その名前をどこで見るか
数学の教材でピアソンの名前が付いているものは3つあります。
ピアソンのカイ2乗検定、または適合度検定です。観測された度数と、仮説のもとで期待される度数を比べます。
$$\chi^2 = \sum_{i} \frac{(O_i - E_i)^2}{E_i}$$
$O_i$ が観測度数、$E_i$ が期待度数です。標本が十分大きければ、この統計量は仮説のもとで近似的にカイ2乗分布に従います。自由度は検定の型と、データから推定した母数の個数で決まります。
ピアソンの積率相関係数です。ふつう単に相関係数と呼ぶものがこれです。
$$\rho = \frac{Cov(X,Y)}{\sqrt{V(X)V(Y)}}$$
3つめがピアソン分布族です。分布を系統的に分類する枠組みで、ベータ分布やガンマ分布がこの中に入ります。試験では直接扱いません。
教材とタクティクスを合わせて数えると、ピアソンの出現数は28回でした。
どんな人だったか、そして2人いる
カール・ピアソン(1857年生まれ、1936年没)はイギリスの統計学者です。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで教えました。
もともとは応用数学と弾性論の研究者でした。統計に移ったのは、生物の測定データを扱う必要から生まれた流れの中でのことです。ゴルトンの影響を受け、生物測定学という分野を立ち上げました。学術誌バイオメトリカを創刊し、統計学を独立した学問として制度化した人物でもあります。
適合度検定の論文は1900年です。相関係数の定式化はそれより前になります。
ここで注意が必要です。エゴン・ピアソン(1895年生まれ、1980年没)は彼の息子で、同じくユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの統計学者です。ネイマンと共同で検定の最適性の理論を作りました。ネイマン=ピアソンの補題のピアソンは、父ではなく息子のほうです。
教材では単にピアソンと書かれることがあるので、文脈で判断します。適合度検定と相関係数なら父、ネイマン=ピアソンの検定の最適性理論なら息子。この区別だけ押さえておけば足ります(なお信頼区間の理論はネイマンの業績です)。
なぜその概念が必要になったか
適合度検定が必要になった背景は、データが分布に当てはまるかを判定したい、という実務的な要求です。
生物の測定データには、集団を年齢や性別で区切ると正規分布に近い形になるものがあります。身長がその代表例です。近いことは目で見て分かる。しかし「近い」を数値で言えるか。目で見て近いという判断は、人によって変わります。
ピアソンが用意したのが、観測と期待のずれを1つの数値にまとめる方法でした。カテゴリごとに観測度数と期待度数の差を取り、2乗して期待度数で割り、足し上げる。この量が大きいほど当てはまりが悪いことになります。
期待度数で割るところが要点です。度数が100のカテゴリで差が10あるのと、度数が10のカテゴリで差が10あるのとでは、意味が違います。期待度数で割ることで、規模を揃えて比べられるようになります。
そしてこの統計量が、仮説のもとで近似的にカイ2乗分布に従うことを示しました。分布が分かれば、どこから先を「当てはまりが悪い」と判定するかを確率で決められます。目で見た判断が、有意水準を伴う検定になりました。
同じ枠組みが独立性の検定にも使えます。2つの属性が独立という仮説のもとで期待度数を作り、観測度数と比べる。統計量の形は共通で、変わるのは期待度数の作り方と自由度の決め方です。
試験ではこう出る
2001年度から2025年度までの25年度で、ピアソンという語が現れるのは1年度だけです。2021年度です。
一方、適合度検定または独立性の検定が出た年度は11年度あります。名前が付かない形で、25年度のうち半分近くに出ていることになります。
出方を整理します。
適合度検定として。与えられた度数分布が、ある分布に従うという仮説を検定します。期待度数を計算し、統計量を作り、自由度を決めて棄却域と比べます。
独立性の検定として。分割表が与えられ、行と列の属性が独立かを検定します。期待度数は周辺度数の積を全体で割って作ります。
自由度の決め方が、この2つで違います。適合度検定では、カテゴリ数から1を引き、さらに推定した母数の個数を引きます。独立性の検定では、行数から1を引いたものと列数から1を引いたものを掛けます。
タクティクスの下巻は第18章を適合度・独立性等の検定にあてています。2つを別の検定として暗記すると自由度で必ず間違えるので、統計量の形が共通であることを押さえたうえで、自由度の決め方だけを分けて覚えるのが安全です。
分割表が2行2列の場合には、イエーツの補正という調整が入ることがあります。度数が小さいときにカイ2乗近似の精度を上げるための補正で、過去問25年度のうち1年度に現れています。
相関係数のほうは、統計分野で繰り返し出ます。2次元正規母集団の母相関係数の検定として、タクティクスの下巻に第19章が置かれています。
まとめ
- カール・ピアソン(1857年生・1936年没、イギリス)は生物測定学を立ち上げ、統計学を制度化した。
- 適合度検定の論文は1900年。観測度数と期待度数の差の2乗を期待度数で割って足す。
- 期待度数で割るのは規模を揃えるため。統計量が近似的にカイ2乗分布に従うことを示した。
- 息子のエゴン・ピアソンがネイマンと組んだ別人。適合度と相関係数なら父、検定の最適性なら息子。
- 過去問25年度で名前が出るのは1年度。適合度・独立性の検定では11年度に出ている。