この記事で扱う証明
終身保険の一時払保険料 $A_x$ に関する式を2つ示します。教科書 第4章 練習問題(2)の(1)(2)です。
証明1 — 生存率・死亡率を保険料で表す
$$p_x = \frac{1 - (1+i)A_x}{1 - A_{x+1}}, \qquad q_x = \frac{(1+i)A_x - A_{x+1}}{1 - A_{x+1}}$$
証明2 — $x+t$ 歳の死亡率だけを $q'_{x+t} = q_{x+t} + c$ と大きくしたとき、その表で計算した $A'_x$ は
$$A'_x = A_x + c\,v^{t+1}\,{}_tp_x\left(1 - A_{x+t+1}\right)$$
共通する一手は、$A_x$ の定義の和を書き下してから、1年ずらすか、変えた項だけの差をとるかです。
使う道具
終身保険の一時払保険料は、死亡する年ごとの現価を足したものです。
$$A_x = v\,q_x + v^2\,p_x\,q_{x+1} + v^3\,{}_2p_x\,q_{x+2} + \cdots$$
第 $(t+1)$ 項は「$t$ 年生きて、その次の1年で死ぬ」場合で、係数は $v^{t+1}\,{}_tp_x\,q_{x+t}$ です。
$$A_x = \sum_{t=0}^{\infty} v^{t+1}\,{}_tp_x\,q_{x+t}$$
累積生存確率は1年ごとの生存率の積にほどけます。
$$_tp_x = p_x\,p_{x+1}\cdots p_{x+t-1}$$
この2本だけで足ります。
証明1:$(1+i)$ を掛けて1年ずらす
$A_x$ に $(1+i)$ を掛けます。各項の $v$ が1つずつ減ります。
$$(1+i)A_x = q_x + v\,p_x\,q_{x+1} + v^2\,{}_2p_x\,q_{x+2} + \cdots$$
先頭が $q_x$ だけになりました。両辺を1から引きます。
$$1 - (1+i)A_x = 1 - q_x - v\,p_x\,q_{x+1} - v^2\,{}_2p_x\,q_{x+2} - \cdots$$
$1 - q_x = p_x$ です。そして2項目以降は、どれも先頭に $p_x$ を含んでいます。$_2p_x = p_x\,p_{x+1}$ のようにほどけるからです。$p_x$ でくくります。
$$= p_x - p_x\left(v\,q_{x+1} + v^2\,p_{x+1}\,q_{x+2} + v^3\,{}_2p_{x+1}\,q_{x+3} + \cdots\right)$$
括弧の中を見てください。これは $x+1$ 歳から始めた $A_{x+1}$ の定義そのものです。
$$1 - (1+i)A_x = p_x\left(1 - A_{x+1}\right)$$
両辺を $1 - A_{x+1}$ で割れば第1式が出ます。第2式は $q_x = 1 - p_x$ から
$$q_x = 1 - \frac{1 - (1+i)A_x}{1 - A_{x+1}} = \frac{(1 - A_{x+1}) - 1 + (1+i)A_x}{1 - A_{x+1}} = \frac{(1+i)A_x - A_{x+1}}{1 - A_{x+1}}$$
メーカムの法則で作った生命表($i = 3\%$、$x = 40$)で確かめると、$p_{40} = 0.9972077$ が両辺で一致します。
意味を言葉にしておきます。この式は「終身保険の保険料が2年分わかれば、その間の死亡率が逆算できる」と言っています。$A_x$ と $A_{x+1}$ には $x$ 歳の死亡率だけが違いとして入っているからです。
証明2:変わった項だけを拾う
今度は死亡率をひとつだけ動かします。$x+t$ 歳の死亡率を $c$ だけ増やし、他は変えません。
$$q'_{x+t} = q_{x+t} + c, \qquad p'_{x+t} = p_{x+t} - c$$
$A'_x$ と $A_x$ を並べて差をとります。$x+t$ 歳より前の項は何も変わらないので消えます。残るのは2種類です。
$$A'_x - A_x = \underbrace{v^{t+1}\,{}_tp_x\left(q'_{x+t} - q_{x+t}\right)}_{\text{その年に死ぬ項}} + \underbrace{\sum_{k \ge 1} v^{t+1+k}\,q_{x+t+k}\left({}_{t+k}p'_x - {}_{t+k}p_x\right)}_{\text{それ以降に死ぬ項}}$$
第1項は $q$ が直接 $c$ 増えた分。第2項は、生存率が下がったせいで先の項が目減りする分です。
第2項の中身を出します。$_{t+k}p_x$ は $x+t$ 歳の生存率を1つだけ含むので
$$_{t+k}p'_x - {}_{t+k}p_x = {}_tp_x\left(p'_{x+t} - p_{x+t}\right){}_{k-1}p_{x+t+1} = -c\,{}_tp_x\,{}_{k-1}p_{x+t+1}$$
代入します。
$$A'_x - A_x = c\,v^{t+1}\,{}_tp_x - c\,v^{t+1}\,{}_tp_x \sum_{k \ge 1} v^{k}\,{}_{k-1}p_{x+t+1}\,q_{x+t+k}$$
シグマの中を見てください。$k$ を1から動かすと $v^k\,{}_{k-1}p_{x+t+1}\,q_{x+t+k}$ で、これは $x+t+1$ 歳から始めた $A_{x+t+1}$ の定義です。
$$A'_x - A_x = c\,v^{t+1}\,{}_tp_x\left(1 - A_{x+t+1}\right)$$
同じ生命表で $t = 5$、$c = 0.001$ として、実際に $q_{45}$ を動かした表で計算し直すと、差は $0.000480547$。式の値も $0.000480547$ で一致します。
括弧の中身が意味していること
$1 - A_{x+t+1}$ が出てくるのは偶然ではありません。$A_x = 1 - d\,\ddot{a}_x$ を使うと
$$1 - A_{x+t+1} = d\,\ddot{a}_{x+t+1}$$
つまり変化量は「その時点以降の年金現価に比例する」ということです。死亡率を上げると、保険金が早く出る分だけ保険料が上がりますが、上がり幅は先の期間が長いほど大きい。$1 - A$ という形は、その「先の長さ」を測っています。
2つに共通する一手
| 証明 | 定義の和に何をしたか |
|---|---|
| 1 | $(1+i)$ を掛けて $v$ を1つ落とし、$p_x$ でくくる |
| 2 | 変えた項の差だけを拾い、$_tp_x$ でくくる |
どちらも、くくり出した残りが「1つ先の年齢から始めた $A$」になっています。$A_x$ の定義が入れ子になっているからです。
$$A_x = v\,q_x + v\,p_x\,A_{x+1}$$
この再帰式が、2つの証明の背後にあります。証明1はこれを $p_x$ について解いたもの、証明2はこれを $t$ 段たどったところで摂動を入れたものです。
つまずきポイント
証明1で $(1+i)$ を掛ける意味を見失う。 $A_x$ は $x$ 歳時点の現価です。$(1+i)$ を掛けると1年後の価値に直り、先頭の項が割引のない $q_x$ になります。時点を1年進めることで、先頭の1項だけを裸にするのが狙いです。
証明2で第2項を落とす。 死亡率を上げると、その年の死亡が増えるだけでなく、それ以降まで生き残る人が減ります。第1項だけ見て $A'_x - A_x = c\,v^{t+1}\,{}_tp_x$ としてしまうと、$A_{x+t+1}$ の分だけ過大になります。上の数値例では正しい値が $0.000481$ で、第1項だけだと $0.000824$。7割ほど大きく出ます。$1 - A_{46} = 0.583$ を掛けるかどうかの差です。
$_tp_x$ と $p_{x+t}$ を取り違える。 $_tp_x$ は「$x$ 歳から $t$ 年間生きる確率」、$p_{x+t}$ は「$x+t$ 歳が1年生きる確率」です。証明2では両方が出てくるので、添字の左肩に付いているかどうかで読み分けてください。
本試験ではこう問われる
証明そのものは出ませんが、この形の式変形は計算問題の中で使います。
タクティクス 生保数理の第3章「保険料&生命関数系」には8問が並んでいます。H13年度の「一時払い純保険料」は目標解答時間4分、H22年度の「累加・累減保険」は3分で、いずれも定義の和に戻して処理する問題です。
証明2の「基礎率を少し動かしたときの変化」という発想は、教科書 第6章「計算基礎の変更」に直結します。タクティクスの同じ章には「予定死亡率の変更」が12問あり、これは平成12年度以降の生保数理で26年度中12年度に出ている論点です。
まとめ
- $A_x$ は入れ子の再帰式 $A_x = v q_x + v p_x A_{x+1}$ を持つ。2つの証明はどちらもこれが背後にある。
- $(1+i)A_x$ とすると先頭が $q_x$ だけになる。そこから $p_x$ を逆算できる。
- 死亡率を1点だけ上げたときの変化は $c\,v^{t+1}\,{}_tp_x(1 - A_{x+t+1})$。その年の分だけでなく、以降の生存が減る分も入る。
- $1 - A_{x+t+1} = d\,\ddot{a}_{x+t+1}$ なので、変化量は「その先の年金現価」に比例する。