どんな本か
『リスクを知るための確率・統計入門』(岩沢宏和、東京図書、2012)は、確率・統計を保険や金融のリスクという文脈から解説した入門書です。
タクティクスの「おすすめ図書」欄では、弱点克服に続く2冊目として挙げられ、次のように紹介されています。
藤田先生とは違う切り口ながら、アクチュアリー試験で問われる確率・統計について、わかりやすく解説されている名著です。特に統計の解説は非常にわかりやすく、統計学の基礎を理解することができます。
「藤田先生とは違う切り口」「特に統計の解説」という2つの言葉が、この本の位置づけを示しています。
本文からの参照は5か所
推薦欄で名前が挙がるだけの本も多いなかで、この本はタクティクス本文からも参照されています。上下巻を通して5か所です。
| 参照箇所 | 内容 |
|---|---|
| 上巻 順序統計量の章 | 「順序統計量を解説している参考書は少なく、第3章に解説があるので参考するとよいでしょう」 |
| 下巻 順序統計量の章 | 同上(上下巻に同じ記述) |
| 上巻 連続型分布・一様分布 | p.137「複数の確率変数の関数の分布」で本解答の公式が示されている |
| 下巻 過去問類題(信頼区間) | p.197 の3ステップに沿って信頼区間を構成 |
| 下巻 統計総合の章 | 「統計の問題を解く上で重要な知識を多く学べるので、参考に一読することをお勧めする」 |
順序統計量が2回、統計側(信頼区間・統計総合・一様分布の変数変換)が3回。確率の基本論点ではなく、解説の手薄な領域で名指しされているのが特徴です。
順序統計量:解説書が少ない、と本文が認めている
いちばん強い参照は、順序統計量の章のものです。
順序統計量を解説している参考書は少なく、第3章に解説があるので参考するとよいでしょう。
「参考書は少なく」という一言が入っているのが目を引きます。タクティクスの本文が、他書の不足を明示したうえで特定の本を挙げている箇所は多くありません。
順序統計量は、$n$ 個の観測値を小さい順に並べ替えたときの $k$ 番目の値の分布を扱う分野です。最大値・最小値の分布、区間の長さの分布などがここに含まれます。試験では、一様分布からの標本の最大値や、指数分布の最小値といった形で出てきます。損保数理の極値理論とも地続きの話題です。
タクティクス本文が「解説している参考書は少なく」と書いているとおり、この話題に章を割いている本は限られます。そこを第3章として立てている、というのがこの本の強みです。
一様分布の変数変換:p.137 の公式
上巻の連続型分布・一様分布の節では、過去問類題の解答の Point 欄でこの本が参照されています。
本解答の手法で提示した公式は、p.137掲載の「複数の確率変数の関数の分布」で示されている。
複数の確率変数から作った関数の分布を求める公式です。ヤコビアンを使う変数変換の一般形にあたります。解答で使った手順が本の公式に対応している、という形の参照なので、解答を読んで「なぜその変形でよいのか」が気になったときの参照先になります。
信頼区間:3ステップの型
下巻の過去問類題(2022年度 問題1(6))の補足で、信頼区間の作り方が p.197 に沿って提示されています。
未知のパラメータを含まない分布に従う、うまい統計量を見つける
その統計量が区間に入る確率が信頼係数(たとえば0.95)になるよう、区間の両端を決める
その不等式を、パラメータについての不等式に書き直す
この3ステップは、信頼区間を作る操作の骨格です。正規分布の平均の信頼区間のように公式を覚えて済ませる場面では意識しませんが、一様分布の最大値から区間を作るような問題では、この型がないと手が出ません。
実際にこの問題では、区間 $(0, 2\theta)$ 上の一様分布からの独立な標本 $X_1, \dots, X_n$ について、最大値 $M$ を $2\theta$ で割った $T = M/(2\theta)$ を統計量に取ります。独立性から
$$P(T \leq t) = t^{n} \qquad (0 \leq t \leq 1)$$
となり、この分布に $\theta$ が含まれていないことが効きます。「未知パラメータを含まない分布に従う統計量を見つける」という第1ステップが、そのまま解法の入口です。
手順が言語化されている本を1冊持っておくと、公式が使えない設定で止まらずに済みます。
弱点克服との役割分担
タクティクスの本文参照を集計すると、弱点克服は23か所で、確率とモデリングに集中し、統計側は0でした。この本は5か所で、うち3か所が統計側です。
推薦欄で2冊が並んで紹介されているのは、単に良書が2冊あるからではなく、カバーする領域が補い合っているからだと読めます。確率の演習量を積むなら弱点克服、統計の理屈を入れるならこちら、という分担です。
同じ著者の『分布からはじめる確率・統計入門』もライブラリーに入っています。そちらは確率分布を主役に据えた構成なので、目的が違います。
どの段階で使うと効くか
確率の計算はひととおり回るようになったが、統計に入ると急に手応えが薄くなる——という段階に向いています。
統計の分野は、推定・検定・区間推定と手順が決まっているぶん、手順だけ覚えて進めてしまいがちです。その状態だと、本試験で少し設定を変えられたときに止まります。何を仮定し、何を求めているのかを言葉で説明できるかどうかが分かれ目で、そこを埋めるための本です。
順序統計量については、タクティクスがはっきり参照先として挙げているので、この論点に当たったら該当章を読む、という使い方が素直です。
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まとめ
- 岩沢宏和『リスクを知るための確率・統計入門』(東京図書、2012)。タクティクスのおすすめ図書欄で2冊目に挙がる。
- 本文参照は5か所。順序統計量の章が2回、一様分布の変数変換、信頼区間の3ステップ、統計総合の章。
- 順序統計量については「解説している参考書は少なく」と本文が明記したうえで参照している。
- 信頼区間の作り方が3ステップに言語化されており、公式が使えない設定で効く。
- 弱点克服が確率側、この本が統計側。2冊で領域が補い合う構成になっている。