指定教材は2点、どちらも無料
まず、買わなくてよいものを確認します。資格試験要領で損保数理の教科書として指定されているのは次の2点です(受験前に最新の要領で確認してください)。
| 教材 | 発行 | 入手 |
|---|---|---|
| 損保数理(平成23年2月改訂版) | 日本アクチュアリー会 | サイトから無料ダウンロード |
| モデリング(第1章のみ) | 日本アクチュアリー会 | サイトから無料ダウンロード |
第1次試験の指定教科書はアクチュアリー会が無料で公開しているので、損保数理は指定教材の費用がゼロで済みます。数学が市販の演習書(国沢の2冊)を買う必要があるのと対照的です。過去問もサイトで公開されているので、理屈のうえでは無料で受験準備ができる科目です。
モデリング第1章(回帰分析)は見落とされがちですが、指定教材の一部です。第4章のクラス料率・一般化線形モデルと地続きの内容なので、第4章を学ぶ時期に合わせて読むのが自然です。
それでも体験談の7/8が市販書を使っていた
体験談分析の記事で集計した8件の内訳を再掲します。
| 教材 | 言及があった件数 |
|---|---|
| 過去問 | 8/8 |
| 指定教科書 | 7/8 |
| 合格へのストラテジー 損保数理 | 7/8 |
| 受験研究会の勉強会・質問 | 6/8 |
指定教科書と市販の対策書が、ほぼ同じ7/8で並んでいます。無料の教材が揃っているのに、市販書の名前もほぼ同じだけ挙がる。この事実の意味を考えるのが、この記事の主題です(言及があったことと購入したことは同じではありませんが、体験談の中では実際に使った教材として語られています)。
なお生保数理では指定教科書が7/7で全員でした。損保で7/8とわずかに下がるのは、教科書の性格の違いを反映しています。
指定教科書の性格 — 読み物ではなく、定義の出どころ
指定教科書『損保数理』は、実務家向けに書かれた本です。教科書の使い方の記事で詳しく扱いましたが、要点はこうです。
- 用語と定義を確かめる中心教材。試験の言葉の多くはここで定まる(回帰分析はモデリング第1章も指定教材)
- 一方で、初学者に手順を教える構成ではない。式の導出が簡潔で、例題も多くない
- 章によって密度の差が大きい
つまり、この本は「引く本」であって「読み進める本」ではありません。定義があいまいになったとき、記号の意味を確かめたいとき、範囲の境界を知りたいときに開く。それが正しい使い方です。
市販書に払っているのは「量」と「順序」
では、体験談で市販書の名前が挙がるのはなぜか。理由は2つに集約できます。
1つ目は演習量です。指定教科書の練習問題だけでは、本試験の計算量に体を慣らすには足りません。損保数理は体験談で計算力・計算量への言及が8件中5件と、3科目で突出している科目です。数学の1/9、生保数理の2/7と比べれば、この科目で問われているものがはっきりします。手を動かした量がそのまま得点になる以上、問題数を確保できる教材が要ります。
2つ目は順序です。指定教科書は10章を分野ごとに並べていますが、どの順で、どこまでの深さで仕上げるかは書いていません。市販の対策書は、過去問の出題実績から逆算して問題を並べ、目標解答時間を付けています。この「並び順と時間の基準」が、独学では自前で作りにくい部分です。
教材ごとの役割分担
以上をまとめると、次の分担になります。
| 目的 | 使う教材 |
|---|---|
| 用語・定義・記号の確認 | 指定教科書『損保数理』(無料) |
| 回帰分析の基礎 | モデリング第1章(無料) |
| 出題の実物を知る | 過去問(無料) |
| 演習量の確保と時間感覚 | 市販の対策書 |
| 詰まったときの相談 | 受験研究会の勉強会(6/8が言及) |
無料の3点で骨格を作り、足りない「量」と「時間の基準」を市販書で補い、それでも詰まったら人に聞く。収集した体験談8件で語られていたのは、おおむねこの形でした(受験者全体の利用率を示すものではありません)。
買う順序で迷ったら
まず無料の3点をダウンロードして、過去問を1年度分だけ解いてみることを勧めます。教科書を読み込む前です。
理由は、損保数理の難所が人によって違うからです。第1章の用語で詰まる人、第2章の積分計算で詰まる人、第8章の破産確率で詰まる人。1年度分を解けば、自分がどこで止まるかが分かります。その後で、止まった原因が「知らない」なら教科書、「知っているが解けない」なら演習量、と処方を分けられます。
いきなり教材を買い揃えると、この診断の機会を失います。無料で診断できる科目である、というのが損保数理の恵まれた点です。
まとめ
- 損保数理の指定教材は『損保数理』とモデリング第1章。どちらもアクチュアリー会のサイトで無料。過去問も無料。
- それでも体験談8件のうち7件で市販の対策書の名前が挙がる。指定教科書も7/8で、両方を併用する形が多い。
- 指定教科書は「引く本」。用語・定義・記号を確かめる中心教材だが、手順を教える構成ではない。
- 市販書に払っているのは演習量と、並び順・目標時間という基準。計算力への言及が3科目で突出(5/8)する科目だから効く。
- まず無料の3点で過去問を1年度分解き、自分がどこで止まるかを診断してから買うものを決める。