その名前をどこで見るか

ベルヌーイの名前が出てくる場所は2つあります。

ベルヌーイ分布として。0か1しか取らない確率変数の分布で、$P(X=1) = p$、$P(X=0) = 1-p$ です。$Bin(1, p)$ と書いても同じものを指します。

$$E(X) = p, \qquad V(X) = p(1-p)$$

$X$ が0と1しか取らないので $X^2 = X$ です。したがって $E(X^2) = E(X) = p$ となり、分散は $p - p^2 = p(1-p)$。計算するところがほとんどありません。

もう1つがベルヌーイの定理としてです。大数の法則の最初の形を指します。成功確率 $p$ の独立な試行を $n$ 回繰り返したときの成功回数を $S_n$ とすると、任意の $\varepsilon > 0$ について

$$P\left(\left|\frac{S_n}{n} - p\right| > \varepsilon\right) \to 0 \qquad (n \to \infty)$$

試行を増やせば成功の割合が真の確率に近づく、という主張です。

教材とタクティクスを合わせて数えると、ベルヌーイの出現数は44回でした。

どんな人だったか

ヤコブ・ベルヌーイ(1655年生まれ、1705年没)はスイスのバーゼルの数学者です。

ベルヌーイ家は数学者を何人も輩出した家系です。弟のヨハン、その息子のダニエル。ヨハンとは業績をめぐって激しく争ったことでも知られます。ベルヌーイという名前が付いた定理や式が分野をまたいで複数あるのは、この家系のせいで、流体力学のベルヌーイの定理は別人(ダニエル)のものです。

ヤコブ自身は、微積分が生まれた直後の世代にあたります。ライプニッツの記法を早くから使い、変分法や級数の研究に業績を残しました。$e$ を複利計算の極限として扱ったのも彼です。

確率論についての仕事は『推測法』にまとめられました。ただしこの本は生前には出版されず、没後の1713年に刊行されています。

なぜその概念が必要になったか

『推測法』の第4部が、いま大数の法則と呼ばれている定理を扱っています。

現代の目から見ると、証明の必要があるように見えないかもしれません。サイコロを何度も投げれば1が出る割合は6分の1に近づく。当たり前ではないか、と。

当たり前ではなかった理由が2つあります。

1つは、確率という概念そのものが未整備だったことです。当時、確率には2つの捉え方がありました。先験的に決まるもの、たとえば対称な骰子の各面の確率は6分の1である、という捉え方。そして経験的に決まるもの、つまり多数回の観測から割合として求まるという捉え方。この2つが一致することは、証明されていない仮定でした。

ベルヌーイの定理は、この2つを橋渡しするものです。先験的な確率 $p$ を持つ独立な試行を繰り返すと、経験的な割合 $S_n/n$ が $p$ に近づく。だから、このモデルが当てはまる状況では、観測から確率を推定してよい。

もう1つは、証明の道具がなかったことです。「近づく」を厳密に書くには、どれだけ試行を増やせばどれだけ近づくかを不等式で示す必要があります。ベルヌーイは2項分布の項を直接評価してこれを行いました。チェビシェフの不等式を使えば数行で済む議論を、道具がないまま押し切ったことになります。

この仕事に20年をかけたと言われています。当たり前に見えることを証明するのに20年、と書くと奇妙に響きますが、当たり前だと感じるのは定理が確立した後の視点です。

試験ではこう出る

2001年度から2025年度までの25年度で、ベルヌーイという語が現れるのは2年度です。名前として出る回数は多くありません。

出番が少ないのではなく、名前が省かれます。ベルヌーイ分布は2項分布の特別な場合なので、問題文は2項分布として書きます。

実際に効く場面は、和への分解です。0と1しか取らない変数に分けると、期待値の計算が線形性だけで済みます。

例を挙げます。$n$ 個のうち $n_1$ 個が不良品のロットから $m$ 個を非復元抽出したとき、不良品の個数 $Y$ の期待値を求める問題があります。$Y$ が従う超幾何分布の確率関数から計算すると組合せの和になりますが、$i$ 番めが不良品かどうかを表す変数 $X_i$ に分解すれば

$$Y = X_1 + \cdots + X_m, \qquad E(Y) = m \cdot \frac{n_1}{n}$$

期待値の線形性は独立でなくても成り立つので、非復元抽出でも使えます。$X_i$ がベルヌーイ分布に従うことを使った計算です。

$X_i^2 = X_i$ という性質も繰り返し使います。分散を出すときに $E(X_i^2)$ を計算する必要がなく、$E(X_i)$ をそのまま使えます。

大数の法則そのものは、2001年度以降の数学では中心極限定理と組み合わせて出ます。独立同分布で分散が有限という試験の典型設定では、中心極限定理は「どれくらいのばらつきで近づくか」まで与えるので、大数の法則より詳しい情報を持ちます。試験で使うのはほとんど中心極限定理のほうで、大数の法則は前提として置かれます。

指定演習書の確率編では、第6章が大数の法則と中心極限定理、第7章が大数の強法則にあてられています。強法則は確率1で収束するという主張で、ベルヌーイの定理(弱法則)より強い形です。ここは範囲内ですが、出題は多くありません。

まとめ

  • ヤコブ・ベルヌーイ(1655年生・1705年没、スイス)は微積分が生まれた直後の世代の数学者。
  • ベルヌーイ分布は0か1しか取らない分布。$X^2 = X$ なので分散の計算が軽い。
  • ベルヌーイの定理は大数の法則の最初の形。先験的な確率と経験的な割合を橋渡しする。
  • 当たり前に見えるのは定理が確立した後の視点。証明の道具がないまま20年かけた仕事だった。
  • 過去問25年度で名前が出るのは2年度。名前は省かれるが、和への分解として繰り返し使われる。