この記事で扱う証明
年齢 $x$ での微分を5式示します。教科書 第4章 練習問題(2)の(7)(8)です。
証明1(7a)
$$\frac{d\,\bar{a}_{x:\angl{n}}}{dx} = \mu_x\,\bar{a}_{x:\angl{n}} - \bar{A}^{\,1}_{x:\angl{n}}$$
証明2(7b)
$$\frac{d\,\bar{a}_x}{dx} = \bar{a}_x\left(\mu_x + \delta\right) - 1$$
証明3(7c)
$$\frac{d\,\bar{A}_{x:\angl{n}}}{dx} = \delta\left(\bar{A}^{\,1}_{x:\angl{n}} - \mu_x\,\bar{a}_{x:\angl{n}}\right)$$
証明4(7d)
$$\frac{d\,\bar{A}_x}{dx} = \bar{A}_x\left(\mu_x + \delta\right) - \mu_x$$
証明5(8)
$$\frac{d}{dx}\left(l_x\,\bar{a}_x\right) = -\,l_x\,\bar{A}_x$$
5式とも、生存確率を年齢で微分した1本から出ます。(7a) を作れば (7b)(7c)(7d) はその変形、(8) は積の微分に (7b) を入れるだけです。
使う道具
出発点は、生存確率を年齢で微分した式です。第2章 練習問題(1)の(16)で示されているもので、この記事ではそれを使います。
$$\frac{\partial}{\partial x}\,\npx{t}{x} = \npx{t}{x}\left(\mu_x - \mu_{x+t}\right)$$
意味を確認しておきます。$\npx{t}{x} = \exp\left(-\int_0^t \mu_{x+s}\,ds\right)$ で、$x$ を1歳上げると積分の区間が丸ごと1歳ずれます。入口で $\mu_x$ の分だけ得をして、出口で $\mu_{x+t}$ の分だけ損をする、というのがこの式です。
あとは定義と、年金と保険を結ぶ式を使います。
$$\bar{a}_{x:\angl{n}} = \int_0^n v^t\,\npx{t}{x}\,dt, \qquad \bar{A}^{\,1}_{x:\angl{n}} = \int_0^n v^t\,\npx{t}{x}\,\mu_{x+t}\,dt$$
$$\bar{A}_{x:\angl{n}} = 1 - \delta\,\bar{a}_{x:\angl{n}}, \qquad \bar{A}_x = 1 - \delta\,\bar{a}_x$$
さらに (8) では生存数の微分を使います。
$$\frac{d\,l_x}{dx} = -\,l_x\,\mu_x$$
証明1:積分の中を微分して2つに割る
$\bar{a}_{x:\angl{n}}$ の定義に微分を入れます。$v^t$ は $x$ を含まないので、微分が効くのは $\npx{t}{x}$ だけです。
$$\frac{d\,\bar{a}_{x:\angl{n}}}{dx} = \frac{d}{dx}\int_0^n v^t\,\npx{t}{x}\,dt = \int_0^n v^t\,\npx{t}{x}\left(\mu_x - \mu_{x+t}\right)dt$$
括弧を開いて2つに割ります。$\mu_x$ は $t$ に依らないので外へ出せます。
$$= \mu_x\int_0^n v^t\,\npx{t}{x}\,dt - \int_0^n v^t\,\npx{t}{x}\,\mu_{x+t}\,dt$$
第1項は $\mu_x\,\bar{a}_{x:\angl{n}}$、第2項は定期保険の定義そのものです。
$$\frac{d\,\bar{a}_{x:\angl{n}}}{dx} = \mu_x\,\bar{a}_{x:\angl{n}} - \bar{A}^{\,1}_{x:\angl{n}}$$
メーカムの法則で作った生命表($i = 3\%$、$x = 40$、$n = 20$)で数値微分すると $-0.04516007$、式の値は $-0.04516006$ で一致します。
意味を読んでおきます。年齢が上がると年金現価は減りますが、その減り方は2つの力の差で決まります。入口で $\mu_x$ の分だけ「もう死んでいたはずの人が含まれない」という得があり、出口では将来の死力が効いて損をする。差し引きが微分です。
証明2:$n \to \infty$ にして終身にする
証明1で $n \to \infty$ とすれば、有期が終身に変わります。
$$\frac{d\,\bar{a}_x}{dx} = \mu_x\,\bar{a}_x - \bar{A}_x$$
ここに $\bar{A}_x = 1 - \delta\,\bar{a}_x$ を入れます。
$$= \mu_x\,\bar{a}_x - 1 + \delta\,\bar{a}_x = \bar{a}_x\left(\mu_x + \delta\right) - 1$$
数値微分で $-0.30749492$、式の値も $-0.30749492$ です。
$\mu_x + \delta$ という組が出てきました。死力と利力が並ぶこの形は、連続の生保数理で繰り返し現れます。年金現価の上界 $\bar{a}_x < \dfrac{1}{\mu_x + \delta}$ に出てくるのと同じ組です。
証明3:保険の側は $-\delta$ を掛けるだけ
$\bar{A}_{x:\angl{n}} = 1 - \delta\,\bar{a}_{x:\angl{n}}$ の両辺を $x$ で微分します。定数の1は消えます。
$$\frac{d\,\bar{A}_{x:\angl{n}}}{dx} = -\delta\,\frac{d\,\bar{a}_{x:\angl{n}}}{dx}$$
証明1の結果を代入します。
$$= -\delta\left(\mu_x\,\bar{a}_{x:\angl{n}} - \bar{A}^{\,1}_{x:\angl{n}}\right) = \delta\left(\bar{A}^{\,1}_{x:\angl{n}} - \mu_x\,\bar{a}_{x:\angl{n}}\right)$$
数値微分で $0.00133488$、式の値も $0.00133488$ です。
年金の微分が負で、保険の微分が正になっています。年齢が上がれば年金は安く、保険は高くなる。$-\delta$ を掛けたことで符号が反転しています。
証明4:終身の保険
証明3で $n \to \infty$ とし、$\bar{A}_x = 1 - \delta\bar{a}_x$ を使います。
$$\frac{d\,\bar{A}_x}{dx} = -\delta\left(\mu_x\,\bar{a}_x - \bar{A}_x\right)$$
$\bar{a}_x = \dfrac{1 - \bar{A}_x}{\delta}$ を入れて整理します。
$$= -\mu_x\left(1 - \bar{A}_x\right) + \delta\,\bar{A}_x = \bar{A}_x\left(\mu_x + \delta\right) - \mu_x$$
数値微分で $0.00908918$、式の値も $0.00908918$ です。
証明2と並べると形がそっくりです。
$$\frac{d\,\bar{a}_x}{dx} = \bar{a}_x\left(\mu_x + \delta\right) - 1, \qquad \frac{d\,\bar{A}_x}{dx} = \bar{A}_x\left(\mu_x + \delta\right) - \mu_x$$
どちらも「自分自身に $\mu_x + \delta$ を掛けて、定数を引く」形です。引く定数が年金では1、保険では $\mu_x$ になります。
証明5:生存数を掛けると保険料だけが残る
$l_x\,\bar{a}_x$ を微分します。積の微分です。
$$\frac{d}{dx}\left(l_x\,\bar{a}_x\right) = \frac{d\,l_x}{dx}\,\bar{a}_x + l_x\,\frac{d\,\bar{a}_x}{dx}$$
第1項に $\dfrac{d\,l_x}{dx} = -l_x\mu_x$、第2項に証明2の結果を入れます。
$$= -l_x\,\mu_x\,\bar{a}_x + l_x\left\{\bar{a}_x\left(\mu_x + \delta\right) - 1\right\}$$
$l_x\mu_x\bar{a}_x$ が打ち消し合います。
$$= l_x\left(\delta\,\bar{a}_x - 1\right) = -\,l_x\left(1 - \delta\,\bar{a}_x\right) = -\,l_x\,\bar{A}_x$$
数値微分で $-0.34945460$、式の値も $-0.34945460$ です。
$\mu_x$ が消えるのがこの式の見どころです。$l_x\bar{a}_x$ は「$x$ 歳の生存者全員に終身年金を出すときの総額」で、それを年齢で微分すると保険料の総額だけが残る。死力は現れません。
5式に共通する一手
| 証明 | やったこと |
|---|---|
| 1 | 生存確率の微分を積分の中に入れ、$\mu_x$ と $\mu_{x+t}$ に割る |
| 2 | 1で $n\to\infty$ とし、$\bar{A}_x = 1-\delta\bar{a}_x$ を代入 |
| 3 | $\bar{A} = 1-\delta\bar{a}$ の両辺を微分し、1を代入 |
| 4 | 3で $n\to\infty$ とし、$\bar{a}_x$ を $\bar{A}_x$ で表す |
| 5 | 積の微分に 2 を代入し、$\mu_x$ を消す |
出発点は1本だけです。$\dfrac{\partial}{\partial x}\npx{t}{x} = \npx{t}{x}(\mu_x - \mu_{x+t})$ を書ければ、あとは代入と整理で5式が並びます。
つまずきポイント
$x$ での微分と $t$ での微分を混同する。この記事はすべて加入年齢 $x$ での微分です。経過時間 $t$ での微分(責任準備金のチーレの微分方程式など)とは別物で、出てくる式も違います。何で微分しているかを最初に確認してください。
$v^t$ が微分に効かないことを確認する。 $v^t = e^{-\delta t}$ には $x$ が入っていないので、$x$ で微分すると0です。だから微分が効くのは生存確率だけ。ここを見落として $\delta$ の項を余計に出す誤りがあります。$\delta$ が現れるのは、$\bar{A} = 1-\delta\bar{a}$ を代入したときだけです。
符号の向き。年金の微分は負(年齢が上がれば年金は安くなる)、保険の微分は正(保険は高くなる)です。上の数値でも $-0.307$ と $+0.009$ になっています。答えの符号が直感と合うかを最後に見ておくと、代入ミスに気づけます。
$\bar{A}^{\,1}_{x:\angl{n}}$ と $\bar{A}_{x:\angl{n}}$ を取り違える。証明1と証明3の右辺に出るのは上付き1の付いた定期保険です。証明3の左辺は上付きのない養老保険。同じ式の中で両方が出てくるので、1の有無を写し落とさないでください。
本試験ではこう問われる
微分そのものを証明させる出題ではなく、微分の結果を使って値を求めさせる形で出ます。
タクティクス 生保数理の第3章「微分系」には3問が置かれています。H22年度の問題は目標解答時間4分で、この節では最も軽い部類です。
第2章「死力」の3問にも、微分と積分の往復が出てきます。2025年度の問題(目標8分)は不定積分の計算が要る形です。
なお、大小関係を選ばせる形式は平成12年度以降の生保数理で26年度中7年度(2009・2011・2014・2018・2020・2023・2025年度)に出ており、そこで $\mu_x + \delta$ の組が現れることがあります。証明2と証明4の形を知っていると、選択肢を絞れます。
まとめ
- 出発点は $\dfrac{\partial}{\partial x}\npx{t}{x} = \npx{t}{x}(\mu_x - \mu_{x+t})$ の1本。5式ともここから出る。
- 年金の微分は $\mu_x\bar{a} - \bar{A}^{\,1}$。入口の得と出口の損の差、という形。
- 終身にすると $\bar{a}_x(\mu_x+\delta) - 1$、保険なら $\bar{A}_x(\mu_x+\delta) - \mu_x$。引く定数だけが違う。
- $l_x\bar{a}_x$ を微分すると $-l_x\bar{A}_x$。$\mu_x$ が打ち消し合って消える。
- 微分が効くのは生存確率だけ。$v^t$ には $x$ が入っていない。