その名前をどこで見るか
極値分布の3つの型として出てきます。損保数理の第10章、リスク評価の数理です。
$n$ 個の独立同分布な確率変数の最大値 $M_n = \max(X_1, \dots, X_n)$ を、適当に標準化して $n \to \infty$ とする。このとき、1点に潰れない極限分布が存在するならば、それは次の3種類のいずれかに限られます。
| 型 | 分布関数の形 | 元の分布の裾 |
|---|---|---|
| グンベル型 | $\exp(-e^{-x})$ | 裾が上に有界でなく、べき乗より速く減る(指数・正規・対数正規) |
| フレシェ型 | $\exp(-x^{-\alpha})$($x>0$) | べき乗で減る(パレートなど。裾が重い) |
| ワイブル型 | $\exp(-(-x)^{\alpha})$($x<0$) | 上限がある(一様分布など) |
タクティクスの問題文にある $F_{Z_n}(x) = \exp(-(-x)^{\alpha})$($x < 0$)はワイブル型そのものです。定義域が負の側にあることが目印になります。
3つを1つの式にまとめた一般化極値分布(GEV)という書き方もあり、形状パラメータの符号で3型が切り替わります。
「3種類しかない」ことの意味
この主張の強さは、中心極限定理と並べると分かります。
中心極限定理は、和の極限が(分散が有限なら)必ず正規分布になると言います。元の分布が何であれ、行き先はひとつです。
極値の場合、行き先は3つあります。しかし逆に言えば、無数にある分布の最大値の振る舞いが、たった3種類に収まる。しかもどの型になるかは、元の分布の裾の減り方で決まります。個々の分布の細かい形は、最大値の極限には残らないのです(極限が存在しない分布もありますが、実務で使う分布の多くはこの3型のいずれかに属します)。
これを示したのがフィッシャー=ティペットの定理(1928年)です。ロナルド・フィッシャーとレナード・ティペットが最大値の極限分布の型を分類し、後にグネデンコが厳密な形で証明しました。極値理論の基本定理と呼ばれます。
3人はどんな人だったか
エミール・グンベル(Emil Gumbel)は20世紀ドイツの数学者・統計学者です。極値統計の体系化で知られ、洪水や地震の解析に応用しました。ナチス政権下で反戦・反ナチの立場を貫いて職を追われ、フランスを経てアメリカへ亡命した人物でもあります。統計学の教科書に載る名前のなかでは、政治的な行動でも記憶されている珍しい例です。
モーリス・フレシェ(Maurice Fréchet)は20世紀フランスの数学者です。極値分布より、距離空間や関数解析の基礎を築いた業績のほうが数学史では有名でしょう。フレシェ微分、フレシェ空間といった用語に名前が残っています。
ワロディ・ワイブル(Waloddi Weibull)はスウェーデンの技術者です。材料の強度——鎖はいちばん弱い輪で切れる、という最小値の問題——を扱うためにこの分布を使い、信頼性工学の分野に定着させました。
数学者・統計学者・技術者が、それぞれ別の動機で同じ理論の一部に到達している。極値理論はそういう分野です。
なぜその概念が必要になったか
保険会社にとって、平均的な損害は保険料の計算で処理できます。問題は、滅多に起きない巨大損害です。
過去100年で最大の地震損害を上回る損害が起きる確率は、どう見積もればよいか。データには「まだ起きていない規模」の情報がありません。分布全体を推定して外挿しても、裾の推定精度は低いままです。
極値理論は、この問いに専用の道具を与えます。全体の分布ではなく、最大値の振る舞いだけを直接モデル化する。データのなかの極端な値だけを使って、3型のどれに当てはまるかを見極め、そのパラメータを推定する。裾の外側を語るために、裾の情報だけを使うという発想です。
損保数理の第10章がこの理論を扱うのは、巨大災害のリスク評価が実務上の課題だからです。VaRやTVaRといったリスク尺度と並んで置かれているのも、同じ理由です。
試験ではこう出る
過去問26年度分のうち、グンベルの名前が出るのは2年度。多くはありませんが、第10章の枠から何かが出る年度は多いので、論点ランキングの記事で書いたとおり、この章はまとめて一度学ぶのが効率的です。
- 与えられた分布関数がどの型かを判別させる形
- 最大値を標準化したときの極限分布を求めさせる形
- 元の分布(パレート・指数・一様)と極値の型の対応を問う形
判別の手がかりは定義域と指数の形です。$x < 0$ ならワイブル型、$\exp(-x^{-\alpha})$ の形ならフレシェ型、$\exp(-e^{-x})$ ならグンベル型。この対応さえ持っていれば、その場で式を導かなくても答えられます。
なお、グンベルの名前はコピュラの文脈でも出てきます。グンベル・コピュラのケンドールの $\tau$ は $1 - 1/\alpha$ です。順位相関の記事で扱った関係のひとつで、極値分布のグンベルと同じ人に由来します。裾で強く連動する構造を表すコピュラなので、極値理論とのつながりも自然です。
まとめ
- 最大値を標準化したときの極限分布が存在するなら、グンベル型・フレシェ型・ワイブル型の3種類しかない。これがフィッシャー=ティペットの定理。
- どの型になるかは、元の分布の裾の減り方で決まる。指数的ならグンベル、べき乗ならフレシェ、上限があればワイブル。
- グンベルはドイツの統計学者(極値統計の体系化)、フレシェはフランスの数学者(関数解析でも著名)、ワイブルはスウェーデンの技術者(材料強度から)。
- 巨大損害のように「まだ起きていない規模」を扱うため、分布全体ではなく裾だけをモデル化する道具。
- 判別は定義域と指数の形で。$x<0$ ならワイブル、$\exp(-x^{-\alpha})$ ならフレシェ、$\exp(-e^{-x})$ ならグンベル。