frac{d^{(k)}}{k}\right) = d^{(k)} + \frac{1}{2k}\left(d^{(k)}\right)^2 + \frac{1}{3k^2}\left(d^{(k)}\right)^3 + \cdots$$

2つの展開を見比べてください。2次の項の符号だけが逆です。だから足して2で割れば、2次の項がほとんど打ち消し合います。

$$\frac{i^{(k)} + d^{(k)}}{2} \fallingdotseq \delta + \frac{1}{4k}\left[\left(d^{(k)}\right)^2 - \left(i^{(k)}\right)^2\right]$$

$i^{(k)}$ と $d^{(k)}$ は近い値なので角括弧の中はほぼ0。したがって

$$\delta \fallingdotseq \frac{i^{(k)} + d^{(k)}}{2}$$

「和半をとる」という操作の正体は、符号の違う2次の項を消すことです。ここが分かっていれば、式を忘れても再現できます。

$i = 5\%$ で確かめます。

$k$ $i^{(k)}$ $d^{(k)}$ 平均 $\delta$ との差
1 $0.0500000$ $0.0476190$ $0.0488095$ $1.9 \times 10^{-5}$
2 $0.0493902$ $0.0481999$ $0.0487950$ $4.8 \times 10^{-6}$
4 $0.0490889$ $0.0484938$ $0.0487914$ $1.2 \times 10^{-6}$
12 $0.0488895$ $0.0486911$ $0.0487903$ $1.3 \times 10^{-7}$

$\delta = 0.0487902$ です。$k$ が4倍になると誤差はおよそ16分の1になっています。打ち消し残りが $1/k$ に比例し、そこにさらに $(d^{(k)})^2 - (i^{(k)})^2$ の縮小が乗るためです。

証明3:$v^n$ も指数で書けば微分は一瞬

$v = e^{-\delta}$ なので $v^n = e^{-n\delta}$ です。この形にした時点で、$\delta$ での微分は終わっています。

$$\frac{d\,v^n}{d\delta} = \frac{d}{d\delta}e^{-n\delta} = -n\,e^{-n\delta} = -n\,v^n$$

$i$ での微分は、連鎖律で $\delta$ を経由させます。

$$\frac{d\,v^n}{di} = \frac{d\delta}{di} \cdot \frac{d\,v^n}{d\delta}$$

$\delta = \log(1+i)$ なので $\dfrac{d\delta}{di} = \dfrac{1}{1+i} = v$。したがって

$$\frac{d\,v^n}{di} = v \cdot \left(-n v^n\right) = -n\,v^{n+1}$$

$i$ で微分すると $v$ が1つ増える、と覚えるより、$\dfrac{d\delta}{di} = v$ が余分に掛かると理解するほうが確実です。$n = 10$、$i = 5\%$ で数値微分すると $-5.8468$、公式の $-nv^{n+1} = -5.8468$ と一致します。

3つに共通する一手

改めて並べます。

証明 出発点 一手
1 $i = e^{\delta} - 1$ 指数を展開する
2 $\left(1 + i^{(k)}/k\right)^k = e^{\delta}$ 対数で開いてから展開する
3 $v^n = e^{-n\delta}$ 指数のまま微分する

$\delta$ が指数の肩にある形に持ち込めば、あとは展開するか微分するかだけ。記号が5つあっても、覚える関係式は「$1+i = e^{\delta}$」1本で足ります。残りはそこから作れます。

つまずきポイント

$\fallingdotseq$ と $=$ を区別する。証明1・2は近似式で、証明3は厳密な等式です。$\dfrac{dv^n}{d\delta} = -nv^n$ は打ち切りではないので、どんな $\delta$ でも正確に成り立ちます。近似式を等式のつもりで変形の途中に入れると、誤差が積み上がります。

$d^{(k)}$ の符号を間違える。 $\left(1 - \dfrac{d^{(k)}}{k}\right)^k = e^{-\delta}$ です。括弧の中は引き算で、右辺の指数はマイナス。割引側は両方ともマイナスだと覚えてください。$\log(1-x)$ の展開が全項プラスになるのは、$-\log(1-x) = x + \frac{x^2}{2} + \cdots$ だからです。

$k \to \infty$ の極限を確かめる。 $k$ を大きくすると $i^{(k)}$ も $d^{(k)}$ も $\delta$ に近づきます。証明2の表がまさにそれを示しています。極限で $i^{(k)} \to \delta \leftarrow d^{(k)}$ となることを覚えておくと、大小関係を問われたときに $d^{(k)} < \delta < i^{(k)}$ の順が即座に出ます。

本試験ではこう問われる

利率記号の関係が証明として出ることはありません。大小関係を選ばせる形か、値を計算させる形で出ます。

平成12年度以降の生保数理では、大小関係を選ばせる形式が26年度中7年度(2009・2011・2014・2018・2020・2023・2025年度)に出ています。直近8年度では4回です。

タクティクス 生保数理の第3章「大小系」には7問(いずれも目標解答時間5分)があり、そのうちH23年度の問題には「$d^{(k)}, \delta, i^{(k)}$ の大小関係と $k$ を大きくしていくときの動きはとらえておこう」というコメントが付いています。この記事の証明2がそのまま答えになります。

また第1章「利息の総合問題」には、$i$ にまつわる式変形のパズル問題が並んでいます。ここで扱った指数と対数の往復は、そのまま使う道具です。

まとめ

  • 利率記号は5つあるが、覚える関係式は $1 + i = e^{\delta}$ の1本でよい。
  • $i \fallingdotseq \delta + \frac{1}{2}\delta^2 + \frac{1}{6}\delta^3$ は $e^{\delta}-1$ の展開。3項で7桁合う。
  • $\delta \fallingdotseq \frac{i^{(k)}+d^{(k)}}{2}$ は、符号の違う2次の項が打ち消し合うことによる。
  • $v^n = e^{-n\delta}$ と書けば微分は即座。$i$ での微分は $\frac{d\delta}{di} = v$ が余分に掛かる。
  • $k \to \infty$ で $i^{(k)}$ も $d^{(k)}$ も $\delta$ に近づく。大小は $d^{(k)} < \delta < i^{(k)}$。