どんな本か
『もう一度高校数学』(高橋一雄、日本実業出版社、2009)は、高校数学を1冊で通し直すための本です。社会人が学び直す場面を想定した構成になっています。刊行が2009年なので、扱っている課程は当時の学習指導要領に基づくものです。
タクティクス数学の巻末参考文献に書誌が載っています。本文からの参照は0か所で、おすすめ図書欄にも入っていません。
参照がないことは、そのまま書いておきます。タクティクスは試験の問題を解くための本なので、高校範囲そのものを扱う場面がほとんどありません。本文から呼ばれないのは、そういう構造の反映です。
実際に効いてくる単元
確率・統計の学習で高校数学の抜けが表面化するのは、決まった場所です。
数列。等比級数の和は、幾何分布の期待値や確定年金の現価を求めるときに使います。$\sum_{k=1}^{n} kr^{k}$ のような、等差と等比が混ざった和の処理も出てきます。シグマの添字を動かして差を取る、という操作に慣れていないと、期待値の計算が最後まで進みません。
微分積分。密度関数を持つ連続型分布を扱う限り、期待値も分散も積率母関数も、定義に沿って計算すれば中身は積分です。部分積分、置換積分、そして無限区間の積分。指数関数を含む積分が反射的に処理できるかどうかが、解答時間に直結します。
指数・対数。最尤法では対数尤度を微分します。$\log$ の性質——積を和に、べきを積に——が身についていないと、式変形の途中で止まります。真数が正でなければ対数が定義できないので、尤度が0になる範囲を場合分けから外す、といった扱いもここに含まれます。
場合の数。離散型分布の確率を求める場面は、結局のところ数え上げです。組合せの考え方が曖昧だと、確率関数を立てるところで詰まります。
この本を先にやるべきか
判断は、今どこで止まっているかで決まります。
確率の問題の解答を読んでいて、「なぜこの式変形ができるのか」で引っかかるなら、土台の問題です。その場合、確率の問題集を繰り返しても効率が上がりません。式変形の手が動かない原因は確率にないからです。
逆に、式変形は追えるが確率特有の考え方(条件付き確率、独立性、変数変換)でつまずくなら、この本の出番ではありません。確率の教材を続けるほうが早くなります。
見分け方としては、指定演習書の解答を1つ選んで、行間を全部説明できるか試してみるとよいでしょう。説明できない行が「なぜ積分がこうなるのか」なら土台側、「なぜこの確率をこう置くのか」なら確率側です。
単元を絞って使う
高校数学を広く扱う本なので、通読すると時間がかかります。
試験に効くのは、数列・微分積分・指数対数・場合の数です。図形と方程式やベクトルは、確率・統計の文脈で出番が多くありません。必要な単元だけを開く、という使い方が現実的でしょう。
複素数平面まで戻す必要が出てきたら、『初めから始める数学III Part1』がタクティクスの複素数の付録から名指しされています。そちらは特性関数の証明を読むための用途です。
大学範囲の微積分まで持ち上げるなら、『1冊でマスター 大学の微分積分』がタクティクス本文からも参照されています。高校範囲を戻したあとの接続先として使えます。
遠回りに見えて近道になる場合
土台の抜けを飛ばして進むと、同じ場所で何度も止まります。そのたびに調べ直す時間が積み上がり、結局は戻ったほうが速かった、という結果になりがちです。
一方で、必要のない復習に時間を使うのも損失です。試験範囲は確率・統計・モデリングと広く、統計側にも手を入れる必要があります。
だから、戻るかどうかは早めに判断しておくのがよいと考えています。学習を始めて最初の1か月で、指定演習書の解答が読めるかどうかを確かめる。読めないなら戻る。読めるなら進む。判断を先送りするのが、いちばん時間を失います。
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まとめ
- 高橋一雄『もう一度高校数学』(日本実業出版社、2009)。高校数学を1冊で通し直す本。
- タクティクス本文からの参照は0か所。巻末参考文献に書誌が載っているだけ。試験の問題集が高校範囲そのものを扱わないため。
- 効いてくるのは数列・微分積分・指数対数・場合の数。図形やベクトルは確率・統計の文脈でほぼ使わない。
- 使うかどうかは、指定演習書の解答で止まる原因が「式変形」か「確率の考え方」かで判断する。
- 戻るかどうかの判断は早めに。先送りがいちばん時間を失う。