どんな本か

『基本確率』(玉置光司、牧野書店、1992)は、「経済の情報と数理」というシリーズの第2巻として出ている確率の教科書です。

タクティクスの漸化式の章の導入で、中上級者向けの参考書として挙げられています。

中上級者向けだと、『基本確率』あたりに取り組むのも良いでしょう。実際に過去問でも出題されたパーキング問題、職探し問題、クーポンコレクター問題なども解説されています。

同じ導入文で初級者向けとして挙げられているのは『合格る確率+場合の数』『解法の探求・確率』の2冊で、この本はその一段上に置かれています。

3つの古典問題

タクティクスが名指ししている3つは、確率論では名前の付いた古典的な題材です。

職探し問題は、秘書問題・お見合い問題とも呼ばれます。標準的な設定は、応募者の人数 $n$ が既知で、面接の順序が無作為(すべての順列が等確率)、相対的な順位だけが分かり、その場で採否を決めて後戻りできない、というものです。このとき最良の人を選ぶ確率を最大にする戦略は「最初の一定割合を見送り、それ以降で今まででいちばん良い人が来たら採る」という形になり、$n$ を大きくすると見送る割合が $1/e$ に近づきます。仮定を1つでも外すと最適戦略は変わるので、設定の読み取りが要ります。

パーキング問題は、区間に車を無作為に停めていったとき、最終的に何台停まるかを問う問題です。連続版(レニーの駐車問題)と、区画を離散的に扱う版があり、どちらを指すかで立てる式が変わります。いずれも「すでに停まっている車の間に入れるかどうか」で場合分けが生じ、積分方程式や漸化式が出てきます。

クーポンコレクター問題は、$n$ 種類のうち1種類が手に入る試行を繰り返し、全種類そろうまでの回数の期待値を求める問題です。各回の当たりが独立で、$n$ 種類が等確率という仮定の下では、答えは

$$n\left(1 + \frac{1}{2} + \cdots + \frac{1}{n}\right)$$

になります。括弧の中は調和数と呼ばれる有限和です。種類ごとの出現確率が違えば、この式は使えません。

いずれも名前は聞いたことがあるが解いたことはない、という人が多い題材でしょう。タクティクスは「実際に過去問でも出題された」と書いており、知識として知っているだけでは足りないことを示しています。

なぜ中上級者向けなのか

3つの問題に共通するのは、設定を数式に落とすところが難所である点です。

難しいのは、何を状態として置くか、どういう遷移を考えるかを決める部分です。標準的な確率漸化式の問題を型として身につけていないと、この段階で止まります。式が立ってしまえば見通しはよくなりますが、そこから先が常に機械的とは限りません。パーキング問題のように積分方程式になる場合は、解く側にも手間がかかります。

だから、初級者向けの2冊を先に、というのがタクティクスの並べ方です。標準的な漸化式が型として入ってから、この本に進むのが順序として自然でしょう。

「時間があれば」という前提

この本を含む3冊は、いずれも同じ前置きの下にあります。

時間があれば、という前提でですが……ただ数学試験の範囲はかなり広いこともあり、どこまでこの難問クラスの問題の準備をすべきかというと、まずは一通りの問題(本書上巻・下巻)をすべてクリアしたあとでもよいのかなと思います。

「本書上巻・下巻」と明記されているので、タクティクスを通しでクリアしてから、が前提です。試験範囲の記事で整理したとおり、数学の範囲は確率・統計・モデリングにわたり、統計側にも手を入れる必要があります。難問対策から入るのは順序が逆になります。

名前で引けるようにしておく

この本に取り組む時間が取れない場合でも、やっておく価値のあることがあります。3つの問題の名前と設定を結びつけておくことです。

本試験でこれらの題材が出るとき、問題文に「クーポンコレクター問題」と書かれるわけではありません。設定だけが与えられます。しかし、読んだ瞬間に「これはクーポンコレクター型だ」と分かれば、期待値を1回ごとの待ち時間の和に分解する、という方針がすぐ立ちます。

名前を知っていることの実利は、そこにあります。時間がなくても、設定と結論だけは押さえておく——という付き合い方もできる本です。

ライブラリーの該当ページ

参考書ライブラリーの数学に登録してあります。書誌情報と入手先へのリンクが確認できます。

まとめ

  • 玉置光司『基本確率』(牧野書店、1992)。タクティクスの漸化式の章で、中上級者向けの1冊として挙げられている。
  • 名指しされているのは、パーキング問題・職探し問題・クーポンコレクター問題の3つ。「実際に過去問でも出題された」と本文が述べている。
  • 3つとも難所は設定を数式に落とすところ。標準的な漸化式の型が入ってから進むのが順序。
  • 前提は「時間があれば」「本書上巻・下巻を一通りクリアしたあと」と本文に明記されている。
  • 取り組む時間が取れなくても、名前と設定と結論を結びつけておくだけで初動が速くなる。