この記事で扱う証明

保険金が変動する保険を、既知の形に落とす式を2つ示します。教科書 第4章 練習問題(3)の(4)(5)です。

証明1(4)— 第 $t$ 年度($1 \le t \le n$)の死亡に保険金 $(1+r)^t$ を年度末に払い、$n$ 年後の生存に $(1+r)^n$ を払う $n$ 年満期の保険の一時払保険料は、利率を

$$j = \frac{i - r}{1 + r}$$

として計算した養老保険の一時払保険料 $A^{[j]}_{x:\angl{n}}$ に等しい。

証明2(5)— 第 $t$ 年度の死亡に保険金 $\aann{t}$ を年度末に払い、$n$ 年後の生存に $\aann{n}$ を払う保険の一時払保険料は

$$\frac{1}{d}\left(\Aendow{x}{n} - A^{[2]}_{x:\angl{n}}\right)$$

ここで $A^{[2]}$ は、定義式の $v$ を $v^2$ に置き換えた値です。

どちらも、保険金と割引率を1つにまとめて既知の形を探す、という同じ動きをします。

使う道具

養老保険の一時払保険料を、定義の和で書いておきます。

$$\Aendow{x}{n} = \sum_{t=1}^{n} v^t\,\npx{t-1}{x}\,q_{x+t-1} + v^n\,\npx{n}{x}$$

前半が「$t$ 年目に死んだら年度末に1」、後半が「$n$ 年生きたら1」です。

保険金が $B_t$ に変わるだけなら、$v^t$ の前に $B_t$ が付くだけです。

$$\sum_{t=1}^{n} B_t\,v^t\,\npx{t-1}{x}\,q_{x+t-1} + B_n\,v^n\,\npx{n}{x}$$

証明1では $B_t = (1+r)^t$、証明2では $B_t = \aann{t}$ です。

確定年金現価の式も使います。

$$\aann{t} = \frac{1 - v^t}{d}$$

証明1:$B_t\,v^t$ を1つの割引率にまとめる

$B_t = (1+r)^t$ を入れます。

$$B_t\,v^t = (1+r)^t\,v^t = \left(\frac{1+r}{1+i}\right)^t$$

括弧の中を新しい割引率と見ます。これが $\dfrac{1}{1+j}$ になるような $j$ を探します。

$$\frac{1}{1+j} = \frac{1+r}{1+i} \quad\Longrightarrow\quad 1 + j = \frac{1+i}{1+r} \quad\Longrightarrow\quad j = \frac{1+i}{1+r} - 1 = \frac{i - r}{1+r}$$

問題文の $j$ が出ました。$v_j = \dfrac{1}{1+j} = \dfrac{1+r}{1+i}$ と書けば

$$\sum_{t=1}^{n} v_j^{\,t}\,\npx{t-1}{x}\,q_{x+t-1} + v_j^{\,n}\,\npx{n}{x} = A^{[j]}_{x:\angl{n}}$$

生存保険の側も同じです。$B_n v^n = (1+r)^n v^n = v_j^{\,n}$ なので、保険金が変動しない普通の養老保険の式になります。

メーカムの法則で作った生命表($i = 3\%$、$x = 40$、$n = 20$)で、$r = 2\%$ とすると $j = 0.98039\%$。定義どおりに足し上げた値と、$j$ で計算した養老保険の値がどちらも $0.8300292$ で一致します。

意味を読む

$j = \dfrac{i-r}{1+r}$ は「実質利率」の形です。名目の利率が $i$ で、保険金が $r$ の率で膨らむなら、正味の割引の効きは $j$ まで落ちる。インフレ調整と同じ計算です。

$r = i$ なら $j = 0$ になります。保険金の増え方が利率とちょうど同じなら割引が完全に打ち消され、保険料は「いつか必ず1をもらう」ことになるので $A^{[0]}_{x:\angl{n}} = 1$ です。極端な場合で式の妥当性を確かめられます。

証明2:保険金の中の $v^t$ を第2の保険として拾う

$B_t = \aann{t} = \dfrac{1 - v^t}{d}$ を入れます。

$$B_t\,v^t = \frac{1 - v^t}{d}\,v^t = \frac{v^t - v^{2t}}{d}$$

$v^t$ の項と $v^{2t}$ の項に分かれました。$\dfrac{1}{d}$ は定数なので外に出します。

$$\frac{1}{d}\left[\sum_{t=1}^{n}\left(v^t - v^{2t}\right)\npx{t-1}{x}\,q_{x+t-1} + \left(v^n - v^{2n}\right)\npx{n}{x}\right]$$

$v^t$ を集めた側は養老保険 $\Aendow{x}{n}$ そのものです。$v^{2t}$ を集めた側は、定義式の $v$ を $v^2$ に置き換えたものになっています。

$$= \frac{1}{d}\left(\Aendow{x}{n} - A^{[2]}_{x:\angl{n}}\right)$$

同じ生命表で、左辺を定義どおり足し上げると $8.2857027$、右辺も $8.2857027$ です($\Aendow{40}{20} = 0.5704510$、$A^{[2]} = 0.3291199$)。

$v^2$ を使う保険とは何か

$v^2 = \dfrac{1}{(1+i)^2}$ なので、$A^{[2]}$ は「利率が $(1+i)^2 - 1$、つまり $2i + i^2$ の世界での養老保険」です。$i = 3\%$ なら $6.09\%$。利率が高いぶん、保険料は小さくなります。$0.5705$ に対して $0.3291$ です。

この $A^{[2]}$ は、保険料の分散を計算するときにも出てきます。保険金の現価という確率変数の2次モーメントが、ちょうど $v$ を $v^2$ に置き換えた形になるからです。同じ道具が、変動保険と分散の両方で使われます。

2つに共通する一手

証明 $B_t\,v^t$ をどう見たか
1 $(1+r)^t v^t = v_j^{\,t}$。1つの割引率にまとめる
2 $\dfrac{v^t - v^{2t}}{d}$。2つの保険の差に割る

保険金と割引率を掛けたものを、まとめて眺めるのが一手です。まとまれば利率の付け替え、分かれれば保険の差。どちらに転ぶかは $B_t$ の形で決まります。

$B_t$ が等比なら証明1の型、$B_t$ が $\dfrac{1 - v^t}{d}$ のように $v^t$ を含む形なら証明2の型、と見当をつけられます。

つまずきポイント

$j$ の符号と大小。 $j = \dfrac{i-r}{1+r}$ なので、$r > i$ なら $j$ は負になります。保険金の増え方が利率を上回る場合で、式としては成り立ちますが、負の利率で計算することになります。$r < i$ を前提にしている問題文かどうかを確認してください。

生存保険の側を忘れる。証明1では、死亡保険金だけでなく満期保険金にも $(1+r)^n$ が付いています。ここを1のままにすると養老保険の形になりません。保険金の増加が満期にも及ぶという設定だからこそ、きれいに落ちます。

$A^{[2]}$ を「保険料の2乗」と読まない。 $A^{[2]}_{x:\angl{n}}$ は $\left(\Aendow{x}{n}\right)^2$ ではありません。定義式の $v$ を $v^2$ に置き換えた別の量です。数値でも $0.3291$ と $0.5705^2 = 0.3254$ で違います。角括弧付きの上付きは「利率を2乗の世界に移した」という印だと覚えてください。

$\aann{t}$ の期数。証明2の保険金は $\aann{t}$、つまり $t$ 年分の期始払確定年金現価です。$t$ 年目に死んだ人が受け取る額が、それまでの年数に応じて増えていく設計になっています。$\aann{t} = 1 + v + \cdots + v^{t-1}$ で、$t=1$ なら1です。

本試験ではこう問われる

保険金が変動する商品は、そのまま計算させる形で出ます。証明ではなく、設定を読んで式を立てられるかが問われます。

タクティクス 生保数理の第3章「合成・還付・特殊・変形系」には10問が並んでいます。H28年度の「年払純保険料」が目標解答時間4分。既存の商品を組み合わせたり、保険金を変動させたりする設定です。

同じ第3章の「累加・累減系」には7問があり、保険金が $1, 2, 3, \dots$ と増える累加保険を扱います。証明1の型(等比で増える)とは違い、そちらは $(IA)_x = \dfrac{R_x}{D_x}$ のように専用の基数を使います。等比なら利率の付け替え、等差なら累加の基数、という使い分けになります。

利率の付け替えという発想は、タクティクスの「計算基礎の変更」(教科書 第6章)にも繋がります。予定利率を変えたときに保険料がどう動くかを問う出題で、平成12年度以降の生保数理では「予定利率」の語が26年度中の多くの年度に登場します。

まとめ

  • 保険金が変動する保険は、$B_t\,v^t$ をまとめて眺めるところから始める。
  • 保険金が $(1+r)^t$ なら、$j = \dfrac{i-r}{1+r}$ の養老保険と同じ。実質利率への付け替え。
  • $r = i$ なら $j = 0$ で保険料は1。極端な場合で式を検算できる。
  • 保険金が $\aann{t}$ なら、$v$ の保険と $v^2$ の保険の差を $d$ で割った形になる。
  • $A^{[2]}$ は保険料の2乗ではなく、$v$ を $v^2$ に置き換えた別の量。分散の計算でも同じものが出る。