この記事で扱う証明
死力に関する式を2つ示します。教科書 第4章 練習問題(2)の(5)(6)です。
証明1 — $\mu_x$ が年齢に関係なく定数 $c$ に等しいとき
$$\bar{A}_x = c\,\bar{a}_x = \frac{c}{c + \delta}$$
証明2 — $\mu_{x+t} > \mu_x\ (t > 0)$ であれば
$$\bar{a}_x < \frac{1}{\mu_x + \delta}$$
2問とも、積分の中の $\mu_{x+t}$ を $\mu_x$ で置き換えます。定数なら置き換えても値は変わらないので等号、増加なら小さいもので置き換えるので不等号。それだけの違いです。
使う道具
連続の世界の3本を使います。
$$\bar{a}_x = \int_0^{\infty} v^t\,\npx{t}{x}\,dt$$
$$\bar{A}_x = \int_0^{\infty} v^t\,\npx{t}{x}\,\mu_{x+t}\,dt$$
$$\bar{A}_x = 1 - \delta\,\bar{a}_x$$
第1式は「$t$ 時点まで生きていれば年金を払う」、第2式は「$t$ 時点で死ねば保険金を払う」。第2式に $\mu_{x+t}$ が掛かっているのは、$\npx{t}{x}\,\mu_{x+t}\,dt$ が「ちょうど $t$ 時点で死ぬ確率」だからです。
第3式は離散の $A_x = 1 - d\,\ddot{a}_x$ の連続版です。
$v^t = e^{-\delta t}$ も使います。
証明1:死力が定数なら積分の外に出せる
$\mu_{x+t} = c$ を保険の式に入れます。定数なので積分の外に出ます。
$$\bar{A}_x = \int_0^{\infty} v^t\,\npx{t}{x}\,\mu_{x+t}\,dt = c\int_0^{\infty} v^t\,\npx{t}{x}\,dt = c\,\bar{a}_x$$
第1の等号が出ました。ここが一手のすべてです。
次に $\bar{a}_x$ を求めます。死力が定数なら生存確率も指数関数です。
$$\npx{t}{x} = \exp\left(-\int_0^t \mu_{x+s}\,ds\right) = e^{-ct}$$
したがって
$$\bar{a}_x = \int_0^{\infty} e^{-\delta t}\,e^{-ct}\,dt = \int_0^{\infty} e^{-(c+\delta)t}\,dt = \frac{1}{c + \delta}$$
これを $\bar{A}_x = c\,\bar{a}_x$ に入れれば
$$\bar{A}_x = \frac{c}{c + \delta}$$
$c = 0.02$、$i = 3\%$($\delta = 0.029559$)で計算すると、$\bar{a}_x = 20.178050$、$\bar{A}_x = 0.403561$。$\bar{A}_x = 1 - \delta\bar{a}_x$ で検算しても $0.403561$ で一致します。
なぜ年齢が消えるのか
答えに $x$ が入っていません。死力が定数ということは「いつまで生きても、次の瞬間に死ぬ確率が同じ」という意味で、これは指数分布の無記憶性そのものです。80歳の人も20歳の人も、残りの寿命の分布が同じ。だから年金現価も保険料も年齢によらない、という結論になります。
教科書の解答は、$\bar{A}_x = c\,\bar{a}_x$ と $\bar{A}_x = 1 - \delta\bar{a}_x$ を連立させて $\bar{a}_x$ を消す道をとっています。
$$c\,\bar{a}_x = 1 - \delta\,\bar{a}_x \quad\Longrightarrow\quad (c+\delta)\bar{a}_x = 1 \quad\Longrightarrow\quad \bar{a}_x = \frac{1}{c+\delta}$$
積分を計算せずに済むので、こちらのほうが速い道です。
証明2:定数で置き換えて不等号を作る
今度は $\mu$ が定数ではなく、年齢とともに増えるとします。$\mu_{x+t} > \mu_x$ です。
保険料の式に入れます。積分の中の $\mu_{x+t}$ を、より小さい $\mu_x$ で置き換えると、積分の値は小さくなります。
$$\bar{A}_x = \int_0^{\infty} v^t\,\npx{t}{x}\,\mu_{x+t}\,dt > \mu_x\int_0^{\infty} v^t\,\npx{t}{x}\,dt = \mu_x\,\bar{a}_x$$
ここで $\bar{A}_x = 1 - \delta\bar{a}_x$ を左辺に代入します。
$$1 - \delta\,\bar{a}_x > \mu_x\,\bar{a}_x$$
$\bar{a}_x$ について解きます。
$$1 > \left(\mu_x + \delta\right)\bar{a}_x \quad\Longrightarrow\quad \bar{a}_x < \frac{1}{\mu_x + \delta}$$
メーカムの法則で作った生命表($i = 3\%$)で確かめます。
| $x$ | $\bar{a}_x$ | $\dfrac{1}{\mu_x + \delta}$ |
|---|---|---|
| 30 | $24.2478$ | $32.2710$ |
| 40 | $21.4681$ | $31.0006$ |
| 50 | $18.1142$ | $28.3577$ |
| 60 | $14.3154$ | $23.5955$ |
どの年齢でも成り立っています。ただし差はかなり大きい。$\mu_x$ は今の瞬間の死力で、この先はもっと大きくなるのに、それを全期間に使っているからです。粗い上界だということは押さえておいてください。
証明1と並べる
証明1で得た $\bar{a}_x = \dfrac{1}{c+\delta}$ と、証明2の上界 $\dfrac{1}{\mu_x+\delta}$ は同じ形をしています。
死力が定数なら等号、増加なら不等号。証明2の上界は「もし今の死力がずっと続いたら」という仮想的な世界の年金現価で、実際には死力が上がっていくぶん、本当の年金現価はそれより小さくなる、と読めます。
2つに共通する一手
| 証明 | 積分の中の $\mu_{x+t}$ をどうしたか |
|---|---|
| 1 | 定数 $c$ なので、そのまま外に出す(等号) |
| 2 | $\mu_x$ で置き換える(小さくするので不等号) |
置き換えたあとに残る積分は、どちらも $\bar{a}_x$ です。そこに $\bar{A}_x = 1 - \delta\bar{a}_x$ を当てて $\bar{a}_x$ について解く、というところまで共通しています。
つまずきポイント
$\bar{A}$ の積分に $\mu$ が掛かる理由を押さえる。年金の積分には $\mu$ が付かず、保険の積分には付きます。年金は「生きていれば払う」ので生存確率だけ、保険は「その瞬間に死んだら払う」ので死ぬ確率密度が要る。$\npx{t}{x}\,\mu_{x+t}$ がその密度です。ここを混ぜると両方の式が壊れます。
証明2の不等号の向き。 $\mu_{x+t} > \mu_x$ なので、$\mu_{x+t}$ を $\mu_x$ に置き換えると積分は小さくなります。したがって $\bar{A}_x > \mu_x\bar{a}_x$。この向きを逆にすると、最後の $\bar{a}_x$ の不等号も逆になります。置き換えで値が増えるのか減るのかを、そのつど口に出して確かめてください。
$\delta$ と $\mu$ を混同する。 $\delta$ は利力(お金の話)、$\mu$ は死力(人の話)です。式の形が似ていて $\frac{1}{\mu+\delta}$ のように並ぶので取り違えやすいところですが、$\delta$ は年齢によらず一定、$\mu$ は年齢の関数です。
$\bar{a}_x = \frac{1}{c+\delta}$ を一般の生命表で使わない。これは死力が定数のときだけの式です。実際の生命表では死力が年齢とともに上がるので、証明2のとおり不等号になります。
本試験ではこう問われる
死力が定数という設定は、計算問題の前提としてよく使われます。答えが簡単な形になるので、他の論点を問う土台に置きやすいからです。
タクティクス 生保数理の第2章「死力」には3問が並んでいます。2018年度の「死力の近似」、2025年度の問題(目標解答時間8分、不定積分の計算が要る)などです。
証明2のような上界は、大小関係を選ばせる形式で問われます。平成12年度以降の生保数理では26年度中7年度(2009・2011・2014・2018・2020・2023・2025年度)にこの形式が出ています。
作った式が正しいかを確かめるとき、死力を定数に置いて既知の形に落ちるかを見る、という使い方もできます。答えに $x$ が残っていたら、どこかで間違えている可能性が高い、という検算です。
まとめ
- 死力が定数 $c$ なら $\bar{a}_x = \dfrac{1}{c+\delta}$、$\bar{A}_x = \dfrac{c}{c+\delta}$。どちらも年齢によらない。
- 年齢が消えるのは、死力が定数だと残りの寿命の分布がいつも同じ(無記憶性)だから。
- 死力が増加するなら $\bar{a}_x < \dfrac{1}{\mu_x+\delta}$。定数死力の答えがそのまま上界になる。
- どちらも積分の中の $\mu_{x+t}$ を $\mu_x$(または $c$)で置き換える一手で出る。
- 年金の積分に $\mu$ は付かない。保険の積分にだけ付く。