数え方
平成12年度(2000年度)から令和7年度(2025年度)までの26年度分の過去問題集を対象に、分布の名前が登場した年度を数えました。
決めごとは4つです。
- 問題文と解答例の両方を対象にする。問題文が分布名を書かずに確率関数だけを与え、解答例で名前が出る形が多いため
- 巻末の付表(標準正規分布表・カイ2乗分布表・F分布表・t分布表)は除外する。毎年必ず載っているので、含めると順位が壊れる
- 1つの問題に複数の分布が出てきたら、それぞれ数える
- 同じ年度に何回出ても、その年度は1と数える。順位は「26年度のうち何年度に登場したか」で決める
- ポアソン過程やブラウン運動のような確率過程は、厳密には分布そのものではないが、モデリング分野の主要論点なので表に含めた(ポアソン過程はポアソン分布に合算、ブラウン運動は独立の行)
2000年度の過去問題集PDFにはテキスト層がないため、問題ページを画像で読んで手で入力しました。それ以外の25年度分は機械で集計しています。
ランキング
| 順位 | 分布 | 出現年度 |
|---|---|---|
| 1 | 正規分布 | 26/26 |
| 1 | 一様分布 | 26/26 |
| 3 | 指数分布 | 22/26 |
| 4 | ポアソン分布 | 16/26 |
| 5 | 二項分布 | 12/26 |
| 5 | カイ2乗分布 | 12/26 |
| 7 | t分布 | 10/26 |
| 8 | F分布 | 9/26 |
| 9 | ガンマ分布 | 8/26 |
| 9 | 幾何分布 | 8/26 |
| 9 | ブラウン運動・ウィーナー過程 | 8/26 |
| 12 | 負の二項分布 | 5/26 |
| 13 | 多次元正規分布 | 4/26 |
| 13 | 多項分布 | 4/26 |
| 15 | 超幾何分布 | 2/26 |
| 15 | ベータ分布 | 2/26 |
| 15 | ベルヌーイ分布 | 2/26 |
| 15 | 対数正規分布 | 2/26 |
| 15 | コーシー分布 | 2/26 |
| 20 | パレート分布 | 1/26 |
1位が2つある理由
正規分布が26年度すべてに登場するのは当然です。統計の推定と検定は正規母集団を前提に組み立てられているので、統計分野がある限り出ないほうがおかしい。
驚くのは、一様分布が同じく26年度すべてに登場していることです。
一様分布は、確率密度関数が定数という最も単純な分布です。それが毎年出るのは、単純だからこそ他の道具の土台に使われるからです。実際に出てくる文脈を並べると、こうなります。
- 図形の面積比で確率を出す問題。区間や三角形の中に点を一様に取る設定
- 変数変換の練習台。密度が定数なのでヤコビアンの効き方だけを見られる
- 順序統計量の入口。一様分布の順序統計量はベータ分布になる
- シミュレーションの逆関数法。一様乱数から任意の分布を作る
2025年度の問題1(2)は、就寝時刻と起床時刻がそれぞれ一様分布に従うとして睡眠時間の密度を求めさせるものでした。2000年度の問題3は、家を出る時刻と港までの所要時間がともに一様分布という設定です。四半世紀を隔てて、同じ骨格が使われています。
一様分布は「覚える公式が少ない分布」ですが、「出番が少ない分布」ではありません。むしろ、他の分布の性質を確かめるための実験台として毎年呼び出されます。
3位が二項分布ではない理由
離散分布の代表は二項分布のはずですが、登場は26年度中12年度にとどまり5位。3位は指数分布(22/26)でした。
指数分布が強いのは、接続点が多いからです。
- ポアソン分布と裏表の関係にある。件数を数えればポアソン、間隔を測れば指数
- 無記憶性を持つ唯一の連続分布。条件付き確率の問題にそのまま使える
- 独立な指数分布の最小値がまた指数分布になる。順序統計量や信頼性の問題で効く
- 和がガンマ分布になる。再生性と畳み込みの練習になる
- 指数母集団の母平均の区間推定でカイ2乗分布に接続する
1つの分布から他の分布へ道が伸びているので、問題が作りやすい。二項分布は正規近似とポアソン近似で使われるものの、単独の主役になる回数はそれほど多くありません。
なお、ポアソン分布は16/26で4位です。この数字にはポアソン過程を含めています。モデリング編の確率過程で扱われるので、確率編と両方から呼び出されます。
カイ2乗分布・t分布・F分布の順位には注意が要る
5位のカイ2乗分布(12/26)、7位のt分布(10/26)、8位のF分布(9/26)は、実際よりも低く出ている可能性があります。
理由は集計の技術的な制約です。2011年度以前の過去問題集PDFは、テキスト化すると数式まわりの文字が乱れ、ギリシャ文字や数式中の記号が落ちます。実際、$\chi$ という文字が本文から拾えるのは2012年度以降で、それ以前は0件でした。カイ2乗分布は名前で数える方法が使えず、t分布・F分布も、分布名が数式記号でしか現れない年度では同じように拾い損ねます。
そこで、別の語で確かめました。この3つの分布は必ず自由度を伴うので、「自由度」という語で数え直すと、26年度中25年度に登場します(拾えなかった1年度も、テキスト化が乱れた年度です)。「自由度」は回帰分析や検定など分布名を伴わない文脈でも使われる語なので、この数字は上限側の目安ですが、名前だけの集計よりは実態に近いはずです。
つまり、自由度を持つ分布の出題実態は、表の順位よりも上にあると見るのが妥当です。
同じ注意は他の分布にも当てはまります。この集計は分布の「名前」を数えたものなので、問題文が名前を伏せて確率関数だけを与える形は拾えません。数学の問題にはこの形が多いので、下位の分布ほど実際より低く出ていると考えてください。
学習の重みづけにどう使うか
上位4つ、正規分布・一様分布・指数分布・ポアソン分布で、確率分野の入口はほぼ埋まります。この4つについては、確率関数と分布関数、期待値と分散、積率母関数を、見た瞬間に書けるところまで持っていく価値があります。
次の層は、カイ2乗分布・t分布・F分布です。これらは統計分野の道具なので、単独で覚えるより「どの推定量がどの分布に従うか」という対応で覚えるほうが役立ちます。正規母集団では、不偏分散を母分散で割って$n-1$倍した量がカイ2乗、母分散が未知のときの標本平均の標準化量がt、2標本の不偏分散をそれぞれの母分散で割った比がF。この3本立てが統計の骨格です。
ガンマ分布・幾何分布・負の二項分布は、上位の分布の一般化として位置づけると覚える量が減ります。ガンマ分布は同じ率の独立な指数分布を$n$個足したもの、負の二項分布は同じ成功確率の独立な幾何分布を$n$個足したもの。足す個数$n$を1にすると元に戻ります。
下位の分布、超幾何・ベータ・対数正規・コーシー・パレートは、出たときに定義から計算できれば十分です。26年度で1、2回しか名前が出ていない分布に、上位と同じ時間を割く理由はありません。ただしベータ分布だけは、一様分布の順序統計量として顔を出すので、名前が出ない形での登場が多いことに注意してください。
まとめ
- 平成12年度から令和7年度までの26年度分を集計。順位は登場した年度数で決めた。
- 1位は正規分布と一様分布で、いずれも26/26。一様分布は他の道具の実験台として毎年呼ばれる。
- 3位は指数分布(22/26)。ポアソン・ガンマ・カイ2乗へ道が伸びていて問題が作りやすい。
- カイ2乗・t・Fの順位は低く出ている。2011年度以前はテキスト化で数式まわりの文字が落ちるため。「自由度」で数えると26年度中25年度に登場する。
- 上位4つは即答できる水準まで、下位は定義から計算できる水準まで。時間配分の目安になる。