この記事で扱う証明
借入金の返済に関する式を2つ示します。教科書第1章 練習問題(3)の(5)(6)です。
証明1 — 元金1、年払元利均等返済(年返済金 $\dfrac{1}{\ann{n}}$)のとき、$t$ 年経過後の借入金残高は
$$\frac{\ann{n-t}}{\ann{n}}$$
証明2 — 金額 $A$ を年利 $r$ のアドオン方式で借り $n$ 年で返済するとき、年実利率 $i$ は
$$i \fallingdotseq \frac{2nr}{(n+1) - \frac{11}{12}} \fallingdotseq 2r$$
共通する一手は「これから払う分の現価を立てる」です。証明1は残高そのものが将来の現価。証明2は「借りた額=これから払う分の現価」という等式を立てて $i$ を逆算します。
使う道具
| 記号 | 定義 |
|---|---|
| $\ann{n}$ | $v + v^2 + \cdots + v^n$(期末払確定年金現価) |
| $\sann{t}$ | $(1+i)^{t-1} + \cdots + 1$(期末払確定年金終価) |
| $a_{\angl{n}}^{(k)}$ | 年 $k$ 回払確定年金現価 $= \dfrac{1 - v^n}{i^{(k)}}$ |
展開に使う近似は2つです。
$$i^{(12)} \fallingdotseq i - \frac{11}{24}i^2, \qquad v^n \fallingdotseq 1 - ni + \frac{n(n+1)}{2}i^2$$
どちらも $i$ の2次までの打ち切りです。アドオン方式の近似式に $\frac{11}{12}$ という半端な数が出てくる出どころは、前者の $\frac{11}{24}$ です。
証明1:残高は「まだ払っていない分」
元金1を $n$ 年の元利均等で返すので、年返済金は $P = \dfrac{1}{\ann{n}}$ です。
$t$ 年経過後の残高を、過去から計算してみます。元金を $t$ 年ぶん利殖した額から、それまでに払った $t$ 回分の終価を引きます。
$$(1+i)^t - \frac{1}{\ann{n}}\,\sann{t}$$
これを整理します。通分すると分子は
$$(1+i)^t\,\ann{n} - \sann{t}$$
定義に戻して書き下します。
$$(1+i)^t\left(v + v^2 + \cdots + v^n\right) = v^{1-t} + v^{2-t} + \cdots + v^{n-t}$$ $$\sann{t} = (1+i)^{t-1} + (1+i)^{t-2} + \cdots + 1 = v^{1-t} + v^{2-t} + \cdots + v^{0}$$
前者の最初の $t$ 項が、後者とちょうど同じです。引くと消えて
$$v + v^2 + \cdots + v^{n-t} = \ann{n-t}$$
したがって残高は
$$\frac{\ann{n-t}}{\ann{n}}$$
これは「これから払う $n-t$ 回分の現価」そのものです。 $P \cdot \ann{n-t} = \dfrac{\ann{n-t}}{\ann{n}}$ ですから。
$i = 5\%$、$n = 10$ で、毎年の返済を1回ずつ追った残高と $\dfrac{\ann{n-t}}{\ann{n}}$ を比べます。
| $t$ | 逐次計算した残高 | $\ann{n-t}/\ann{n}$ |
|---|---|---|
| 1 | $0.9204954$ | $0.9204954$ |
| 3 | $0.7493618$ | $0.7493618$ |
| 5 | $0.5606870$ | $0.5606870$ |
過去から積み上げても、将来から現価を立てても同じ。これが第5章の責任準備金で「過去法と将来法の一致」として再登場します。第1章の段階でここを掴んでおくと、後の章が楽になります。
証明2:アドオン方式は表示金利の約2倍
アドオン方式は、元金と全期間の利息を先に足してから、総月数で割る方式です。金額 $A$、年利 $r$、$n$ 年なら利息の総額は $nAr$。毎月の返済金は
$$\frac{A + nAr}{12n}$$
これが実質何%なのかを出します。「借りた額=これから払う分の現価」という等式を立てます。
$$A = \frac{A + nAr}{12n} \times 12 \times a_{\angl{n}}^{(12)}$$
$A$ で割って整理すると
$$n = (1 + nr)\,a_{\angl{n}}^{(12)} = (1 + nr)\,\frac{1 - v^n}{i^{(12)}}$$
$i^{(12)}$ を左辺に移し、両方の近似を入れます。
$$n\left(i - \frac{11}{24}i^2\right) = (1 + nr)\left[1 - \left\{1 - ni + \frac{n(n+1)}{2}i^2\right\}\right]$$
右辺の角括弧を計算すると $ni - \dfrac{n(n+1)}{2}i^2 = ni\left(1 - \dfrac{n+1}{2}i\right)$ なので
$$n\,i\left(1 - \frac{11}{24}i\right) = (1 + nr)\,n\,i\left(1 - \frac{n+1}{2}i\right)$$
両辺を $ni$ で割れます。 $i \ne 0$ だからです。
$$1 - \frac{11}{24}i = (1 + nr)\left(1 - \frac{n+1}{2}i\right)$$
右辺を展開すると $1 - \dfrac{n+1}{2}i + nr - nr\dfrac{n+1}{2}i$。最後の項は $r$ と $i$ の積なので、他の項に比べて小さい。省略すると
$$1 - \frac{11}{24}i = 1 + nr - \frac{n+1}{2}i \quad\Longrightarrow\quad \left(\frac{n+1}{2} - \frac{11}{24}\right)i = nr$$
両辺を2倍して整理すれば
$$i \fallingdotseq \frac{2nr}{(n+1) - \frac{11}{12}}$$
$n$ が大きければ分母は $n$ 程度なので、$i \fallingdotseq 2r$ です。
この結論は覚える価値があります。 $A = 100$万円、$r = 5\%$、$n = 5$年で計算すると、毎月の返済は $\dfrac{100 + 25}{60} = 2.083$万円。実利率を数値で解くと $9.55\%$ です。近似式は $9.84\%$、ざっくりの $2r$ は $10\%$。
表示されている「年利5%」の実質は、およそ10%。元金は返済とともに減っていくのに、利息は借入時の全額に対して計算されるからです。
2つに共通する一手
| 証明 | 立てた式 |
|---|---|
| 1 | 残高 = これから払う $n-t$ 回分の現価 |
| 2 | 借りた額 = これから払う $12n$ 回分の現価 |
どちらも「将来のキャッシュフローの現価」を1本立てただけです。証明1は残高を求めるために、証明2は $i$ を逆算するために使いました。式の向きが違うだけで、立てる式は同じ形です。
つまずきポイント
証明1で「過去法」と「将来法」を混同する。問題文は「(直接に)証明せよ」とあるので、過去から積み上げた式を出発点にして将来法の形に到達させます。結論だけ見れば将来法ですが、証明の道筋は過去法から始まっています。どちらから出発しているかを意識してください。
アドオン方式の利息を「残高に対して」計算してしまう。アドオン方式の利息 $nAr$ は、借入時の元金 $A$ に対して全期間分をまとめて計算したものです。残高が減っても利息は減りません。ここが「実質は約2倍」の理由そのものです。
近似の打ち切り次数を揃える。証明2では $i^{(12)}$ と $v^n$ をどちらも $i^2$ の項まで展開しています。片方だけ3次まで取っても精度は上がりません。最後に $nr\frac{n+1}{2}i$ を落とすところも含めて、同じ程度の粗さで揃えるのが要点です。実際、近似式の $9.84\%$ と真値の $9.55\%$ には $0.3$ ポイントの開きがあります。この式は桁を掴むためのもので、精密な値が要るなら数値で解きます。
本試験ではこう問われる
債務返済方式は、証明ではなく返済額や残高を計算させる形で出ます。
タクティクス 生保数理の第1章「各種の債務返済方式」には7問が並んでいます。元利均等返済・元金均等返済・アドオン方式の区別がそのまま論点になる構成です。この記事の証明1が元利均等の残高、証明2がアドオン方式にあたります。
残高を「これから払う分の現価」で出す発想は、第5章の責任準備金でそのまま使います。タクティクスでは第5章に「過去法と将来法の一致」という節が独立して置かれています。第1章の借入金残高と、第5章の責任準備金は、同じ計算です。
まとめ
- 借入金残高は「これから払う分の現価」。元利均等なら $\dfrac{\ann{n-t}}{\ann{n}}$。
- 過去から積み上げても将来から現価を立てても一致する。これが後の「過去法と将来法の一致」。
- アドオン方式は元金全額に対して利息を計算するので、実質金利は表示のおよそ2倍。
- 近似式 $i \fallingdotseq \dfrac{2nr}{(n+1)-\frac{11}{12}}$ は桁を掴むためのもの。精密な値は数値で解く。