この記事で扱う証明
元金償還保険に関する式を3つ示します。教科書第1章 練習問題(3)の(8)(9)(10)です。
証明1 — 年1回払の保険料には2つの表し方があり、両者は等しい
$$\frac{1}{\ddot{s}_{\angl{n}}} = \frac{1}{\aann{n}} - d$$
証明2 — 一時払保険料は次の形に書ける
$$A_{\angl{n}} = 1 - d\,\aann{n} = 1 - d\left(1 + \ann{n-1}\right)$$
証明3 — 年 $k$ 回払の責任準備金の再帰式
$$\left({}_t V_{\angl{n}}^{(k)} + \frac{1}{k}P_{\angl{n}}^{(k)}\right)(1+i)^{1/k} = {}_{t + \frac{1}{k}}V_{\angl{n}}^{(k)}$$
3問に共通するのは、$1 - v = d$ とその変形($d = iv$)だけで通ることです。生命保険の式に見えますが、死亡率は一切出てきません。
使う道具
元金償還保険とは、$n$ 年後に必ず1を払う契約です。死亡・生存は関係しません。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| $A_{\angl{n}}$ | 一時払保険料。$n$ 年後の1の現価なので $v^n$ |
| $P_{\angl{n}}$ | 年払保険料 |
| ${}_t V_{\angl{n}}$ | $t$ 年経過時の責任準備金 |
| $\aann{n}$ | $1 + v + \cdots + v^{n-1}$ |
| $\ddot{s}_{\angl{n}}$ | $(1+i) + (1+i)^2 + \cdots + (1+i)^n$(期始払終価) |
使う関係式は次の3本です。
$$1 - v = d, \qquad d = iv, \qquad \aann{n} = \frac{1 - v^n}{d}, \qquad \ddot{s}_{\angl{n}} = \frac{(1+i)^n - 1}{d}$$
最後の2本は、初項と公比が分かっている等比級数の和です。分母が $d$ になるのは期始払だからで、期末払なら $i$ になります。
証明1:分母分子に $(1+i)^n$ を掛けるだけ
保険料には2つの出し方があります。ひとつは終価で考える道で、「毎年 $P$ を積み立てて $n$ 年後に1にする」から
$$P_{\angl{n}} = \frac{1}{\ddot{s}_{\angl{n}}}$$
もうひとつは現価で考える道で、「$P \cdot \aann{n} = A_{\angl{n}} = v^n$」を解いて
$$P_{\angl{n}} = \frac{v^n}{\aann{n}}$$
教科書はこれを $\dfrac{1}{\aann{n}} - d$ の形で与えています。まずその形に直します。
$$\frac{1}{\aann{n}} - d = \frac{1 - d\,\aann{n}}{\aann{n}} = \frac{1 - (1 - v^n)}{\aann{n}} = \frac{v^n}{\aann{n}}$$
途中で $d\,\aann{n} = 1 - v^n$ を使いました($\aann{n} = \frac{1-v^n}{d}$ の変形です)。
あとは2つが等しいことを示します。それぞれ $d$ で表すと
$$\frac{1}{\ddot{s}_{\angl{n}}} = \frac{d}{(1+i)^n - 1}, \qquad \frac{v^n}{\aann{n}} = \frac{d\,v^n}{1 - v^n}$$
後者の分母分子に $(1+i)^n$ を掛けます。 $v^n (1+i)^n = 1$ なので
$$\frac{d\,v^n}{1 - v^n} = \frac{d\,v^n (1+i)^n}{(1 - v^n)(1+i)^n} = \frac{d}{(1+i)^n - 1}$$
前者と一致しました。$i = 5\%$、$n = 10$ でどちらも $0.0757186$ です。
「現価で考えるか終価で考えるか」の違いは、$(1+i)^n$ を掛けるかどうかだけ。これが式の上での意味です。
証明2:$1-v=d$ で分母を作る
示すのは $A_{\angl{n}} = 1 - d\,\aann{n}$、つまり $v^n = 1 - d\,\aann{n}$ です。これは証明1の途中で既に使いました。改めて書くと
$$1 - d\,\aann{n} = 1 - d \cdot \frac{1 - v^n}{d} = 1 - (1 - v^n) = v^n$$
問題は第2の等号、$\aann{n} = 1 + \ann{n-1}$ のほうです。期始払を「初回の1」と「残りの期末払」に割るだけなので
$$\aann{n} = 1 + v + \cdots + v^{n-1} = 1 + \left(v + \cdots + v^{n-1}\right) = 1 + \ann{n-1}$$
教科書の解答は、これを逆向きにたどって $v^n$ に着地させています。
$$1 - d\left(1 + \ann{n-1}\right) = 1 - d\left(1 + \frac{1 - v^{n-1}}{i}\right)$$
ここで $\dfrac{1}{i} = \dfrac{v}{1-v}$ を使います($d = iv$ かつ $1-v=d$ から $i = \dfrac{d}{v} = \dfrac{1-v}{v}$)。
$$= 1 - d\left\{1 + \frac{v(1 - v^{n-1})}{1 - v}\right\} = 1 - d \cdot \frac{(1-v) + v - v^n}{1-v} = 1 - d \cdot \frac{1 - v^n}{1 - v}$$
$1 - v = d$ なので分母の $d$ と外の $d$ が約分され
$$= 1 - (1 - v^n) = v^n = A_{\angl{n}}$$
$i = 5\%$、$n = 10$ で3つとも $0.6139133$ です。
$1 - v = d$ が「分母に $d$ を作る」ために効いています。生保数理の式で $d$ が分母に来たら、たいてい期始払か、この変形が背後にあります。
証明3:1期進める
責任準備金の再帰式は、「今の準備金+今払う保険料を1期分利殖すると、次の準備金になる」という意味です。死亡がないので、この形がそのまま成り立ちます。
年 $k$ 回払なので、1期は $\dfrac{1}{k}$ 年です。責任準備金は積立の終価として
$$ {}_t V_{\angl{n}}^{(k)} = P_{\angl{n}}^{(k)} \cdot \ddot{s}_{\angl{t}}^{(k)} $$
と書けます。左辺に代入します。
$$\left({}_t V_{\angl{n}}^{(k)} + \frac{1}{k}P_{\angl{n}}^{(k)}\right)(1+i)^{1/k} = P_{\angl{n}}^{(k)}\left(\ddot{s}_{\angl{t}}^{(k)} + \frac{1}{k}\right)(1+i)^{1/k}$$
括弧の中を見てください。 $\ddot{s}_{\angl{t}}^{(k)}$ は $t$ 年ぶんの積立の終価、そこに今期の払込 $\dfrac{1}{k}$ を足して、$\dfrac{1}{k}$ 年ぶん利殖する。これがちょうど $\ddot{s}_{\angl{t + 1/k}}^{(k)}$ の定義です。
$$= P_{\angl{n}}^{(k)}\,\ddot{s}_{\angl{t + \frac{1}{k}}}^{(k)} = {}_{t + \frac{1}{k}}V_{\angl{n}}^{(k)}$$
$i = 5\%$、$n = 10$、$k = 4$、$t = 3$ で両辺とも $0.2732280$ です。
この式は第5章の責任準備金の再帰式と同じ形です。生命保険では途中で死亡が起こるので、右辺に生存確率で割る項が付きます。ここではそれが1なので消えている、と見ると繋がります。
3つに共通する一手
| 証明 | 使った変形 |
|---|---|
| 1 | 分母分子に $(1+i)^n$ を掛ける(現価⇄終価) |
| 2 | $1 - v = d$ で分母の $d$ を作る |
| 3 | 積立の終価に1期分を足して利殖する |
元金償還保険は「死亡率のない生命保険」です。保険料・一時払保険料・責任準備金という3つの量が、確定年金の記号だけで書けます。ここで形を掴んでおくと、第4章・第5章では生命関数が入るだけだと分かります。
つまずきポイント
$\ddot{s}$ と $s$ を取り違える。 $\ddot{s}_{\angl{n}} = \dfrac{(1+i)^n - 1}{d}$、$\sann{n} = \dfrac{(1+i)^n - 1}{i}$ です。分母が $d$ か $i$ かだけの違いですが、$d < i$ なので $\ddot{s} > s$。先に払うほうが終価も大きいという向きで確かめられます。
$A_{\angl{n}} = v^n$ を「生存保険」と混同する。元金償還保険は $n$ 年後に必ず1を払います。生存保険 $A_{x:\angl{n}}^{\ 1}$($n$ 年後に生存していれば1)とは違い、生存確率が掛かりません。記号の見た目が似ているので、問題文で死亡率が与えられているかどうかを先に確認してください。
再帰式で「1期」の長さを間違える。年 $k$ 回払なら1期は $\dfrac{1}{k}$ 年で、利殖は $(1+i)^{1/k}$、払込は $\dfrac{1}{k}P^{(k)}$ です。$P^{(k)}$ は年額なので、1期ぶんは $k$ で割ります。ここを $P^{(k)}$ のまま足すと $k$ 倍ずれます。
本試験ではこう問われる
元金償還保険そのものを問う出題は多くありません。この題材の価値は、後の章の式の原型になっていることです。
タクティクス 生保数理の第1章「利息の総合問題」には、$i$ にまつわる式変形の問題が並んでいます。ここで扱った $1-v=d$ の往復は、その土台です。
そして第5章「責任準備金の再帰式および純保険料の分解」には12問が置かれています。証明3の形に生存確率が入ったものが、そのまま出題されます。第5章に入る前にこの記事の3つを手でたどっておくと、再帰式が初見に見えなくなります。
まとめ
- 元金償還保険は「死亡率のない生命保険」。確定年金の記号だけで保険料・責任準備金が書ける。
- $\dfrac{1}{\ddot{s}_{\angl{n}}} = \dfrac{1}{\aann{n}} - d$ は、分母分子に $(1+i)^n$ を掛ければ出る(現価⇄終価)。
- $A_{\angl{n}} = 1 - d\,\aann{n} = v^n$。$1-v=d$ が分母の $d$ を作っている。
- 責任準備金の再帰式は「今の準備金+今期の保険料を1期利殖」。生命保険では生存確率が加わるだけ。