この記事で扱う証明

養老保険の一時払保険料を確率変数の平均と見たとき、その分散は

$$\sigma^2\!\left(\Aendow{x}{n}\right) = A^{[2]}_{x:\angl{n}} - \left(\Aendow{x}{n}\right)^2$$

ここで $A^{[2]}_{x:\angl{n}}$ は、定義式の $v$ を $v^2$ に置き換えた値です。

分散の定義 $\operatorname{Var}(Z) = E[Z^2] - (E[Z])^2$ そのままの形ですが、$E[Z^2]$ が「別の利率での保険料」になるところが要点です。

使う道具

まず、保険料を確率変数の平均として書き直します。

$x$ 歳の人が受け取る保険金の現価を $Z$ とします。$n$ 年満期の養老保険なら

$$Z = \begin{cases} v^{t} & (\text{第 } t \text{ 年度に死亡、} 1 \le t \le n) \\[4pt] v^{n} & (n \text{ 年後に生存}) \end{cases}$$

死亡の時期によって $Z$ の値が変わります。それぞれの確率は

$$P\!\left(Z = v^t\right) = \npx{t-1}{x}\,q_{x+t-1}, \qquad P\!\left(Z = v^n\right) = \npx{n}{x}$$

期待値をとると、養老保険の一時払保険料の定義式そのものです。

$$E[Z] = \sum_{t=1}^{n} v^t\,\npx{t-1}{x}\,q_{x+t-1} + v^n\,\npx{n}{x} = \Aendow{x}{n}$$

保険料は $Z$ の平均だ、というのがこの書き直しの中身です。

証明:2乗すると $v$ が $v^2$ になる

分散の定義から始めます。

$$\operatorname{Var}(Z) = E\!\left[Z^2\right] - \left(E[Z]\right)^2$$

第2項は $\left(\Aendow{x}{n}\right)^2$ なので、あとは $E[Z^2]$ を出すだけです。

$Z$ の値を2乗します。$Z$ が取りうる値は $v^t$ か $v^n$ で、2乗すれば $v^{2t}$ か $v^{2n}$。確率は変わりません。

$$E\!\left[Z^2\right] = \sum_{t=1}^{n} \left(v^t\right)^2 \npx{t-1}{x}\,q_{x+t-1} + \left(v^n\right)^2 \npx{n}{x}$$

$$= \sum_{t=1}^{n} \left(v^2\right)^t \npx{t-1}{x}\,q_{x+t-1} + \left(v^2\right)^n \npx{n}{x}$$

ここを見比べてください。$E[Z]$ の式と形がまったく同じで、$v$ が $v^2$ に置き換わっているだけです。これが $A^{[2]}_{x:\angl{n}}$ の定義でした。

$$E\!\left[Z^2\right] = A^{[2]}_{x:\angl{n}}$$

したがって

$$\sigma^2\!\left(\Aendow{x}{n}\right) = A^{[2]}_{x:\angl{n}} - \left(\Aendow{x}{n}\right)^2$$

証明はこれだけです。2乗しても確率の側は変わらず、割引率だけが2乗される。ここに気づくかどうかで終わります。

数値で確かめる

メーカムの法則で作った生命表($i = 3\%$、$x = 40$、$n = 20$)で計算します。

$\Aendow{40}{20}$ $0.5704510$
$A^{[2]}_{40:\angl{20}}$ $0.3291199$
$\left(\Aendow{40}{20}\right)^2$ $0.3254144$
分散 $0.0037055$
標準偏差 $0.0608729$

保険料 $0.5705$ に対して標準偏差は $0.0609$。変動係数は約 $10.7\%$ です。

$Z$ の実現値を40万回シミュレーションすると、平均 $0.5705$、分散 $0.00373$。理論値の $0.5705$、$0.00371$ とよく合います。

変動係数が小さいのはなぜか

養老保険は、死んでも生きても必ず1を受け取ります。違うのは受け取る時期だけなので、現価のばらつきは「いつ受け取るか」の差にとどまります。$v^{20} = 0.554$ から $v^1 = 0.971$ までの範囲です。

定期保険なら話が違います。死ななければ0円なので、$Z$ は0か $v^t$。0と正の値が混ざるぶん、ばらつきははるかに大きくなります。同じ生命表で比べます。

保険料 標準偏差 変動係数
養老保険 $0.570451$ $0.060873$ $10.7\%$
定期保険 $0.083041$ $0.228816$ $275.5\%$

定期保険は標準偏差が保険料の2.8倍もあります。20年のうちに死ぬ人が少数なので、ほとんどの契約で $Z = 0$、まれに大きな値が出るという分布になるからです。同じ生命表・同じ期間でも、給付の設計だけでばらつきがこれだけ変わります。

分散が要るのはどういうときか

一時払保険料は平均値なので、契約が1件だけなら「平均どおりになる」保証はどこにもありません。分散はその不確かさを測ります。

契約が $N$ 件あって互いに独立なら、1件あたりの平均のばらつきは $\dfrac{\sigma}{\sqrt{N}}$ に縮みます。$N = 10{,}000$ なら標準偏差は $\dfrac{0.0609}{100} = 0.000609$。保険料 $0.5705$ に対して $0.1\%$ ほどです。

大数の法則が効くから保険が成り立つ、という話を数字で押さえられます。逆に、契約数が少ない種目や、巨大リスクを扱う種目では分散が効いてくる、という見方にも繋がります。

つまずきポイント

$A^{[2]}$ を保険料の2乗と読まない。 $A^{[2]}_{x:\angl{n}} = 0.3291$ で、$\left(\Aendow{x}{n}\right)^2 = 0.3254$。近い値ですが別物です。分散はこの2つの差なので、混同すると分散が0になってしまいます。角括弧付きの上付きは「$v$ を $v^2$ に置き換えた」という印です。

$v^2$ を「利率が2倍」と読まない。 $v^2 = \dfrac{1}{(1+i)^2}$ なので、対応する利率は $2i$ ではなく $(1+i)^2 - 1 = 2i + i^2$ です。$i = 3\%$ なら $6.09\%$。細かい差ですが、計算問題では効きます。

分散の順序を逆にする。 $\operatorname{Var} = E[Z^2] - (E[Z])^2$ であって、$(E[Z])^2 - E[Z^2]$ ではありません。イェンセンの不等式から $E[Z^2] \ge (E[Z])^2$ なので、正しい順序なら必ず0以上になります。負が出たら順序を逆にしています。

死亡時期の確率を取り違える。第 $t$ 年度に死亡する確率は $\npx{t-1}{x}\,q_{x+t-1}$ です。$q_{x+t}$ でも $\npx{t}{x}\,q_{x+t}$ でもありません。「$t-1$ 年生きて、その次の1年で死ぬ」と読んでください。

本試験ではこう問われる

保険料を確率変数として扱う問題は、タクティクス 生保数理の第3章「確率論的表示系」に5問が置かれています。分散を求めさせるもの、ある水準を超える確率を求めさせるものが中心です。

平成12年度以降の生保数理では、大小関係を選ばせる形式が26年度中7年度(2009・2011・2014・2018・2020・2023・2025年度)に出ており、そこで $A^{[2]}$ と $A^2$ の大小が問われることがあります。$E[Z^2] \ge (E[Z])^2$ から $A^{[2]} \ge A^2$ が常に成り立つ、というのが根拠です。

分散を使う場面は損保数理とも繋がります。損保数理の第2章ではクレーム総額の分散を扱いますが、そちらは件数と金額の両方が動くぶん項が増えます。生保数理の一時払保険料は「金額は必ず1、時期だけが動く」という単純な形なので、分散の考え方を身につける入口として適しています。

まとめ

  • 一時払保険料は、保険金の現価という確率変数 $Z$ の平均値。契約1件では平均どおりにならない。
  • $Z$ を2乗すると確率の側は変わらず、$v$ だけが $v^2$ になる。だから $E[Z^2] = A^{[2]}$。
  • 分散は $A^{[2]} - A^2$。数値例では $0.3291 - 0.3254 = 0.0037$、標準偏差 $0.0609$。
  • 養老保険は必ず1を受け取るので変動係数は約11%と小さい。定期保険は0と正が混ざるぶん大きい。
  • 契約 $N$ 件なら1件あたりのばらつきは $1/\sqrt{N}$ に縮む。大数の法則が効く仕組み。