その名前をどこで見るか

数学の教材でラプラスの名前が付いているものを挙げます。

ド・モアブル=ラプラスの定理です。2項分布 $Bin(n, p)$($0 < p < 1$)で $n$ を大きくすると、正規分布 $N(np,\ np(1-p))$ で近似できるという定理です。$X_n \sim Bin(n, p)$ と固定した $a < b$ に対して

$$P\left(a \leq \frac{X_n - np}{\sqrt{np(1-p)}} \leq b\right) \to \Phi(b) - \Phi(a) \qquad (n \to \infty)$$

ド・モアブルが $p = 1/2$ の場合を示し、ラプラスが一般の $p$ に拡張しました。だから2人の名前が並びます。

ラプラス変換です。損保数理の危険理論で破産確率を扱うときに出てきます。数学の範囲では直接は使いません。

ラプラス分布という分布もありますが、試験には出ません。

教材とタクティクスを合わせて数えると、ラプラスの出現数は23回でした。

どんな人だったか

ピエール=シモン・ラプラス(1749年生まれ、1827年没)はフランスの数学者・天文学者です。

本業は天体力学でした。太陽系の安定性、惑星の運動、潮汐。『天体力学』全5巻が主著です。ナポレオンの時代を生き、内務大臣を務めたこともあります。政権が変わるたびに立場を変えたことで、身の処し方については辛辣な評価もあります。

確率論については『確率の解析的理論』(1812年)があります。当時までの確率論を体系化した本で、ベイズの結果を一般化したのもこの流れの中です。

天文学者が確率論をやった理由は、観測誤差です。惑星の位置を何度も測ると値がばらつく。ばらついた観測から真の値をどう推定するか。この問いが、確率論と統計学の出発点の1つになりました。天体力学と確率論は、彼にとって別の仕事ではありません。

なぜその概念が必要になったか

ド・モアブル=ラプラスの定理が必要になった動機は、計算の実行可能性です。

2項分布の確率を正確に計算するには、組合せの数を作る必要があります。

$$P(X = k) = \binom{n}{k}p^k(1-p)^{n-k}$$

$n$ が小さければ計算できます。$n = 10$ なら組合せは3桁で済みます。ところが $n = 1000$ になると、$\binom{1000}{500}$ は300桁近い数になります。手計算の時代には実行できません。

しかも実務で必要なのは累積確率です。$P(X \leq k)$ を求めるには、この計算を $k+1$ 回繰り返して足すことになります。

そこで近似が必要になりました。ド・モアブルは、階乗の近似(スターリングの公式に相当するもの)を使って、$p = 1/2$ の場合に2項分布の形が指数関数で書けることを示しました。ラプラスがこれを一般の $p$ に広げました。

近似すると、計算が表を引くだけになります。標準化して正規分布表を引く。300桁の数を扱う必要がなくなります。

いま計算機があれば2項分布の確率は正確に計算できるので、近似の必要性は当時とは違います。それでも試験では正規近似が使われます。電卓が四則演算と平方根しかできないので、組合せの累乗を積み上げるより表を引くほうが速いためです。当時と同じ理由が、制約の形を変えて残っています。

試験ではこう出る

2001年度から2025年度までの25年度で、ラプラスという語が現れる年度は0です。1件もありません。

それでも正規近似は繰り返し使われます。中心極限定理という語で数えると25年度中18年度、正規近似という語でも複数年度に出ています。

出方は3つです。

2項分布の確率を正規近似で求める形。試行回数が大きく、成功確率が極端でないときに使います。「中心極限定理を用いて」という指示が付くことが多く、その場合はラプラスの定理を中心極限定理の特別な場合として扱っていることになります。

必要な試行回数を逆算する形。「差の平均が0.4以下となる確率を0.95以上にするには最低何回か」という問い方です。標準化して正規分布表の値と比べ、不等式を解きます。

連続修正が要る形。離散分布を連続分布で近似するので、半整数のずれを補正するかどうかで答えが変わることがあります。指示がなければ補正しない扱いが標準ですが、境界の値が問題になる設定では効きます。

近似の限界も押さえておきます。正規近似の精度を決めるのは $p$ の値そのものではなく、$np$ と $n(1-p)$ の大きさです。どちらかが小さいと分布が片側に偏り、離散性も強く残るので、正規近似は悪くなります。$p$ が小さく $np$ が中程度にとどまる状況では、ポアソン近似のほうが合います($p$ が1に近いなら、失敗回数の側に同じ考え方を使います)。

どちらの近似を使うかは、何を固定するかで決まります。$p$ を固定して $n$ を大きくすれば正規分布へ、$np$ を固定して $n$ を大きくすればポアソン分布へ。同じ「$n$ を大きくする」でも行き先が違います。

名前を知らなくても解けます。ただし、正規近似を独立した公式として覚えていると、$p$ が極端なときに使ってはいけないという判断ができません。中心極限定理の特別な場合だと理解しておくと、他の分布に対しても同じ判断ができます。

まとめ

  • ピエール=シモン・ラプラス(1749年生・1827年没、フランス)の本業は天体力学。確率論は観測誤差の扱いから入った。
  • ド・モアブル=ラプラスの定理は2項分布の正規近似。ド・モアブルが $p=1/2$ を、ラプラスが一般の $p$ を示した。
  • 動機は計算の実行可能性。組合せの数が桁数で扱えなくなるため、表を引く形に変えた。
  • 過去問25年度で名前が出るのは0年度。それでも中心極限定理として18年度に登場する。
  • $p$ を固定して $n$ を大きくすれば正規分布、$np$ を固定すればポアソン分布。行き先が違う。