どんな本か

『弱点克服 大学生の確率・統計』(藤田岳彦、東京図書、2010)は、大学の教養課程で確率統計を学ぶ学生に向けた問題集です。

著者の藤田岳彦先生は、合格へのタクティクス 数学の監修者でもあります。タクティクスの前書きには、この本を含む著書や日本アクチュアリー会での講師としての活動に触れた謝辞が置かれています。同じ人が組み立てた教材なので、問題の選び方や解説の呼吸が揃っています。

タクティクス冒頭の推薦図書欄では、初心者向けではなく「やや数学ができる方向けの参考書」の1冊目として挙げられ、次のように紹介されています。

大学生のための確率統計問題集であるものの、モデリングの問題等も掲載されており、アクチュアリー試験で登場するテクニックなども多数掲載している名著です。

問題集なので、読む本ではなく解く本です。定義や定理の導入は最小限で、問題と解説が中心になります。

どの段階で使うと効くか

指定演習書と並行して使うのが基本です。

指定演習書の『確率統計演習1 確率』は1996年刊で、問題数は多いものの解説は簡素です。手が止まったときに別の説明を探すことになります。この本は、同じ論点をもっと現代的な言い回しと詳しい解説で扱っているので、詰まったところの受け皿になります。

一方、まったくの入門としては向きません。確率変数や期待値の定義から丁寧に入る本ではないので、確率統計に初めて触れる人は先に入門書を1冊通したほうが速い。ライブラリーの参考書一覧では、石村園子『すぐわかる確率・統計』や藤田岳彦『大学1・2年生のためのすぐわかる統計学』が初心者向けとして並んでいます。そちらを終えてからこの本に入る流れになります。

この本が強い論点

推薦文だけでは、どの分野で効くのかまでは分かりません。そこでタクティクス上下巻の本文をたどり、この本を参照している箇所をすべて拾いました。上巻11か所、下巻12か所の計23か所です。

参照先を分野ごとに並べます。

タクティクスの箇所 参照されている内容
第1章 離散型分布の導入 第3章 離散型分布に大量の問題がある
第1章 幾何・ファーストサクセス分布 問題21、22(2つの分布の見分け方の練習)
第1章 超幾何分布 問題27の2(3)(確率変数を分解して期待値と分散を出す)
第1章 離散型分布一般 問題11(トレーズ、つまり完全順列の解説)
第2章 連続型分布の導入 第4章 1次元連続確率分布に大量の問題がある
第3章 多次元の分布の導入 第5章 多次元確率分布に大量の問題がある
第3章 多次元ベータ分布 問題57
第5章 条件付確率 第5章 問題58〜62(条件付期待値・分散)
モデリング編 確率過程 問題81、82(ポアソン過程とブラウン運動)

分野を集約すると、こうなります。

  • 離散型分布・連続型分布・多次元分布の各導入部で、章まるごと「もっと練習したい場合はこちら」と案内されている
  • 条件付期待値・分散は、タクティクス側が「出題例はまだ少ないが計算力を上げるために」と指定している
  • 確率過程は、タクティクス側で「ポアソン過程の問題は出題例が少ない」とされている領域を、この本が問題数で補っている

タクティクスが問題の「量」を借りにいく先として使われている、という位置づけです。過去問だけでは練習量が足りない論点に対して、追加の演習を供給する役割を担っています。

とくに条件付期待値・分散と確率過程の2つは、過去問の蓄積が薄い論点です。過去問演習だけでは手数が積めないので、この本の該当箇所が実質的な代替になります。

逆に、この本では足りないところ

参照箇所の分布に、はっきりした偏りがあります。

23か所の参照はすべて、タクティクスの確率編とモデリング編にあります。統計編、つまり点推定・区間推定・検定・標本調査を扱う章からの参照は1か所もありません。

統計側でタクティクスが参照しているのは、指定演習書の『確率統計演習2 統計』と、ホーエル『入門数理統計学』が中心です。引用回数で見ると、上下巻を合わせて国沢統計が86か所、ホーエルが16か所。この本の統計部分が使われている形跡はありません。

したがって、この本1冊で数学の範囲を覆うことはできません。少なくともタクティクスは、統計側の演習をこの本に頼らない構成にしています。統計の推定・検定は指定演習書やホーエルなど、統計を主戦場とする教材で固めるのが安全です。

もう1点。この本は試験問題集ではないので、選択肢から選ぶ形式にも、180分で6問を配分する感覚にも対応していません。時間の使い方は過去問とタクティクスで別に作る必要があります。

ライブラリーの該当ページ

この本は、書籍ライブラリーのアクチュアリー第1次試験の参考書に「数学」として登録してあります。書名のリンクからAmazonの該当ページに移動できます。

同じページには、初心者向けの入門書から高校数学の立て直しまで、タクティクスが挙げている数学の参考書を並べてあります。この本が自分の段階に合うかどうか迷う場合は、そちらの並び順を目安にしてください。初心者向けを先に置き、やや数学ができる方向け、高校数学の立て直しの順に並べています。

まとめ

  • 『弱点克服 大学生の確率・統計』はタクティクス数学の監修者による大学生向け問題集。読む本ではなく解く本。
  • タクティクスが参照している箇所は上下巻あわせて23か所。離散・連続・多次元の各分布と、条件付期待値・分散、確率過程に集中している。
  • 過去問の蓄積が薄い論点に演習量を供給する役割。とくに条件付期待値・分散と確率過程で効く。
  • 統計編からの参照は1か所もない。推定・検定は指定演習書やホーエルなど別の教材で固める。
  • 入門書ではないので、確率統計が初めての場合は先に入門書を1冊通してから入る。