その名前をどこで見るか
ウェルチの検定として出てきます。2つの正規母集団の母平均が等しいかを検定するとき、母分散が等しいと仮定できない場合に使う方法です。
統計量は次の形です。
$$t = \frac{\bar{X} - \bar{Y}}{\sqrt{\dfrac{s_1^2}{n_1} + \dfrac{s_2^2}{n_2}}}$$
分母が、それぞれの標本分散を標本数で割って足した形になっています。2つを分けたまま扱います。
これに対して、母分散が等しいと仮定できる場合は、標本分散をまとめて1つの推定量にします。
$$s_p^2 = \frac{(n_1-1)s_1^2 + (n_2-1)s_2^2}{n_1 + n_2 - 2}, \qquad t = \frac{\bar{X}-\bar{Y}}{s_p\sqrt{\dfrac{1}{n_1}+\dfrac{1}{n_2}}}$$
この場合の自由度は $n_1 + n_2 - 2$ で、整数です。
ウェルチの検定では自由度が整数になりません。
$$\phi = \frac{\left(\dfrac{s_1^2}{n_1} + \dfrac{s_2^2}{n_2}\right)^2}{\dfrac{1}{n_1-1}\left(\dfrac{s_1^2}{n_1}\right)^2 + \dfrac{1}{n_2-1}\left(\dfrac{s_2^2}{n_2}\right)^2}$$
データから計算した値になるので、たいてい小数になります。表を引くために四捨五入します。
教材とタクティクスを合わせて数えると、ウェルチの出現数は18回でした。
どんな人だったか
バーナード・ルーイス・ウェルチは20世紀のイギリスの統計学者です。ロンドンのユニヴァーシティ・カレッジで研究しました。
2標本の場合のこの検定をウェルチが提案したのは1938年の論文で、1947年には複数群を含む形へ一般化しています。ネイマンとエゴン・ピアソンが検定の最適性の理論を作った同じ研究室の系譜にあたります。
人物としての情報は多くありません。取り上げられるのはほとんどこの検定についてで、他の業績が語られることは少ない。1つの手法で名前が残ったタイプです。
分散分析の文脈で同じ問題を扱ったウェルチの検定もあり、こちらは3群以上の平均を等分散の仮定なしに比べる方法です。試験で出るのは2群のほうです。
なぜその概念が必要になったか
背景にあるのは、ベーレンス=フィッシャー問題と呼ばれる問題です。
2つの正規母集団の平均が等しいかを検定するとき、母分散が等しいと仮定できれば話は簡単です。標本分散を合わせて1つの推定量を作り、自由度 $n_1+n_2-2$ のt分布と比べます。
問題は、母分散が等しいと仮定できないときです。このとき、統計量は厳密にはt分布に従いません。従う分布が、未知の母分散の比に依存してしまうからです。
比が未知なのだから、t統計量の分布が母分散の比に依存して確定しません。t分布表をそのまま使える形の厳密な検定が作れない、という状況です。
ウェルチが取った方針は、近似で済ませることでした。統計量の分布をt分布で近似し、自由度をデータから推定する。自由度をうまく選べば、t分布との一致がよくなります。
自由度の式は、統計量の分散を合わせるように決められています。分母に現れる量の分散が、対応するカイ2乗分布の分散と一致するように自由度を選ぶ、という考え方です。
だから自由度は整数になりません。整数である必要がないからです。カイ2乗分布は自由度を実数に拡張できるので、近似として実数の自由度を使っても構いません。
自由度が整数にならないこと自体が、この方法が近似であることを示しています。厳密な理論から出てきた整数の自由度とは、性格が違います。
試験ではこう出る
2001年度から2025年度までの25年度で、ウェルチという語が現れるのは3年度です。2017年度、2019年度、2022年度です。
2017年度より前には一度も出ておらず、出題は集計期間の終盤に集中しています。
出方には型があります。
2つの標本の平均の差を検定する形。標本数と標本平均と標本分散が与えられ、母分散が等しいと仮定できない場合として統計量を作り、自由度を計算して表を引きます。
先に母分散を検定する形。2つの母分散が等しいかをF検定で調べ、その結果によって使う方法を分ける、という手順です。2000年度(H12)の問題4がこの構成でした。母分散が等しいと言えるかを有意水準1%で検定し、次に「上記の結果にかかわらず等分散を仮定したとき」として母平均の差を検定させています。
この年度は等分散を仮定する側に誘導していますが、逆向きに誘導する出題ならウェルチの検定に進みます。
ある合格体験談は、暗記すべき範囲の一覧にウェルチの検定を含めていました。区間推定を母数が既知か未知か、精密法か大標本法かで場合分けできること、そしてウェルチの検定。この2つを並べて挙げていたので、場合分けの一部として位置づけていたことになります。
別の体験談は、過去問だけでは対応できない初めて見る形式の例として、ウェルチ検定とイェーツ補正とF分布の密度関数を並べていました。指定教材の隅にはあるが過去問には出ていない、という位置にあった論点です。2017年度以降に出るようになったので、この指摘は2017年度より前の状況を反映したものです。
タクティクスの下巻は第13章を2つの正規母集団の母数にあてています。等分散を仮定する場合とそうでない場合が同じ章の中に並ぶので、どちらを使うかの判断がそのまま問われる構成です。
つまずきやすいところ
分母の形を取り違えることが多い論点です。
$$\sqrt{\frac{s_1^2}{n_1} + \frac{s_2^2}{n_2}} \quad \text{(ウェルチ)}$$
$$s_p\sqrt{\frac{1}{n_1} + \frac{1}{n_2}} \quad \text{(等分散を仮定する場合)}$$
前者は分散を先に標本数で割ってから足し、後者はまとめた分散に $1/n_1 + 1/n_2$ を掛けます。$n_1 = n_2$ のとき、または $s_1 = s_2$ のときは両者が一致しますが、それ以外では一般に違う値になります。
自由度の計算も、分子が2乗になっていることを落としやすい。分子は括弧の中の和を2乗したもので、分母は各項を2乗して自由度で割って足したものです。
まとめ
- ウェルチの検定は、2つの母分散が等しいと仮定できないときの母平均の差の検定。2標本の場合の提案は1938年。
- 背景はベーレンス=フィッシャー問題。母分散の比が未知なので、t分布表をそのまま使える厳密な検定が作れない。
- 自由度が整数にならないのは、統計量の分散を合わせるように選んだ近似だから。
- 分母は分散を先に標本数で割ってから足す。等分散を仮定する場合とは形が違う。
- 過去問25年度で名前が出るのは3年度(2017・2019・2022年度)。2017年度より前には出ていない。