問題
出典は合格へのタクティクス 数学(上巻)第2章 連続型分布、2-2 指数分布の問題です。参考類題として 2021.1(2) が挙げられています。目標解答時間は7分。
ある携帯キャリアの通信利用料金は、月内の通信利用量が16(GB)以内であれば定額3000円である。しかし、16(GB)を超えると500円が定額料金に加算され、それ以降1GB増えるごとに500円がさらに加算されていく。携帯通信利用者の月内の通信利用量 $X$(GB)が平均8(GB)の指数分布に従うとき、通信利用料金月額の期待値を整数値で求めよ。なお、必要であれば $e = 2.718$ を用いてもよい。
まず何に着目するか
料金は階段状です。$X \leq 16$ なら3000円、$16 < X \leq 17$ なら3500円、$17 < X \leq 18$ なら4000円、と続きます。
定義どおりに期待値を作るなら、区間ごとに確率と料金を掛けて足すことになります。
$$E[\text{料金}] = 3000 \cdot P(X \leq 16) + \sum_{k=1}^{\infty} (3000 + 500k) \cdot P(16 + k - 1 < X \leq 16 + k)$$
この和は、$k$ が等差で並び、確率が等比で並ぶ形になります。等差かける等比の和なので、公比を掛けて1項ずらして引く、という操作が要ります。出せますが手数が多い。
別の見方があります。500円がいつ加算されるかを数え直します。
- $X > 16$ を満たしたら1回
- $X > 17$ を満たしたらもう1回
- $X > 18$ を満たしたらさらに1回
つまり、加算回数は「$X$ が超えたしきい値の個数」です。そして期待値は線形なので、加算回数の期待値は各しきい値を超える確率の和になります。
$$E[\text{加算回数}] = \sum_{k=0}^{\infty} P(X > 16 + k)$$
区間の幅を考える必要も、$k$ を掛ける必要もありません。等差の部分が消えて、ただの等比級数になります。
着目点は、階段状の量を「各段を超えたかどうか」の指示変数の和に分解することです。$X$ の値そのものではなく、しきい値ごとに1か0かを見る。
解法の筋道
指数分布の裾の確率を用意します。平均 $\lambda$ の指数分布なら
$$P(X > x) = e^{-x/\lambda}, \qquad x > 0$$
この問題では $\lambda = 8$ なので $P(X > x) = e^{-x/8}$。
分解の根拠を書いておきます。加算回数を $N$ とすると、$N$ は非負整数値なので
$$N = \sum_{k=0}^{\infty} \mathbf{1}\{X > 16 + k\}$$
右辺の各項は、条件を満たせば1、満たさなければ0を取る指示変数です。期待値を取ると、指示変数の期待値はその事象の確率そのものなので
$$E[N] = \sum_{k=0}^{\infty} P(X > 16 + k)$$
この関係は、非負整数値の確率変数について一般に成り立つ「期待値と裾の確率の関係」の一例です。
$$E[N] = \sum_{m=1}^{\infty} P(N \geq m)$$
方針が決まりました。$P(X > 16+k)$ を並べて、等比級数の和を取る。それだけです。
計算
各しきい値を超える確率を書き出します。
$$P(X > 16) = e^{-16/8} = e^{-2}$$
$$P(X > 17) = e^{-17/8} = e^{-2} \cdot e^{-1/8}$$
$$P(X > 18) = e^{-18/8} = e^{-2} \cdot \left(e^{-1/8}\right)^2$$
初項 $e^{-2}$、公比 $e^{-1/8}$ の等比数列です。公比は1より小さいので収束します。
$$E[N] = \sum_{k=0}^{\infty} e^{-2} \left(e^{-1/8}\right)^{k} = \frac{e^{-2}}{1 - e^{-1/8}}$$
したがって
$$E[\text{料金}] = 3000 + 500 \cdot \frac{e^{-2}}{1 - e^{-1/8}}$$
数値を入れます。$e = 2.718$ として $e^{-2} = 0.13536$、$e^{-1/8} = 0.88249$ なので
$$\frac{0.13536}{1 - 0.88249} = \frac{0.13536}{0.11751} = 1.15190$$
$$E[\text{料金}] = 3000 + 500 \times 1.15190 = 3000 + 575.95 = 3575.95 \fallingdotseq 3576$$
答えは3576円です。
平均通信量が8GBなのに対し、しきい値は16GB。平均の2倍を超える必要があるので、超過料金の期待値は576円と、定額の3000円に比べて小さくなっています。$e^{-2} = 0.135$、つまり16GBを超える人は13.5%ほど。その人たちの支払う超過分をならすと576円、という読み方ができます。
定義どおりに計算するとどうなるか
短い道を通ったので、長い道も見ておきます。区間ごとに切る方法です。
$$P(16 + k - 1 < X \leq 16 + k) = e^{-(16+k-1)/8} - e^{-(16+k)/8} = e^{-(16+k)/8}\left(e^{1/8} - 1\right)$$
この区間に入ったときの超過料金は $500k$ 円なので
$$E[\text{超過分}] = \sum_{k=1}^{\infty} 500k \cdot e^{-(16+k)/8}\left(e^{1/8}-1\right) = 500 e^{-2}\left(e^{1/8}-1\right) \sum_{k=1}^{\infty} k \left(e^{-1/8}\right)^{k}$$
残った和が等差かける等比です。$r = e^{-1/8}$、$S = \sum_{k=1}^{\infty} k r^k$ とおいて、公比を掛けて引きます。
$$S - rS = r + r^2 + r^3 + \cdots = \frac{r}{1-r}$$
$$S = \frac{r}{(1-r)^2}$$
代入すると
$$E[\text{超過分}] = 500 e^{-2}\left(e^{1/8}-1\right) \cdot \frac{e^{-1/8}}{\left(1 - e^{-1/8}\right)^2}$$
ここで $\left(e^{1/8}-1\right) e^{-1/8} = 1 - e^{-1/8}$ に気づけば、分母と1つ約分できて
$$E[\text{超過分}] = \frac{500 e^{-2}}{1 - e^{-1/8}}$$
同じ式に戻りました。答えも3576円で一致します。
2つの道の差は、等差かける等比の和を経由するかどうかだけです。しきい値を超える確率を足す道では、その山を最初から迂回しています。
つまずきポイント:しきい値を超える確率を、区間の確率と取り違える
$P(X > 16 + k)$ と $P(16 + k < X \leq 17 + k)$ は別物です。
$$E[N] = \sum_{k=0}^{\infty} P(16+k < X \leq 17+k) \quad \text{(これは誤り)}$$
$$E[N] = \sum_{k=0}^{\infty} P(X > 16+k) \quad \text{(正しい)}$$
誤ったほうの和は、区間が重ならずに全体を覆うので、単に $P(X > 16) = e^{-2} = 0.135$ になります。料金はおよそ $3000 + 500 \times 0.135 \fallingdotseq 3068$ 円(四捨五入)。正解の3576円とは500円以上ずれます。
なぜ裾の確率のほうを足すのかは、二重に数えることが意図されている、と理解するのが早道です。$X = 19.5$ の人は、$X > 16$ でも $X > 17$ でも $X > 18$ でも $X > 19$ でも数えられ、合計4回。実際この人の超過料金は $500 \times 4 = 2000$ 円です。重複して数えることが、そのまま加算回数を数えることになっています。
区間で切る発想は、値そのものの期待値を求めるときの癖です。ここで求めているのは値ではなく回数なので、切り方が変わります。「何回加算されるか」と読み替えた時点で、裾の確率を足す形が自然に出てきます。
本試験ではこう問われる
原問は2021年度 問題1(2)です。数値が3か所違います。
ある携帯通信キャリアの通信利用料金月額は、月内の通信利用量が20 (GB)以内であれば定額2,000円、20 (GB)を超えると500円が定額料金に加算され、それ以降1 (GB)増えるごとに500円がさらに加算されていくという。携帯通信利用者の月内の通信利用量 $X$ (GB)が平均4 (GB)の指数分布に従うとき、通信利用料金月額の期待値に最も近い数値は◻円である。なお、必要であれば、$e = 2.718$ を用いてよい。
しきい値20GB、定額2,000円、平均4GB。同じ式に入れます。
$$E[\text{料金}] = 2000 + 500 \cdot \frac{e^{-20/4}}{1 - e^{-1/4}} = 2000 + 500 \cdot \frac{e^{-5}}{1 - e^{-1/4}}$$
$e^{-5} = 0.0067414$、$e^{-1/4} = 0.77882$ なので
$$2000 + 500 \times \frac{0.0067414}{0.22118} = 2000 + 500 \times 0.030480 = 2015.24$$
選択肢は2,003から2,025まで2ないし3刻みで10個並んでおり、正解は (F) の2,015です。
原問のほうが超過分は小さくなっています。平均4GBに対してしきい値が20GB、つまり平均の5倍。$e^{-5} = 0.0067$ なので、しきい値を超える人は0.7%しかいません。類題の13.5%と比べると桁が違います。
しきい値を超える確率 $e^{-(\text{しきい値})/(\text{平均})}$ が、しきい値が平均の何倍かで決まる、という構造が両方に共通しています(超過料金の期待値全体には、1GBごとの加算回数に効く分母 $1 - e^{-1/\text{平均}}$ も影響します)。類題は肩が2、原問は肩が5。
選択肢の刻みが2から3円と細かいので、$e$ の値を丸めすぎると隣の選択肢に着地します。問題文が $e = 2.718$ を指定しているのは、その桁まで揃えさせるためです。真の $e$ で計算すると2015.23、$e = 2.718$ で2015.24。どちらも同じ選択肢に入りますが、途中で3桁に丸めると危うくなります。
まとめ
- 階段状の料金は、各しきい値を超えたかどうかの指示変数の和に分解する。
- 加算回数の期待値は、各しきい値を超える確率の単純和。等差かける等比の山を迂回できる。
- $P(X > 16+k)$ は初項 $e^{-2}$、公比 $e^{-1/8}$ の等比数列。和は $e^{-2}/(1 - e^{-1/8})$。
- 区間の確率を足すのは誤り。しきい値を超えるたびに重複して数えるのが正しい。
- しきい値を超える確率は、しきい値が平均の何倍かで決まる。類題は肩が2で3576円、原問(2021年度)は肩が5で2,015円。