この記事で扱う証明
生存確率と平均余命の微分に関する式を3つ示します。教科書 第2章 練習問題(1)の(10)(b)と(16)です。
証明1(10b)— 死亡の密度を最終年齢 $\omega$ まで積分すると1になる
$$\int_0^{\omega-x} \npx{t}{x}\,\mu_{x+t}\,dt = 1$$
証明2(16前半)— 生存確率を年齢で微分すると、入口と出口の死力の差が出る
$$\frac{d\,\npx{t}{x}}{dx} = \npx{t}{x}\left(\mu_x - \mu_{x+t}\right)$$
証明3(16後半)— 完全平均余命の微分公式と、その読み替え
$$\frac{d\,\mathring{e}_x}{dx} = \mu_x\,\mathring{e}_x - 1, \qquad \text{従って} \quad \mu_x = \frac{1}{\mathring{e}_x} + \frac{1}{\mathring{e}_x}\,\frac{d\,\mathring{e}_x}{dx}$$
証明2は、第4章で年金現価や保険料を年齢で微分するときの出発点になる式です。ここで導出まで押さえておくと、第4章の微分公式がすべて「同じ一手の繰り返し」に見えるようになります。
使う道具
道具は実質1本です。死力の定義
$$\mu_x = -\frac{1}{l_x}\,\frac{d\,l_x}{dx} = -\frac{d}{dx}\log l_x$$
を掛け算の形に直した
$$\frac{d\,l_x}{dx} = -\,l_x\,\mu_x$$
だけを使います。生存数 $l_x$ の減る速さは、いま生きている人数に死力を掛けたもの、という式です。
このほかは定義だけです。生存確率 $\npx{t}{x} = \dfrac{l_{x+t}}{l_x}$、完全平均余命 $\mathring{e}_x = \displaystyle\int_0^{\omega-x} \npx{t}{x}\,dt$。最終年齢を $\omega$ とします。$t \ge \omega - x$ では $\npx{t}{x} = 0$ なので、積分の上限は $\infty$ と書いても値は同じです。
証明1:$t$ で微分すると、出口の死力だけが出る
生存確率を経過年数 $t$ で微分します。分母の $l_x$ は $t$ に関係ない定数なので
$$\frac{d\,\npx{t}{x}}{dt} = \frac{1}{l_x}\,\frac{d\,l_{x+t}}{dt} = \frac{-\,l_{x+t}\,\mu_{x+t}}{l_x} = -\,\npx{t}{x}\,\mu_{x+t}$$
つまり、被積分関数 $\npx{t}{x}\,\mu_{x+t}$ は $-\npx{t}{x}$ の導関数そのものです。原始関数が分かったので、積分は端点の差になります。
$$\int_0^{\omega-x} \npx{t}{x}\,\mu_{x+t}\,dt = \Bigl[-\,\npx{t}{x}\Bigr]_0^{\omega-x} = -(0 - 1) = 1$$
最終年齢では生存確率が0、出発点では1であることを使いました。$\npx{t}{x}\,\mu_{x+t}$ は「$x$ 歳の人が $t$ 年後に死亡する」ことの密度であり、それを寿命の全区間で積分すれば全確率の1になる、という意味の式です。
証明2:$x$ で微分すると、入口と出口の差が出る
今度は年齢 $x$ で微分します。$t$ のときと違い、分子と分母の両方が動くので商の微分です。
$$\frac{d\,\npx{t}{x}}{dx} = \frac{d}{dx}\left(\frac{l_{x+t}}{l_x}\right) = \frac{l_x\,\dfrac{d\,l_{x+t}}{dx} - l_{x+t}\,\dfrac{d\,l_x}{dx}}{l_x^2}$$
道具の式を2回当てます。$\dfrac{d\,l_{x+t}}{dx} = -\,l_{x+t}\,\mu_{x+t}$、$\dfrac{d\,l_x}{dx} = -\,l_x\,\mu_x$ なので
$$= \frac{-\,l_x\,l_{x+t}\,\mu_{x+t} + l_{x+t}\,l_x\,\mu_x}{l_x^2} = \frac{l_{x+t}}{l_x}\left(\mu_x - \mu_{x+t}\right) = \npx{t}{x}\left(\mu_x - \mu_{x+t}\right)$$
$t$ で微分すると出口の死力 $\mu_{x+t}$ だけがマイナスで出るのに対し、$x$ で微分すると入口 $\mu_x$ と出口 $\mu_{x+t}$ の差が出ます。年齢を1つ上げることは、観測する区間 $[x,\,x+t]$ を丸ごと1つずらすことなので、区間の入口で $\mu_x$ の分だけ条件が軽くなり、出口で $\mu_{x+t}$ の分だけ重くなる、と読めます。
証明3:積分の中に入れて、証明1で仕上げる
完全平均余命は生存確率の積分なので、微分と積分の順序を交換して証明2を入れます。
$$\frac{d\,\mathring{e}_x}{dx} = \frac{d}{dx}\int_0^{\omega-x} \npx{t}{x}\,dt = \int_0^{\omega-x} \npx{t}{x}\left(\mu_x - \mu_{x+t}\right)dt$$
括弧を開くと、第1項の $\mu_x$ は $t$ に依らないので外に出て $\mu_x\,\mathring{e}_x$。第2項は証明1で値が1と分かっている積分そのものです。上限が $x$ に依存する点は、$t \ge \omega - x$ で被積分関数が0になることから、上限を $\infty$ に取り替えてから微分すれば処理できます。
$$\frac{d\,\mathring{e}_x}{dx} = \mu_x\,\mathring{e}_x - 1$$
両辺を $\mathring{e}_x$ で割って移項すれば
$$\mu_x = \frac{1}{\mathring{e}_x} + \frac{1}{\mathring{e}_x}\,\frac{d\,\mathring{e}_x}{dx}$$
となり、死力が「平均余命の逆数+補正項」で書けることも分かります。
数値で確かめる
死力を $\mu_x = \dfrac{1}{\omega - x}$(生存数が直線 $l_x = \omega - x$ で減る設定)とします。このとき $\npx{t}{x} = \dfrac{\omega - x - t}{\omega - x}$ で、完全平均余命は三角形の面積として
$$\mathring{e}_x = \int_0^{\omega-x} \frac{\omega - x - t}{\omega - x}\,dt = \frac{\omega - x}{2}$$
$\omega = 86$、$x = 30$ で確かめます。$\mathring{e}_{30} = 28$、$\mu_{30} = \dfrac{1}{56}$。
左辺:$\dfrac{d\,\mathring{e}_x}{dx} = -\dfrac{1}{2}$。年齢が1歳上がっても平均余命は半年しか減りません。
右辺:$\mu_{30}\,\mathring{e}_{30} - 1 = \dfrac{28}{56} - 1 = \dfrac{1}{2} - 1 = -\dfrac{1}{2}$。一致します。
読み替えの式も、$\dfrac{1}{\mathring{e}_{30}} + \dfrac{1}{\mathring{e}_{30}}\,\dfrac{d\,\mathring{e}_x}{dx} = \dfrac{1}{28} - \dfrac{1}{56} = \dfrac{1}{56} = \mu_{30}$ で確認できます。
つまずきポイント
$t$ 微分と $x$ 微分で式の形が違います。$\dfrac{d\,\npx{t}{x}}{dt} = -\,\npx{t}{x}\,\mu_{x+t}$(マイナス付き・出口だけ)と $\dfrac{d\,\npx{t}{x}}{dx} = \npx{t}{x}(\mu_x - \mu_{x+t})$(差の形)を取り違えると、以降の計算が全部ずれます。どちらか迷ったら、$t$ を増やすのは区間を延ばすこと(必ず生存確率は減るのでマイナス)、$x$ を増やすのは区間をずらすこと(入口と出口の綱引きなので差)、と操作の意味に戻ってください。
もう1つ。$\dfrac{d\,\mathring{e}_x}{dx} = \mu_x\,\mathring{e}_x - 1$ を見て「平均余命は1年ごとに1年減る」と思い込むのも誤りです。減り幅は $1 - \mu_x\,\mathring{e}_x$ で、1年より必ず小さくなります。それどころか $\mu_x\,\mathring{e}_x > 1$ なら符号が逆転し、年齢が上がると平均余命が延びます。乳児死亡率の高い生命表の0歳付近で実際に起きる現象です。死にやすい人から先に抜けていくため、生き残った集団の余命は見かけほど減らない、というのがこの補正項の読み方です。
本試験ではこう問われる
死力は平成12年度以降の26年度中22年度に登場する、この章の最頻出語です。生存確率・平均余命との相互変換は途切れなく問われています。
タクティクス 生保数理の第2章「平均余命」には8問が並びます。H28.2(1) の講師コメントは「完全平均余命の微分系も頻出公式」と明言しており、証明3がそのまま対象です。H4-I.1(4) は据置の完全平均余命を年齢で微分させる問題で、証明2と証明3を組み合わせて解きます。
死力を $\mu_x = \dfrac{1}{\omega - x}$ やその定数倍に置く設定は、タクティクスのコメントで「頻出」とされ、H15.1(3)・H25.1(2)・2019.1(2) などで繰り返し出ています。上の数値検算で使った三角形の関係はそのまま本試験の道具になります。
第4章に進むと、年金現価 $\bar{a}_x$ や保険料を年齢で微分する問題(タクティクス第3章「微分系」)が待っています。その全部の出発点が証明2です。
まとめ
- 道具は $\dfrac{d\,l_x}{dx} = -\,l_x\,\mu_x$ の1本。死亡密度の全積分が1になるのも、生存確率の年齢微分も、これを当てるだけで出る。
- $t$ 微分はマイナス付きで出口の死力だけ、$x$ 微分は入口と出口の死力の差。操作の意味(区間を延ばすか、ずらすか)で覚える。
- 完全平均余命の微分は $\mu_x\,\mathring{e}_x - 1$。年齢が1歳上がっても余命の減りは必ず1年未満で、$\mu_x\,\mathring{e}_x > 1$ なら延びることさえある。直線の生命表なら減りは半年で、数値でも一致を確認した。