この科目は何を問う試験か
数学は、第1次試験の5科目のうち最も土台にあたる科目です。保険や年金に固有の知識は出てきません。出るのは確率・統計・モデリングの3分野で、いずれも大学の教養課程から専門課程の入口までの内容です。
裏を返すと、他の科目と違って「業務知識で補う」ことができません。確率分布の性質を知っているか、推定と検定の手順を追えるか、時系列や確率過程のモデルを立てられるか。それだけを問われます。だからこそ範囲がはっきりしていて、範囲外を切り落とす効果も大きい科目です。
出題範囲の地図
資格試験要領 別紙(1) の教科書欄には、5冊が並んでいます。
| 教材 | 出版 | 分野 | 範囲の注記 |
|---|---|---|---|
| 入門数理統計学(ホーエル) | 培風館 | 確率 | 第12章・第13章を除く |
| 確率統計演習1 確率 | 国沢清典編・培風館 | 確率 | なし |
| 基礎統計学(1)/統計学入門 | 東京大学出版会 | 統計 | なし |
| 確率統計演習2 統計 | 国沢清典編・培風館 | 統計 | なし |
| モデリング | 日本アクチュアリー会(無料公開) | モデリング | 目次で(試験範囲外)とした部分と第5章を除く |
このほか、参考書として確率・統計・モデリング問題集(日本アクチュアリー会・無料公開)が挙げられています。
5冊のうち、入門数理統計学と統計学入門は理論の教科書、国沢の2冊は演習書です。演習の主軸になるのは国沢2冊とモデリングの3冊で、合格へのタクティクスも「特に重要と考えている3冊」として、この3冊の購入を指定しています。以下の章別の表も、この3冊を中心に見ていきます。
確率編 — 全7章が範囲内
| 章 | 内容 | 扱い |
|---|---|---|
| 1 | 事象と確率 | 範囲内 |
| 2 | 確率変数と分布 | 範囲内 |
| 3 | 平均値、分散 | 範囲内 |
| 4 | 変数変換と和の分布 | 範囲内 |
| 5 | 積率と積率母関数 | 範囲内 |
| 6 | 大数の法則と中心極限定理 | 範囲内 |
| 7 | 大数の強法則 | 範囲内 |
削れるところがありません。3冊のうち最も薄いのに、全部が範囲内です。分量あたりの密度が高い1冊だと考えてください。
統計編 — 最終章は事実上外してよい
| 章 | 内容 | 扱い |
|---|---|---|
| 1 | データのまとめ方 | 範囲内 |
| 2 | 統計的推定 | 範囲内 |
| 3 | 区間推定法 | 範囲内 |
| 4 | 統計的検定 | 範囲内 |
| 5 | 標本分布論と標本調査 | 範囲内 |
| 6 | 分散分析 | 範囲内 |
| 7 | 相関関係と回帰分析 | 範囲内 |
| 8 | 管理図、簡易解析法 | 事実上対象外(下記) |
第8章は品質管理の手法をまとめた章です。要領に明示の除外注記はありませんが、要領の「試験内容」欄(統計は、データのまとめ方/統計的推定・区間推定/統計的検定/標本分布論と標本調査/最小2乗法と相関係数・回帰係数の推定・検定)に管理図に対応する項目がなく、手元で集計した26年度分の過去問にも管理図の出題は1度もありません。優先度は最低でよい章です。
理論書2冊 — ホーエルは第12章・第13章が範囲外
入門数理統計学(ホーエル)は、要領で第12章・第13章を除くと明示されています。統計学入門(東京大学出版会)には範囲の注記がありません。この2冊は通読必須の演習書というより、国沢の簡素な解説で詰まったときに理論を確かめる参照先です。ただしホーエルは、統計の大問の種本になった実例がある教科書なので、範囲内の章は目を通せる状態にしておくと安心です。
モデリング — 第5章まるごとと、目次で印の付いた節
ここがいちばん効きます。資格試験要領 別紙(1) には、次のように書かれています。
モデリング(日本アクチュアリー会)同書の目次で(試験範囲外)とした部分および第5章を除く。
つまり2段構えで外れます。
| 章 | 内容 | 扱い |
|---|---|---|
| 1 | 回帰分析(1.1〜1.9) | 範囲内 |
| 2 | 時系列解析(2.1〜2.5) | 範囲内 |
| 3 | 確率過程(3.1〜3.8) | 3.5 金融工学への適用が範囲外 |
| 4 | シミュレーション(4.1〜4.5) | 4.3 検定・4.4 一様乱数の生成が範囲外 |
| 5 | 線形計画法(5.1〜5.8) | 章まるごと範囲外 |
第5章は8節あり、モデリングの5分の1近くを占めます。ここを丸ごと落とせるのは大きい。加えて第3章と第4章から3節が外れます。
教科書の目次には(試験範囲外)と印字されているので、手元のPDFで確認できます。モデリングはアクチュアリー会が無料で公開しているので、まず目次のページだけ開いて印の位置を確かめるところから始めるのが確実です。
配点構成と時間配分
試験時間は180分、100点満点です。第1次試験はCBT方式で行われます。
2023〜2025年度の問題構成を並べます。
| 年度 | 問題1 | 問題2 | 問題3 | 問題4 | 問題5 | 問題6 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2025年度 | 20点(小問4) | 20点(小問4) | 10点(小問2) | 15点 | 17点 | 18点 |
| 2024年度 | 20点(小問4) | 20点(小問4) | 15点(小問3) | 12点 | 16点 | 17点 |
| 2023年度 | 25点(小問5) | 30点(小問6) | 15点 | 15点 | 15点 | — |
前半の問題1・問題2が1問5点の小問集合、後半が大問という構成です。問題1・問題2だけで40点から55点を占め、年度によっては問題3も小問形式になります。
ここから時間配分が決まります。小問1問あたりに使える時間は、単純計算で180分を配点で割ると1点あたり1.8分。5点の小問なら9分ですが、大問に時間を残す必要があるので、実際には小問を7分前後で回して余りを大問に送るのが現実的です。合格へのタクティクスが各問に付けている目標解答時間が7分中心なのは、この配分に合わせてあります。
小問集合の中でも難易度には幅があります。全部を順番に解こうとせず、手が止まったら飛ばして戻る。CBTは画面上で問題を行き来できるので、紙の試験より飛ばし読みがしやすくなっています。
学習の順序
3分野は、確率 → 統計 → モデリングの順に進めるのが素直です。理由は依存関係にあります。
統計は確率の上に建っています。推定量の分布を導くときに積率母関数や変数変換を使いますし、区間推定は正規分布・カイ2乗分布・t分布・F分布の関係が前提です。これらはすべて確率編の内容です。確率を飛ばして統計から入ると、道具を借りに戻る回数が増えます。
モデリングは、回帰分析が統計編の第7章と重なり、時系列解析と確率過程は確率編の道具をそのまま使います。3分野の中でいちばん後ろに置くのが自然です。
そのうえで、範囲外を切る作業は最初にやっておくことを勧めます。ホーエルの第12章・第13章、モデリング第5章、そして事実上対象外の統計編第8章に付箋を貼って閉じてしまう。学習が進んでから「ここは範囲外でした」と気づくのは、時間の損失としては小さくありません。
分野内の順序としては、確率編は第1章から順に読めます。統計編は第1章から第4章までが本体で、第5章以降は応用です。モデリングは第1章の回帰分析が統計編と重なるので、統計を終えてから入ると速く進みます。
2027年度以降の範囲について
数学の範囲は、2027年度から変わります。日本アクチュアリー会が公表した資格試験・研修制度の見直しにより、「数学」は確率統計のみに範囲が縮小され、モデリングは「専門数理2」へ移ります。
このため、2026年度に数学を受ける場合はモデリングを含む現行の範囲で準備することになります。一方で、これから第1次試験を始める人にとっては、数学は制度改定の影響がいちばん小さい科目です。確率統計の部分は改定後も残るので、ここから着手するのが安全という判断ができます。
まとめ
- 要領の教科書は5冊(理論2冊・演習2冊・モデリング)。演習の主軸は国沢2冊+モデリングの3冊。
- 要領で明示的に範囲外なのは、ホーエルの第12章・第13章と、モデリングの第5章+目次で印の付いた節(3.5、4.3、4.4)。
- 統計演習の第8章(管理図)は明示の除外注記こそないが、要領の内容欄に対応項目がなく、26年度分の過去問でも出題ゼロ。優先度は最低でよい。
- 180分・100点。問題1・2の小問集合で40点から55点を占め、1問7分前後で回すのが目安。
- 学習は確率 → 統計 → モデリングの順。統計とモデリングは確率の道具の上に建っている。
- 2027年度から数学は確率統計のみに縮小され、モデリングは専門数理2へ移る。