その名前をどこで見るか

数学の学習を始めると、ポアソンという名前は毎日のように目に入ります。

まず確率編で、ポアソン分布として出てきます。

$$P(X = k) = e^{-\lambda}\frac{\lambda^k}{k!}, \qquad k = 0, 1, 2, \dots$$

次にモデリング編の確率過程で、ポアソン過程として再び出てきます。単位時間あたり平均 $\lambda$ 件の割合で事象が起きる過程で、区間 $[0, t]$ の件数が $Po(\lambda t)$ に従い、重ならない区間の件数どうしが独立になるものです。

さらに、2項分布 $Bin(n, p)$ で $np$ を一定に保ったまま $n$ を大きくすると、極限がポアソン分布になります。これをポアソンの少数の法則と呼ぶことがあります。

損保数理に進むと、クレーム件数の基本モデルとして最初から最後まで顔を出します。危険理論の複合ポアソンモデルは、そのまま彼の名前を冠しています。

指定教材とタクティクスを合わせて数えると、教材内での出現数は332回で、登場する数学者の中で最多でした。

どんな人だったか

シメオン・ドニ・ポアソン(1781年生まれ、1840年没)はフランスの数学者・物理学者です。

エコール・ポリテクニクに学び、ラプラスとラグランジュに直接指導を受けました。卒業後はそのまま母校で教え、以後は主にパリで研究生活を送りました。

本業は数理物理学でした。名前が残っているものを並べると、静電ポテンシャルが満たすポアソン方程式、解析力学のポアソン括弧、弾性体の変形を表すポアソン比。いずれも確率とは関係のない領域です。

確率論は、彼の仕事の中では一部にすぎません。あの分布も、確率論の体系を作ろうとして出てきたものではなく、ある具体的な社会問題を扱う途中で現れました。

なぜその概念が必要になったか

1837年、ポアソンは『刑事および民事の裁判の確率に関する研究』という著作を出しています。主題は、陪審が正しい判決を下す確率でした。

当時のフランスでは、陪審制度の設計が政治的な論点になっていました。何人の陪審員を置き、何票で有罪とすべきか。多数決の閾値を変えると、無実の人を有罪にする誤りと、有罪の人を無罪にする誤りのバランスが変わります。ポアソンは、これを確率の問題として扱おうとしました。

この文脈で必要になったのが、「多数回の試行のうち、めったに起きない事象が何回起きるか」の分布です。裁判の件数は多い。一方で、ある特定の誤りが起きる確率は小さい。$n$ が大きく $p$ が小さい、そして $np$ が中くらいの値に落ち着く。この状況で2項分布の極限を取ったものが、いまポアソン分布と呼ばれているものです。

$$\lim_{n \to \infty} \binom{n}{k}\left(\frac{\lambda}{n}\right)^k \left(1 - \frac{\lambda}{n}\right)^{n-k} = e^{-\lambda}\frac{\lambda^k}{k!}$$

つまり、この分布は最初から「まれな事象を大量の機会の中で数える」ための道具として生まれています。事故、火災、故障、クレーム。保険数理が扱う対象がほとんどこの形をしているのは偶然ではありません。

もっとも、この分布がすぐに広まったわけではありません。長く注目されないままだったものが実用に載ったのは、19世紀の終わりにボルトケヴィッチが『少数の法則』を著してからです。彼はプロイセン陸軍で馬に蹴られて死亡した兵士の数という、いかにもまれな事象のデータを集め、ポアソン分布がよく当てはまることを示しました。分布が生まれてから60年ほど経ってのことです。

裁判の誤審から始まり、馬の蹴りで実証され、いまは保険料率の計算に使われている。使われ方は変わりましたが、「まれな事象を数える」という骨格は最初から動いていません。

試験ではこう出る

2001年度から2025年度までの数学の過去問で、ポアソンという語が現れるのは25年度中15年度です。5年に3年ほどの割合で、名前がそのまま問題文に出ます。

出方には型があります。

確率関数を使って累積確率を出させる形。「合計して高々 $k$ 個の在庫を用意すれば70%以上の確率で対応できる」といった問い方で、$P(X \leq k)$ を積み上げます。このとき役立つのが漸化式です。

$$P(X = k) = \frac{\lambda}{k} \cdot P(X = k-1)$$

指数も階乗も作り直さずに次の項へ進めます。

再生性を使って2つの分布を1つにまとめる形。独立な $Po(\lambda_1)$ と $Po(\lambda_2)$ の和は $Po(\lambda_1 + \lambda_2)$ になるので、登場人物が2人いても1変数の問題に落ちます。

指数分布との往復を問う形。件数がポアソン過程に従うなら、事象と事象の間隔は指数分布に従います。「$\alpha$ 時間あたりのアクセス数は何の分布か」「アクセスの間隔は何の分布か」と続けて聞かれる出題があり、これは同じ現象を件数側と時間側から見ているだけです。

2項分布からの極限を確かめさせる形。$n$ が大きく $p$ が小さいときの近似として使わせるもので、ポアソン自身の出発点にいちばん近い問い方です。

推定・検定の側に回ることもあります。ポアソン母集団の母平均を区間推定させる出題では、近似法と精密法を比べさせる形が使われます。精密法ではカイ2乗分布との関係を経由します。

いずれも、確率関数を覚えているかではなく、どの表現に移し替えるかを問うています。名前を知っている分布ほど、往復のところで差が付きます。

まとめ

  • ポアソン(1781年生・1840年没、フランス)の本業は数理物理学。方程式・括弧・比にも名前が残る。
  • ポアソン分布は1837年の裁判の確率に関する著作で現れた。まれな事象を大量の機会の中で数える道具として生まれている。
  • 実用に載ったのは19世紀末、ボルトケヴィッチが少数の法則で実データに当てはめてから。
  • 数学の過去問では25年度中15年度に名前が登場する。累積確率・再生性・指数分布との往復・2項分布の極限が主な出方。