この記事で扱う証明

生命年金の現価が「いくらより小さいか」を、2段階で押さえます。教科書第4章 練習問題(1)の(1)と(2)です。

証明1(粗い上界)

$$a_x < \frac{1}{i}, \qquad a_x^{(k)} < \frac{1}{i^{(k)}}, \qquad \bar{a}_x < \frac{1}{\delta}$$

証明2(精密な上界) — $q_x < q_{x+t}\ (t = 1, 2, 3, \dots)$ のとき

$$a_x < \frac{p_x}{q_x + i}, \qquad \ddot{a}_x < \frac{1+i}{q_x + i}$$

この2問を並べるのには理由があります。どちらも「生存確率を別のものに置き換えて不等号を作る」という同じ一手で片づき、置き換えるものの精度だけが違うからです。片方だけ見ると公式が2つ増えるだけですが、並べると手が1つに見えてきます。

使う道具

証明に使うのは、すでに出ている式だけです。

記号 意味
$v = \dfrac{1}{1+i}$ 現価率
$_t p_x$ $x$歳の人が $t$ 年後に生存している確率
$a_x$ 期末払終身年金の現価
$\ddot{a}_x$ 期始払終身年金の現価
$a_x^{(k)}$ 年 $k$ 回払終身年金の現価
$\bar{a}_x$ 連続払終身年金の現価
$\omega$ 生命表の最高年齢

定義はいずれも「支払いの現価を足し上げたもの」です。

$$a_x = v\,p_x + v^2\,_2p_x + \cdots + v^{\omega-x}\,_{\omega-x}p_x$$

そして確定年金の側から、永久年金の現価を借りてきます。

$$\ann{\infty} = \frac{1}{i}, \qquad \ann{\infty}^{(k)} = \frac{1}{i^{(k)}}, \qquad \bar{a}_{\angl{\infty}} = \frac{1}{\delta}$$

もうひとつ、期始払と期末払をつなぐ再帰式を使います。

$$\ddot{a}_x = \frac{a_x}{v\,p_x}$$

証明1:生存確率を1で置き換える

方針を1行で言うと、$_t p_x \le 1$ を使うだけです。

年金現価の各項には $v^t\,_tp_x$ という形が並んでいます。$_tp_x$ は確率なので1以下。したがって各項を $v^t$ で置き換えれば、和は必ず大きくなります。

$$a_x = v\,p_x + v^2\,_2p_x + \cdots + v^{\omega-x}\,_{\omega-x}p_x$$ $$< v + v^2 + \cdots + v^{\omega-x} + v^{\omega-x+1} + \cdots = \ann{\infty} = \frac{1}{i}$$

2行目で2つのことを同時にやっています。生存確率を1に置き換えたうえで、$\omega-x$ で止まっていた和を無限まで延ばしました。どちらも和を大きくする方向なので、不等号の向きは変わりません。

年 $k$ 回払も同じです。刻みが $1/k$ になるだけで、置き換える中身は変わりません。

$$a_x^{(k)} = \frac{1}{k}\left[v^{1/k}\,_{1/k}p_x + v^{2/k}\,_{2/k}p_x + \cdots\right] < \frac{1}{k}\left[v^{1/k} + v^{2/k} + \cdots\right] = \ann{\infty}^{(k)} = \frac{1}{i^{(k)}}$$

連続払は和が積分に変わるだけです。

$$\bar{a}_x = \int_0^{\omega-x} v^t\,_tp_x\,dt < \int_0^{\infty} v^t\,dt = \bar{a}_{\angl{\infty}} = \frac{1}{\delta}$$

3つとも同じ証明です。支払い方(年1回・年 $k$ 回・連続)が変わっても、$_tp_x$ を1に落として確定年金に持ち込む、という一手は共通しています。

意味を言葉にしておきます。生命年金は「生きているあいだだけ」払うので、「永久に払い続ける」確定年金より必ず小さい。当たり前のことを式にしただけですが、当たり前だと分かっていれば $1/i$ という上界を覚える必要がありません。

証明2:生存確率を $p_x$ で置き換える

証明1は粗い評価です。$_tp_x$ を1に落としてしまうので、死亡率の情報がまるごと捨てられています。

そこで条件を1つ足します。$q_x < q_{x+t}$、つまり死亡率が年齢とともに上がるとします。実際の生命表では(若年層の一部を除いて)成り立っている条件です。

このとき $p_x > p_{x+t}$ です。死亡率が上がるなら生存率は下がります。

まず、累積生存確率を1年ごとの生存率の積にほどきます。

$$a_x = (v p_x) + (v p_x)(v p_{x+1}) + (v p_x)(v p_{x+1})(v p_{x+2}) + \cdots$$

ここで $p_{x+1}, p_{x+2}, \dots$ はすべて $p_x$ より小さい。だから全部 $p_x$ に置き換えれば、和は大きくなります。

$$a_x < (v p_x) + (v p_x)^2 + (v p_x)^3 + \cdots$$

右辺は初項 $vp_x$、公比 $vp_x$ の等比級数です。$0 < vp_x < 1$ なので収束して

$$a_x < \frac{v p_x}{1 - v p_x}$$

分母分子に $(1+i)$ を掛けて整理します。$v(1+i) = 1$ なので

$$\frac{v p_x}{1 - v p_x} = \frac{p_x}{(1+i) - p_x} = \frac{p_x}{q_x + i}$$

最後は $1 - p_x = q_x$ を使いました。これで第1式が出ます。

$$a_x < \frac{p_x}{q_x + i}$$

第2式は、期始払と期末払をつなぐ式に代入するだけです。

$$\ddot{a}_x = \frac{a_x}{v p_x} < \frac{1}{v p_x} \cdot \frac{p_x}{q_x + i} = \frac{1+i}{q_x + i}$$

$v = 1/(1+i)$ なので $1/(vp_x) \times p_x = 1+i$ となり、$p_x$ が約分で消えます。

2つの上界を比べる

同じ量に2つの上界が出たので、どちらが強いかを見ておきます。$i = 0.03$、$q_x = 0.001$ で入れてみます。

上界
証明1 $\dfrac{1}{i}$ $33.33$
証明2 $\dfrac{p_x}{q_x + i}$ $\dfrac{0.999}{0.031} = 32.23$

証明2のほうが小さく、つまり強い評価です。当然で、証明1は死亡率を完全に捨てているのに対し、証明2は $q_x$ という1年分の情報を使っているからです。

捨てる情報が少ないほど、評価は強くなる。これが2問を並べて読む意味です。$q_x \to 0$(誰も死なない)とすると証明2の上界は $1/i$ に近づき、証明1と一致します。極限で一致することを確かめておくと、式を覚え違えたときに気づけます。

つまずきポイント

不等号の向きを、置き換えのたびに確認する。証明1では「$_tp_x$ を1にする」「和を無限に延ばす」の2手とも和を大きくします。だから $<$ のままです。もし片方が和を小さくする操作だったら、不等式は主張できません。証明を書くときは、各操作がどちら向きかを口に出して確かめてください。

証明2の条件を落とさない。 $a_x < \frac{p_x}{q_x+i}$ は無条件には成り立ちません。$q_x < q_{x+t}$(死亡率が上がっていく)という仮定があって初めて $p_{x+1} < p_x$ が言え、等比級数に押し込めます。この仮定なしにこの式を使うと誤りです。大小問題の選択肢では、仮定を外した形が誤りとして並びます。

$1/i$ と $1/i^{(k)}$ と $1/\delta$ を取り違える。支払い回数が増えるほど利率の記号は小さくなり($i > i^{(k)} > \delta$)、その逆数である上界は大きくなります。年金の現価そのものも $a_x < a_x^{(k)} < \bar{a}_x$ の順で大きいので、上界の大小と年金現価の大小は同じ向きです。ここが揃っていることを確認しておくと、記号を取り違えても復元できます。

本試験ではこう問われる

この形がそのまま証明として出ることはありません。大小関係を選ばせる形で出ます。

平成12年度以降の生保数理では、「次の(A)〜(E)のうち、正しい大小関係を表している不等式をすべて選びなさい」という形式が26年度中7年度(2009・2011・2014・2018・2020・2023・2025年度)に出ています。直近8年度では4回なので、近年ほど当たりやすい形式です。

出題の形はたとえばこうです。

次の(A)〜(F)のうち、常に正しい関係を表している等式または不等式をすべて選びなさい。なお、(A)〜(F)の中に常に正しい関係を表しているものが1つもない場合は(G)をマークすること。(H23年度問題1(1))

「常に」という語に注目してください。証明2のように条件つきでしか成り立たない式は、条件が書かれていなければ「常に正しい」とは言えません。この形式では、条件を落とした式が誤りの選択肢になります。

タクティクス 生保数理では第3章に「大小系」として7問が並んでいます。いずれも目標解答時間5分で、$d^{(k)}, \delta, i^{(k)}$ の大小や、$\log(1+\delta)$・$e^{\delta}$ の級数展開を使う問題です。この節の7問目は教科書の第1〜4章の練習問題そのものを扱っています。つまりここで読んだ証明は、そのままタクティクスの問題に接続します。

まとめ

  • 生命年金現価の上界は、$_tp_x$ を何で置き換えるかで決まる。
  • 1に置き換えれば $a_x < 1/i$。死亡率を捨てた粗い評価で、無条件に成り立つ。
  • $p_x$ に置き換えれば $a_x < \dfrac{p_x}{q_x+i}$。等比級数に押し込む形で、$q_x < q_{x+t}$ が必要。
  • 捨てる情報が少ないほど評価は強い。$q_x \to 0$ で2つは一致する。
  • 本試験は証明ではなく大小関係の選択で問う。「常に正しい」かどうかは、条件の有無で決まる。